『伊藤家の晩酌』〜第十八夜2本目/燗につけておいしさ倍増!「丹沢山 純米吟醸 若水 ひやおろし」〜
弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第十八夜のテーマは秋だけのお楽しみ「ひやおろし」。2本目は父も気に入った神奈川県のお酒。(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第十八夜2本目は、燗酒で抜群のおいしさを発揮する「丹沢山 純米吟醸 若水 ひやおろし」。
神奈川県足柄郡で川西屋酒造店の代表銘柄「丹沢山」。足柄産の酒造好適米「若水」、丹沢山の恵みの水から生まれた、本当においしいと思える酒。
「丹沢山 純米吟醸 若水 ひやおろし」720ml 1870円(税別・ひいな購入時価格)/合資会社川西屋酒造店
娘・ひいな(以下、ひいな)「前からさ、神奈川県のお酒に興味があったんだけどね」父・徹也(以下、テツヤ)「一緒に『天青』の蔵に行ったもんな」ひいな「そうそう。熊澤酒造にも行ったもんね。前に飲食店でね、今日紹介する『丹沢山』の冷酒に煮付けを頼んだことがあったの。それで、このお酒は食中酒なんだなって実感したのね」テツヤ「いいね、いいね」ひいな「それで、『丹沢山』をいろいろ試しているうちに、これはお燗がめっちゃおいしいぞ、ってなって。それで今回お燗で飲んでほしいと思って」テツヤ「何度くらいがいいの?」ひいな「45度くらいかな? 前に出ていただいた〈住吉酒販〉の早乙女さんに、熱燗の作り方を教わってるところなの」テツヤ「へぇ、どうやるの?」ひいな「ちょうどいい温度帯だとべっこう飴の香りがするって前に話したことがあるんだけど」テツヤ「あった、あった!」ひいな「べっこう飴の香りになる前に、アルコールが気化する香りがあって、そこからべっこう飴に変わる瞬間が一番おいしいらしくて」テツヤ「なるほど、だからさっきから匂いを嗅いでるんだな」ひいな「いま最適な温度を探してる」
べっこう飴の香りがするまで温めます。
48度くらいで、香りが香ばしく変化した!
テツヤ「いま何度?」ひいな「48度。上燗くらいかな。いまいい感じだと思う」テツヤ「アルコールの感じからべっこう飴に変わるんだな」ひいな「そう」テツヤ「香りが変化するまでに、まぁまぁ時間かかるってことだよね?」ひいな「うん、そうだね」テツヤ「べっこう飴の香りっていいよねぇ。甘くて、香ばしさもあって」ひいな「だからこのお燗は平盃マストで!」
香りを楽しむためにも、平盃で。
では、いただきます!
口の中に広がる米の旨み。燗酒ならではの香りも鼻を抜けていきます。
テツヤ&ひいな「乾杯!」テツヤ「おぉ、うま〜い!!! こういうことか! アルコール臭さがまったくないね」ひいな「ないでしょ?」テツヤ「なるほどなぁ。すっごく、ちょうどいいバランスだね。角が取れて、まろやかで甘みも引き立って。いいところしか感じない!」ひいな「この燗、ヤバいでしょ?」テツヤ「うまい。本当にうまい」ひいな「この燗酒に何を合わせようか、すごく迷ったの」テツヤ「何でも合いそうだけどね。何がいいんだろう? 料理の旨みを足す感じかな?」
「丹沢山 純米吟醸 若水 ひやおろし」に合わせるのは、秋らしい「丸十のだし煮」。
つやっと輝く、丸十(サツマイモ)のだし煮。
ひいな「丸十のだし煮です」テツヤ「ん? サツマイモ?」ひいな「そう。薩摩藩を治める島津の家紋が、サツマイモの形に似てるっていうことで『丸十』って言うみたい」テツヤ「へぇ」ひいな「懐石の八寸では、定番なの」テツヤ「サツマイモをだしで煮てあるんだな」ひいな「丸十のレモン煮とかもあるよ。今回は両方作ってみたんだけど、レモン煮はバチくそ合わなくて」テツヤ「バチくそ……(笑)」ひいな「なので、このお酒にはだし煮が合うと思う!」

テツヤ「いただきます! うぅ〜ん! うまい! これだけでうまい!」ひいな「おいしいでしょ?」テツヤ「だし煮って初めて食べたかも。そもそもサツマイモが好きじゃないからさ」ひいな「えぇーーー! 初めて知った……」テツヤ「サツマイモもカボチャもあんまり好きじゃなんだよな。だったらジャガイモのほうがいい。でも、これはうまい。お酒とも抜群に合う。よく見つけたね。これは発見だよ!」ひいな「でしょ?」テツヤ「だし煮ってこんなにうまいんだね。焼きイモよりうまいかも。もうさ、この組み合わせを見つけるなんて、ひいなは探検家だよ」ひいな「ありがとう。これはいい発見だったなって久しぶりに思った」テツヤ「これは、何のだし?」ひいな「煮干しとお酒、みりん、少しのお砂糖で煮てみました」テツヤ「サツマイモって秋のイメージあるよね」ひいな「そう、今回は秋の食材と秋の酒のひやおろしを合わせるっていうのがもうひとつのテーマだったりする」

テツヤ「冷酒と燗酒で、どう違うのか試してみたい。あぁーー! 普通に冷酒でもおいしいお酒なんだね。でも、燗にしたほうが……」ひいな「映えるよね」テツヤ「そうそう。好きな味だわ」ひいな「でしょ? そもそもおいしいお酒なんだよね。もう1本、家用に買ってあるんだけど、もうほんのちょっとしか残ってなくて。銘柄伏せてお父さんに飲ませてたんだよね」テツヤ「え、マジで? なんかいつのまにか毒盛られてるみたいな感じだな(笑)」ひいな「(笑)。これおいしいんだよ、とか事前に言っちゃうと、先入観が植え付けられちゃうかなと思って」テツヤ「俺なんて言ってた?」ひいな「おいしいねぇってちゃんと言ってたよ」テツヤ「最近飲んだなかでは、好きな味だよ、これ」ひいな「これが神奈川のお酒っていうのが何よりいいなと思ってて。こんな近くに、こんなおいしいお酒があるっていうね」テツヤ「これ、本当にうまいよ。久々に衝撃受けたかも」
びっくりするほどお酒と合わないという、丸十のレモン煮も合わせてみたら……?

ひいな「使っている酒造好適米が『若水』っていうんだけど、神奈川県でもっとも稲作に適していて、昔は皇室の献上米になったこともある足柄地域で作られてるお米なんだって。この若水の栽培は、この川西屋酒造店が先頭となって育て始めたらしくて。この酒蔵のモットーとして、おだしに合うものをしっかり造ればおいしいお酒だって言ってるの」テツヤ「蔵がだしと合うって言ってるんだ!」ひいな「そう。素直に従ったら、やっぱり正解だったね」テツヤ「ね」ひいな「これがいかに、だし煮に合うのかを知ってもらうために、レモン煮もご用意しました!」テツヤ「え(笑)? 合わない方も体験して、どう合わないかも確かめるなんて、新しい展開だね。でも確かに、比較してみないとわからないもんね」ひいな「レモン煮自体はね、めちゃくちゃおいしくできたの。だから、まずレモン煮を食べてほしいんだよね」テツヤ「了解。色がぜんぜん違うね。黄色だ! うん、うまい。さっぱりして、ちょっと苦味もあって」ひいな「今度はお酒と合わせてみて。びっくりするほど合わないから」テツヤ「うわっ。渋くなった。苦いーーー! これは喧嘩してるよ」ひいな「うぇーって感じだよね。舌がもわもわする感じ」テツヤ「これはショッキングな味だね。だしが一番だね」ひいな「ね。和洋中なんでも合うっていうよりは、洋食と中華はたまたま合えばいいって言ってる蔵元さんの意見がちょっとわかった気がした」

テツヤ「だしなんだね、やっぱり」ひいな「うん。確信した」テツヤ「だしのまろやかさが、お酒のやさしい感じと合ってるよね。でもこれ、ジャガイモじゃないね。サツマイモが合うんだね。肉じゃがよりサツマイモの甘みが合うよなぁ」ひいな「ちなみにこのお酒の酵母は、協会701号酵母なの」テツヤ「あれ? さっきは確か7号酵母じゃなかった?」ひいな「7号の泡なし酵母っていうのがあってね」テツヤ「泡なし?」ひいな「そう、もろみの段階で“高泡”という泡が立たない酵母に“01”ってつけるんだって。協会7号酵母から派生した泡なし酵母だから701号酵母ってことになるらしい」テツヤ「今回は7号しばりなの?」ひいな「7号系ってことだね。でも、ぜんぜん味も違うし、おもしろいよね」テツヤ「これはすごくいいお酒だった! 飲んでみないとわからないもんだねぇ」
次回:11月8日(日)更新予定

【ひいなのつぶやき】温かいおだしと『丹沢山』だけでも、晩酌が豊かなものになります!ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中

