【高橋 愛子】コロナ禍で「月14万の住宅ローン」が払えなくなった60代男性の悲劇 「ゆとりローン」の罠

写真拡大 (全3枚)

28年間、高い金利を払ってきたのに…

地方都市に住むYさんは現在68歳。

40歳の時に新築の一戸建てを3200万円で買った。頭金は1割程度、住宅ローンは3000万円組んだ。

金利は、当初5年は3.5%だったが、5年目以降は4.5%になった。毎月の返済は14万円ほどで何とか払えてきた。

〔PHOTO〕iStock

借り入れ当初は、65歳で定年し、退職金で一部繰り上げ返済をしようと考えていた。ところが、想定していたよりも退職金が少なく、繰り上げ返済に回せなかった。

年金は月18万円だ。ローンを支払っていると年金だけでは生活ができないので、食品工場でのアルバイトをしながら住宅ローンは遅れずに返してきた。

そんな中、Yさんを悲劇が襲う。新型コロナウィルスの影響でアルバイト先の食品工場が閉鎖したのだ。

アルバイト収入がまったく入らなくなった。次のアルバイトを探しているが、この状況と年齢的に見つかるあてがない。Yさんは、住宅ローンの借り入れ先に相談をした。

「金利を下げてくれないか?」

Yさんが住宅ローンを借りた当時の金利は3〜4%が当たり前の時代だった。しかし今は、1%を切っている低金利だ。

今まで28年間一度も遅れずに高い金利で住宅ローンを支払ってきた。もう元金はとうに返済しているだろう。残りの7年間、金利を半分の2%にしてくれるだけでも返済ができる。

しかし、金融機関の回答はNOだった。金利を下げるということはしていない、借り換えをするしかないという。

だが、年齢的にも収入的にも借り換えに応じてくれる銀行はない。散々相談したが、難しかった。Yさんは「定年前に借り換えをしておくべきだった」と嘆く。

〔PHOTO〕iStock

「ゆとりローン」の罠

私は住宅ローン返済に関する相談を受けるNPO法人を運営しているが、このところ、Yさんのような定年前後の年齢の人たちからの返済の相談が増えている。その多くが、定年前後にもかかわらず住宅ローンが残っていて返済が厳しいというものだ。

なぜ定年前後の人たちが住宅ローン返済に苦しんでいるのだろうか。

直接的には、Yさんの事例のようにコロナウィルスの蔓延によって収入が大きく減ったりゼロになったりする人が増えていることが大きいだろう。

住宅ローン返済が困難になる場合、借り入れ当初には想定していなかった「不測の事態」が起きていることが多い。たとえば、Yさんのような退職金の減額、会社の経営不振、物件の大幅な時価の下落、震災、災害…コロナショックももちろんその一つだ。

こうした「不測の事態」に加えて、現在、定年前後の年齢を迎えた多くの人を苦しめているのが「ゆとりローン」の存在だ。ほかならぬYさんもこのローンを組んでいた。

「ゆとりローン」とは、バブル崩壊後の1992年から2000年に出された旧住宅金融公庫の住宅ローン商品である。

ゆとりローンの返済の仕組みは、当初5〜10年間のゆとり期間中は返済金額を抑え、ゆとり期間終了後にその分を上乗せして支払うというもので4%前後の金利が多かった。

ゆとりローンは、2000年に廃止となったが、ゆとりローンでの住宅ローンの返済を続けている人はまだ多数残っており、特に60代以上の高齢者に多く見られるのである。

一方で、ゆとりローンを組んだために一時は返済が厳しい状況に追い込まれたものの、なんとかそこから脱却した人もいる。Rさんの事例がそれだ。

借り換えに成功!

東京都の近郊に住むRさんは、現在68歳。中堅企業を65歳で定年後、嘱託社員として働いているが、収入は大幅に減った。

住宅ローンは3行から借りていて残り8年、残債は1500万円、金利は3行それぞれで3%、3.5%、4%。毎月の返済は11万円ほどで無理なく払っていけるが、1年に2度のボーナス払いが1度につき40万円ほどあり、定年後は返済が苦しくなり、ボーナス払いの度に預貯金から切り崩す状況だった。

あと8年この状況が続けば、貯金は底をついてしまう、という不安で夜も眠れなくなってしまった。

〔PHOTO〕iStock

そこで、借りている銀行に「ボーナス払いが何とかならないか」と条件変更の相談に行ったが、年金以外の嘱託社員での収入が少ないということを理由に断られてしまった。物件は、2500万円くらいでは売れるものだったが、ここで売りたくはなかった。

そこで私のところに相談にきたわけだが、Rさんは年金収入と嘱託社員の給与を合算すれば返済比率が合うこと、当初のローンを30年ローンで組んでおり、完済年齢も76歳だったので、期間の延長が可能であることからフラット35での借り換えを勧めた。

早速申し込みをしたところ、審査が通り、金利は当初の金利から2%ほどダウンしボーナス払いはなくなった。返済期間は残り8年から11年に延び、毎月の返済は12万円強に増えたが、年金だけでも何とか払っていける金額だった。Rさんは「本当に良かった。これで安心して老後が過ごせる」と喜んだ。

行き詰まったら専門家に相談を

住宅ローンを組む時は、仕事も順調で毎月の返済額だけで判断してしまっている人が多い。

住宅ローンは、35年という長期で組めるローンだが、先のことは、「なんとかなる」「繰り上げ返済すればいい」「退職金で完済すれば良い」と安易に住宅ローンを組んでいる人も多い。

しかし、人生には想定外のことが起こる。定年前後になり抜き差しならない状況に追い込まれる人も少なくない。

Yさんのケースのように「どうにもならない」という現実が突きつけられる人がいる一方、Rさんのように、現状を少し見直せば、返済が楽になる例もある。

返済が苦しい人には、早めに専門家に相談することをお勧めする。

次回は、物件の価値が大幅に下がってしまった人の事例を紹介しつつ、住宅ローンの適切な借り方をお伝えしたい。