欧州はディーゼルで日本はハイブリッドで燃費向上を目指してきた

 日本の自動車メーカーも、ディーゼルエンジン車を開発していないわけではない。ただし、国内市場へ向けてはそれほど積極的でないのは事実だろう。そのなかで目立つのはマツダであり、2012年に新世代商品群をCX-5から導入し始めたときから、SKYACTIVの一環としてディーゼル車に力を注いでいる。理由は、電動車両を持たないからだ(ただし、アクセラの一部にトヨタから供与されたTHS-IIを搭載した車種がある)。

 マツダ以外にも、ワンボックス車ではディーゼル車がある。たとえば三菱自動車工業のデリカD:5や、トヨタのハイエースなどだ。一方で一般的な乗用車は、ハイブリッド車が欧米に比べ充実しており、あえてディーゼルに依存しなくても燃費を向上させる手立てを日本の自動車メーカーは持っている。

 それに対し、ことに欧州の自動車メーカーは、日本がハイブリッド車に力を注いできたことに対し、既存のディーゼル技術で燃費向上を目指してきた経緯がある。なかでもドイツの自動車メーカーは、かつて90年代の末に「ハイブリッドは一時的な経過措置でしかない」と言っていたほどだ。それが20年ほどを経て様変わりし、フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス偽装問題以降、いまや欧州自動車メーカーは電動化一色となった。20年前の前言を翻したかっこうだ。

 とはいえ、これまで欧州自動車メーカーが20年近く磨いてきたディーゼルエンジン技術は開発が進展し、WLTCの市街地モードを含め排ガス浄化は大きく改善されている。それでも2030〜40年に掛けてエンジン車そのものの販売を規制する動きが世界的に広がり、ディーゼル一色できた欧州では急速にディーゼル離れが進んでいる。ディーゼル排ガス浄化に原価が掛かり、車両販売価格が上がっていることもある。なおかつ都市部でのディーゼル車乗り入れ規制などもあり、高価なディーゼル車を買うか、電動車両の値下がりを待つかという選択肢に、欧州の消費者は悩まされている。

電動化の流れがあるいまディーゼルに手を出す必要はない

 一方、日本はそうした都市部への乗り入れ禁止など消費者が直面するディーゼル規制が顕著ではなく、ディーゼル車への嫌悪感もマツダのディーゼル車投入により薄まり、ディーゼル車がひとつの流行となっている。そして欧州で売れ行きの鈍ったディーゼル車を、日本でさばいているといえなくもない。

 しかし、人口が密集する傾向の強い日本の都市部でのディーゼル車の増加は、再度の大気汚染の予兆を上空にもたらしている。それは、ディーゼルに限らず、直噴のガソリンエンジンも粒子状物質(PM)規制の対象になっており、ガソリンであろうとディーゼルであろうと大気汚染を促す可能性を秘めた状況となっているのである。

 そもそも日本は、長距離移動するなら、排ガスゼロの鉄道で十分という社会基盤が大都市を中心に整っている。単なる流行で大型SUVのディーゼル車を都市部で乗りまわすことは、自らの住まいの環境を悪化させることにつながりかねない。ハイブリッド車の普及で、日本の消費者はかえって環境問題の深刻さに鈍感になっている。

 いずれ、電動化の時代を迎える。なおかつ、ディーゼルと電動化の組み合わせは一層の原価上昇をもたらす懸念もある。すでにハイブリッド車を十分に開発し、商品を揃えている日本の自動車メーカーに、ディーゼルに力を入れる必然性はあまりないといえる。