被告人・谷口梓氏

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「離別、子供アリ」──婚活サイトで獣医のシングルマザーと偽り、複数の中高年男性に結婚をチラつかせ、数千万円もの金を得ていた香川県善通寺市在住の女性の存在が明らかになった。

【写真】「入院費用のお金を助けて欲しいです」 70代男性・B氏と谷口梓氏のLINE履歴

 嘘に気づいた男性の一人が民事訴訟を提起。ところが、損害賠償の支払いを命じる判決が出るや否や、女性は破産準備を始める。その一方で、今なお彼女を信じる他の男性たちからの送金を途絶えさせまいと"隠し口座"を作るなどしていた。複数の男性を欺いたその手口とは──。ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が迫る。(前後編の前編)

〈お金なんとかならないかなぁ〉

 4月20日、高松地裁で「破産法違反」なる罪名の刑事裁判初公判が開かれた。被告人は谷口梓氏(44)。自己破産の準備をしながらも、複数の男性に約1500万円もの金を振り込ませたうえ、管財人に通帳の提出を拒み、嘘を述べたという"財産隠し"の事件だ。

 管財人が谷口氏を告発したことにより、明るみに出た。取材で分かったのは、既婚で子供もいる谷口氏が、婚活サイトなどで出会った複数の中高年男性らに対して「独身である」と嘘をつき、結婚を匂わせるという結婚詐欺的手法で多額の金を得ていたという事実だった。

 事件は単純なようで複雑な経緯をたどっている。まず刑事裁判に至るそもそもの発端となった被害者の話を聞こう。

 中国地方に住む50代後半のA氏は2013年秋ごろ、婚活サイトで30歳になったばかりの頃の谷口氏と出会った。前妻と別れてしばらく経ち、新たな人生の伴侶を探そうと思っていたという。谷口氏の婚活サイト上のプロフィールには〈(夫と)離別、子供アリ〉と書かれていた。A氏が言う。

「私は当時40代後半。年齢差がありましたので、ダメ元でメッセージしたのですが、返信が来て、当時彼女が住んでいた(香川県の)丸亀市で会うことになったんです。

 彼女は『大阪府立大学獣医学部卒の獣医で、それなりの年収がある』と言っていましたが、過去にはソープランドでも働いたことがあるとも話していました。初めの頃から『結婚したい』と言われ、それも通常の婚姻届ではなく『アメリカ流の契約書』にしたい……と提案されていました」

 生まれたばかりの子供をひとりで養い、自分の意見をはっきりと言える自立した女性……A氏は谷口氏にそんな印象を持ち、交際を開始。互いの家を行き来しながら愛を育んできた。翌2014年3月にはA氏が谷口氏にプロポーズ。初めて肉体関係を持つ。谷口氏も〈婚姻届の事も凄く嬉しいです〉とメッセージを返していた。

 しかしこの頃から、A氏は谷口氏に無心をされ、たびたび金を貸すことになる。名目のひとつが"妊娠"だった。2014年4月には谷口氏からエコー写真と〈子供ができた〉とのメールが届き、こう切り出された。

結婚するし、子どももできたんだし。お金なんとかならないかなぁ〉

 A氏が金を貸したのは、谷口氏とこれからの人生を歩んでいくと思っていたからこそだ。ところがその年の秋、「谷口から電話があって、いきなり『明日堕胎する。病院には来ないでほしい』とだけ告げられたんです。理由を聞いても何も答えず、病院名も教えてもらえないまま電話を切られてしまいました」という。

約8年、騙され続けた

 貸した金は「家を建てるときに住宅ローンを多めに組んで、そこから返す」と伝えられていたが、一向に返済はない。善通寺市の新居に谷口氏が移り住んでも、返済はないどころか今度は「住宅ローンの返済で苦しい」と、金を無心され続ける。

「それでも私には、彼女の息子さんが小学校に上がる頃には結婚しておきたい、ご両親に挨拶しておこうという気持ちがありました。会わせてほしい、と彼女に10回以上は頼んだはずです。なのに『父親ががんになった』などと、いろいろと理由を言われ、会うことはできないままでした」

 最終的に「父親は1年前に死んだ」と谷口氏から聞かされたA氏。貸付は457万円に及んでいた。2020年2月、意を決して弁護士に相談。そこで初めて、谷口氏が既婚者であることを知った。

 谷口氏の夫は単身赴任中で、別居状態が長く続いていた。谷口氏の夫が建てた一軒家に、現在14歳になる息子と2人暮らし……かと思いきや、なんと谷口氏の"稼ぎ"に頼る、夫ではない別の"ヒモ男"との3人暮らしだったことも、このたびの刑事裁判では明らかになっている。

 騙されていたことに気づいたA氏は、出会いから8年になる2021年に谷口氏を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を提起。2023年11月22日、裁判所は谷口氏に400万円の支払いを命じた。判決では〈被告(谷口氏)が私利私欲のために原告を騙した〉〈原告が約8年間にわたり婚姻を前提とした交際をしていると誤解させられた〉と結婚詐欺的な手法でA氏から金銭を得たことが認定されている。

「よく、よく、まあ……ここまで騙し続けてきたなと」

 取材の終盤、A氏はぽつりとこぼしたのだが、谷口氏が騙していたのはA氏だけではなかった。判決の確定後、谷口氏が返済を免れるため取った行動により、はからずもそれが明らかになっていく。

▼▼▼後編記事▼▼▼

【つづきを読む→】"シンママ偽装"女性が複数の男性を欺いた手口「白血病やがん患者という設定」「幼い息子になりすましてLINEで"パパになってほしい"」

【プロフィール】

高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。

※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号