相手の好意を引き出すアナロジー表現
■イメージを具体的にする「たとえ話」
私たちは、初めて出会ったモノ・出来事など、説明を受けてもイメージが湧きにくいことがある。そんな未知のものをイメージさせるために、すでに慣れ親しんだものや状況を使って「たとえば、アレのようなものです」と説明することはあるだろう。
こうした「たとえ話」などが、非言語要素の強いアナロジーと呼ばれる方法だ。抽象的で漠然としかイメージが浮かんでいないものを、何かで具体的に置き換えられるため、的確に自分のイメージを伝えるのに役立つ。
たとえば、先日「英語で話すときの頭の中の思考回路を説明して欲しい」と言われて、頭の中でどんなことが行われているかを説明する術を考えてみた。そこで、「英語は几帳面で語順には決まった型があり、それを崩すと話が通じなくなります。だから、名詞→動詞〜と“決まった型に箱が並べてあり、使いたい単語を入れていくイメージ”でしょうか」*1)とお答えした。
実際には、日本語を話すときと同じで瞬時の判断だ。けれども、難しいときには自分の思考の中で日本語をできるだけ簡単に言い換えて、その日本語を英語の型に並べ替えていくなど、英語には確かに決まった型が存在する……。
こんな風に伝えにくいことは「たとえば」のイメージで説明することになるだろう。こうしたアナロジー表現は、新製品、新しいコンセプト、新規プロジェクトなど新しいものを始め、難解なコンセプトなど人がイメージしにくいことを説明するために使うと、お互いのイメージ共有に効果的である。
■わかりやすい説得は好意的に受け取られる
クラウドが登場したときに、まだ誰もクラウドのイメージしっかりとつかめていなかった。そこで、それを表示するアプリのインターフェイスについて、スティーブ・ジョブズはこんな風に表現をした。
「このアプリは、ドキュメントの見え方を管理してくれる。ちょうど、メールがそれぞれのメッセージの体裁を管理するように」
これによって、タイトルが羅列されて、中身がどのように見えて……と説明するよりも、このアプリで、iCloudの中をメールのメッセージを手元で管理するような体裁で見られることがイメージできる。たとえばiPod ShuffleとiPodがまだ目新しかったころに、そのサイズを説明するときには、こんな表現になっていた。
「iPod Shuffleは、ガムのパッケージよりも小さくて軽いんだ」
「iPodは、トランプひと箱のサイズだ」
「何グラム」「何センチ」と言われてもすぐには浮かばないイメージを、「アノ大きさか」と一瞬でイメージさせている。電話・インターネット・メールがすべてスマートフォンでできることが“どれほど便利であるか”を言い尽くすためには、こんな一言だ。
「iPhoneは、まるで自分の生活をポケットに入れているようなものだ」
機能を言い尽くす以上にインパクトのある表現として「便利だ」と伝わる。「Xはまるで〜のようなものだ」というアナロジー表現を登場させ、聞き手にとっての既知の物事や慣れ親しんだ生活に落とし込むことで、より人がイメージできる範囲に踏み込んでいけるだろう。しかも、説明をより「絵」として浮かばせる表現は、聞き手の学習効果を高め、記憶に残りやすくなるはずだ。
デール・カーネギーは「自分自身はまったくよくわかっているが、それを聴衆にも同じようにはっきりと理解させるには、言い表そうとすることを聴衆によくわかるものと比べることである」*2)としている。
たとえば、カーネギーが科学現象のひとつ「触媒」を説明していた。触媒とは、それ自体は変化しないで、他の物質に変化をおこさせる物質のことだそうだ。これをアナロジー表現で説明するならば「触媒とは、校庭で他の子どもたちをひっくり返したり、なぐったり、怒らせたり、突っついたりして周っているのに、本人は他のだれからも一度も打たれないでいる子どものようなもの」だそうだ。触媒の説明として完全かはわかりかねるが、少なくとも触媒のイメージはこれでつかめた気がする。
こうした「わかりやすい」説得のほうが、聞き手に好意的に印象深く受けいれてもらえるのである。
■認知反応に影響する、鮮明なイメージ
難しい話を聞いているうちに眠くなってくる経験は誰でもお持ちだろう。これは自分が理解できないことで飽きてくるため、思考をとめてしまったり注意をほかに向けたりするためだ。ところが、自分の身の回りの話に置き換えられたり、ぱっとイメージをしやすくなったりなど、自分自身が関わってきたとたんに話を聞き始める。会議や学生時代の講義でこうした経験をお持ちの方も多いだろう。
自分がわからないことを並べ立てられると、興味がなくなるばかりでなく、不快感すら覚えるかもしれない。だから、イメージを浮かばせる「たとえばアレです」が、イメージを鮮明に浮かび上がらせて聞き手の理解を促し、話も好意的に受け入れるようになる。
「鮮明な訴求は、少なくとも私たちの認知反応に影響を及ぼすと考えられる」*3)
イメージが浮かびやすい表現や理解しやすい伝え方は、内容を理解するために効果的に働く。聞き手が自分で理解できるイメージで話をとらえることで、注意を話に引きつけることができ、そのイメージは強く残る。印象が残ることで、あとで決断をくだすときには特に、その説得力は強いものとなっていく。
自分が効果的に使えるアナロジーを駆使することで、情報を、好印象を相手に強く残せるようになるだろう。
[参考資料]
*1)詳細は、2014年1月24日発売『「1週間で英語がどんどん話せるようになる26のルール』(アスコム)をご参照ください。
Dale Carnegie, [1991]The Quick and Easy Way to Effective Speaking, Reissue,.
*2)『心を動かす話し方』(デール・カーネギー著、山本悠紀子監修、田中融二訳 2006年 ダイヤモンド社)
*3)『プロパガンダー広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(A.プラトカニス/E.アロンソン 社旗行動研究会訳 誠信書房)
(上野陽子=文)
