1982年に公開された映画「トロン」は世界で初めて全面的にコンピューターグラフィックス(CG)を導入した映画で、作品でも特に象徴的なシーンが「ライトサイクル」と呼ばれる乗り物で対決するシーンです。「トロン」のCGパートは複数の会社によって作成されましたが、このライトサイクルのシーンなど前半の主要なCGパートはMathematical Applications Group, Inc.(MAGI)という会社によって作られていました。

MAGI/Synthavision

https://excelsior.asc.ohio-state.edu/~carlson/history/tree/magi.html

the Computer Graphics Museum MAGI SYNTHAVISION & TRON DYSNEY

http://computergraphmuseum.free.fr/magi.htm

以下のムービーでは、映画「トロン」のライトサイクルのシーンと絵コンテを並べて見ながら、「トロン」のCGがどのようにして作られていたのかが語られます。

TRON: The Legacy of Digital Animation - YouTube

ニューヨークの片隅にあったMAGIにはSynthaVisionというCG制作専門の部署がありました。6人ほどの小さい部署でしたが、1980年頃にディズニーと契約し、「トロン」のCGアニメーションパートの制作に携わることになります。



まずディズニーのアニメーターがどういうシーンなのかを示す絵コンテを描きます。左に表示されているのが実際の「トロン」での映像で、右がそのシーンの絵コンテです。直線を用いた独特の背景や光の色の指定など、MAGIのメンバーにイメージが伝わりやすいように、具体的に描かれているのが分かります。







それを受け取ったMAGIのメンバーは、カメラの視点だけではなく、真上や真横から見た場合の動きや形も同時に考えて、速度や角度などモデルの動きを計算します。そして計算した結果をコンピューターに打ち込んで、アニメーションを作ります。





しかし、当時のコンピュータのモニターはプログラムを打ち込んだ文字列が表示されるだけでした。コンピューターに詳しくないディズニーのアニメーターや監督にチェックを出すためには、文字列から映像に変換する必要がありますが、ディズニーのスタジオがあるのはアメリカ西海岸のカリフォルニアで、MAGIのスタジオがあったニューヨークからは3000km以上も離れています。



そこで初めから高解像度でカラーのアニメーションを作るのではなく、まずはモノクロで作った低解像度版のデータを作り、電話回線を使ってMAGIからディズニーへ送信します。モノクロ低解像度のデータはディズニーのスタジオで映像に変換され、アニメーターはその映像を見てMAGIのスタジオにタイミングや動きの修正指示を電話で行います。MAGIのメンバーはアニメーターからの電話を受けて、計算をやり直し、修正分を再度ディズニーのスタジオへ送信します。



だいたい2〜3テイクでチェックは終わり、OKが出たら、MAGIのスタジオで高解像度のカラーバージョンを作成します。そのデータを、ビスタビジョンのカラーフィルムに画像を転送する機械に入力し、映像化します。



MAGIがアニメーターの修正指示に素早く対応できたのは、あらかじめ用意したさまざまな立体図形を計算しながら組み合わせたり削ったりしてCGモデルを作り上げるという方法を採用していたからでした。複雑で曲線の多いモデルを作るのには向いていませんが、動きのある映像に向いているため、アクションシーンの多い前半のライトサイクルやタンクのCGパートを任されたというわけです。

なお、映画「トロン」とは別に、MAGIが1980年に作成したCGアニメーションのサンプルデモは以下のムービーで見ることができます。

MAGI Synthavision Demo Reel (1980) - YouTube