日本製品不買と日本依存の間で

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不買運動のアピールで使われた横断幕を韓国で印刷できる機械も日本製

 最低賃金アップによる失業率の上昇、不動産バブルなど、文政権の失政は少なくない。日本によるホワイト国からの除外に対する報復として、日本製品不買運動などが展開されてきたが、その一方で、医療、印刷など、日本依存なしには立ち行かない分野も多いという。その実態を描写する。

 韓国貿易協会のデータによると、2018年、韓国の日本からの輸入額は546億400万ドルで、19年は11・48%減の475億8100万ドルだった。

 19年7月から日本製品不買運動がはじまり、個人向け消費財が大幅に落ち込んだが、日本の韓国向け輸出は94%を資本財が占め、消費財は6%程度。

日本製品不買と日本依存の間で

 不買運動は7月からはじまったので、影響を受ける輸出品は最大でも3%程度、実際の影響は0・2〜0・8%程度とみられている。

 19年8月、日本政府は韓国を旧ホワイト国リストから除外して、グループAからグループBに変更した。

 グループAに輸出する対象品目は、いったん審査を通過すると最大3年に亘って輸出審査が免除される包括審査。

グループBは輸出するたびに審査する個別審査が原則で、輸出自体は継続する。

 日本企業の韓国向け輸出は、サムスン、LG、現代などグローバル企業の素材や原料、部品が多くを占める。半導体を製造する機械も日本製だ。

 対象品目を輸入している韓国企業は、審査時間が長くなることを想定し、前倒しで発注して在庫を積み上げるなど、日本企業の受注はむしろ増えている。

工場内で「MITSUBISHI」のロゴが確認できる

 文在寅政権発足後、韓国を脱出して海外に生産拠点を移す例が増えている。

 サムスンがベトナムに生産の一部を移転すると、サムスンと取引が濃い企業もまたベトナムに移転した。

建築作業員はマキタの電動工具を好んで使用する

 文在寅政権が最低賃金を高騰させて、労働時間週52時間制を導入し、サムスンとは関係ない企業も次々とベトナムをはじめ、東南アジアに移転した。

 日本の韓国向け輸出の大幅減は、不買より韓国向け輸出が東南アジア向けに変わった影響がはるかに大きい。

 日本依存が高いのはグローバル企業だけではない。

小森コーポレーションの機械も

 医療は日本製機器が多い分野である。

 オリンパスは、今年6月24日、映像事業を分割して譲渡すると発表した。

 これに先立つ今年5月20日、翌月末で個人向けがメインのカメラの販売終了を発表した韓国オリンパスは、韓国医療機関の内視鏡で圧倒的なシェアを持っている。

 X線コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)など大型医療機器も多くの医療機関が日立、東芝、シスメックスなど日本製を使用している。

 小型の電子医療機器はオムロン製がほとんどだ。

 体に良くないものを好んで食し、原料が不明な焼酎をガブ飲みする韓国人の健康は、日本の医療機械に見守られている。

 文在寅政権は、不動産の高騰で支持率が低迷し、住宅供給を増やす必要に迫られているが、建築もまた日本企業が支えている。

「乙支路(ウルチロ)」の印刷通り

 韓国の建築作業員はマキタの電動工具を好んで使用する。

 日頃から韓国製品を愛用し、韓国産の食材にこだわるなどナショナリズムに凝り固まっている作業員ですら、現場ではマキタを使用する。

 ある建築作業員は、マキタの電動工具は最高というより唯一の選択肢だと話している。

 韓国の大都市は集合住宅が主流だが、地方は戸建てのニーズが少なくない。戸建て住宅の材料である木材も多くを日本のプレカットに依存している。

日本が統治時代に持ち込んだJIS規格を採用している

 印刷業は日本依存が圧倒的に高い。

 私ごとで恐縮だが、仕事柄、日本で15年近く、韓国でも長年、印刷と深く関わってきた。

三菱なしには立ち行かない製紙・印刷

 国際的な紙の規格はISOのA列、B列、C列で、日本はJIS規格のA列とB列を使用している。

日本と並ぶ印刷先進国の米国とドイツも独自規格を持っている。韓国は日本が統治時代に持ち込んだJIS規格を採用している。

 世界最古の印刷は中国というのが定説だが、現存する印刷物で年代が確定している最古のものは奈良の法隆寺等に保管されている仏教経典で、近代印刷はドイツのグーテンベルグが発明したといわれている。

 グーテンベルグの近代印刷は幕末の日本に伝わり、統治時代、日本が韓国に持ち込んだ。

 商業印刷機は、日本、ドイツ、米国が世界市場を独占している。

 韓国の製紙と印刷は日本の技術を踏襲しており、三菱重工業(現・リョービMHIグラフィックテクノロジー)が圧倒的なシェアを持ち、小森コーポレーションが続いている。

 ドイツのハイデルベルクは韓国に拠点を置いているが、韓国の印刷工場は国内に拠点がない三菱や小森を選択する。

 印刷機械を購入する工場主は、三菱製中古機械の情報を求め、購入が決まると広島に出向いて三菱の工場で研修を受ける。

韓国の印刷用語も日本語が定着している

 また韓国の印刷用語も日本語が定着している。

 JIS-A列の印刷物は菊判、B列は四六判の印刷用紙を使用するが、韓国も日本と同じサイズが基本で、菊判、四六判と呼んでいる。

 菊判は明治中頃、米国から輸入した洋紙のサイズで、商標のダリアが菊に似ていたことから名付けられたといわれている。

 四六判も元は英国から輸入した用紙のサイズで、4寸×6寸の書籍に適していたことから四六判と名付けられた。

 いまでは日本固有の規格だが、韓国の印刷業や製紙メーカーは日本規格が基本である。

 菊判や四六判、無線綴、中綴を韓国では、ククバン、サユクバン、ムソン、チュンチョルなどと読む。漢字の韓国語読みである。

 トンボ、ハリコミ、ドンテン、シオリは日本の印刷用語だが、韓国ではそれをそのまま専門用語として使っている。
 
 本の背はセネカという。背中を聞き間違えたようだが、聞き間違えた語が定着している。モチコミやクルマもある。クルマは印刷物等を運ぶ台車で、韓国印刷業界固有の用語である。

 日本でオンデマンドと呼ばれている商業用デジタル印刷は、当初は米HPが多くを占め、インディゴと呼ばれているが、近年、富士ゼロックスがシェアを伸ばしている。

 デジタル印刷機はオフセットに比べて耐用年数が短く、習得期間も短いため、入れ替えるタイミングでHPから富士ゼロックスに替える例も少なくない。

 インディゴは米HP社の商品名だが、富士ゼロックスのインディゴと呼ぶ例すらある。

韓国製紙メーカーのFSCリサイクル紙シェアが大きい理由

 米国に輸出する家電のパッケージなどで増えているFSCリサイクル紙は、韓国の製紙メーカーが大きなシェアを持っている。

 米国製紙会社が販売するFSCリサイクル紙も韓国メーカーが生産するOEMが多い。

 FSCは森林資源を守る目的で、伐採から流通加工まで基準を満たす用紙を森林管理協議会が認証している。

 FSCリサイクル紙の要件は、印刷製本加工を施した後、回収されたFSC認証紙である。

 消費者の手に渡ってから回収された古紙がFSC認証紙かどうかを見分けることは不可能なため、印刷・製本加工を施した後、消費者の手に渡らない不良品が原料となる。

 日本は世界トップレベルのリサイクル紙大国だが、FSCリサイクル紙の原料となる不良品が極めて少なく、生産はほとんど行われていない。

 不良品が多く原料の回収が容易な国でないと生産は難しい。

 不買運動のアピールで使われた横断幕を韓国で印刷できる機械は武藤工業製かブラザー製に限られる。

 最近、収益性が低く日本企業が手を出さない小型スティッカーや大型横断幕。それらの印刷には中国製の機器が目につくが、主要部品は日本製を使用している。

 不買運動をアピールしてきた記事に使われた写真を撮影したのはキヤノンとニコンのカメラで、テレビカメラはソニーとパナソニック、ポスターや横断幕も日本製品の独壇場なのだ。

佐々木和義(ささき・かずよし)
広告プランナー。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、住宅・不動産広告等のプランナー兼コピーライターを務めた。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い駐在員として2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、広告制作会社PLUXの設立に参画し現在に至る。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月17日 掲載