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安易な入所は「必ず」後悔する

人には誰しも「苦手なタイプ」というものがある。声が大きい人、清潔感に欠ける人、話が長い人……。

そして老人ホームに入るということは、それぞれの「苦手なタイプ」と一緒に暮らすことになる危険をはらむ。この先10年の人生で気の合う入居者や職員と過ごせるかは「運頼み」なのである。

2年前に都内の有料老人ホームに入居した鈴木進治さん(72歳・仮名)は、その意味で運が悪かった。入居一時金が400万円、月々の利用料は13万円ほどの小奇麗な施設だったのだが―。

「元大企業の役員だったAさんはプライドが高い人で、とにかく馬が合いません。先日もAさんが『あんた、手を消毒してないだろ』と突っかかってきて、口論に発展しました。

Aさんの仲間も多く、一挙手一投足まで見張られている感じがして、共用スペースで過ごすのが苦痛に感じられるようになりました」(鈴木さん)

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これだけならまだ、うまく距離をとればいいと思われるだろう。しかし輪をかけて厄介なことに、鈴木さんは施設のスタッフとの相性も最悪だった。

「職員のBさんは性格も温厚で評判もいいのですが、『おじいちゃん、お食事しましょうね』と大声でゆっくりと話しかけてくるのです。私は耳が遠いわけでもないし、『バカにしているのか』と思ってしまう」(鈴木さん)

確かに老人ホームの職員は優しい。しかしその過剰な優しさが、鈴木さんにとっては不快だった。

人によっては、さらに過酷な人間関係に直面することになる。職員から暴力を振るわれる、無視をされる、嫌がらせを受ける。

こうした虐待の件数は'06年にわずか54件だったが、'18年には621件まで増加。他人同士が長時間共に過ごす以上、軋轢が生まれてしまう。

いざ老人ホームから離れようと思っても、自宅を手放して高額な入居一時金を払ってしまっていれば、帰る場所もない。

人間関係が悪くなかったとしても、老人ホームでの生活自体が閉鎖的で、ストレスを伴うものであることも忘れてはいけない。埼玉県の老人ホームに暮らす藤田聡さん(69歳・仮名)は語る。

「外出できるのは17時までで、夕食は18時に一斉スタート。メニューも変わり映えがしない。ビールも、スタッフから『これ以上飲んではいけません』と細かく注意されるので、一日1本までしか飲めない」

妻との死別後、生活の面倒を見てくれる安心感から老人ホームに入る人もいる。しかし、自由な生活のありがたさは失って初めて気づくものだ。ギリギリまで自分で暮らす気楽さを手放してはいけない。

「要介護認定を受けていたとしても、ヘルパーさんの世話になりながら住み慣れた自宅で生活していくことは十分可能です。

『新たな世間』である老人ホームに入所を決める前に、そこでの生活に自分が馴染めるのか、体験宿泊などを通じて落ち着いて考える必要がある」(住生活コンサルタントの大久保恭子氏)

安易な入所は必ず後悔する。

『週刊現代』2021年4月10日・17日合併号より