【山村 佳子】「お母さん、離婚したほうがいいよ」結婚25年になる52歳専業主婦が20代の娘たちから離婚を勧められる理由
2026年6月23日から29日までの1週間は「男女共同参画週間」だ。1999年6月23日に男女共同参画社会基本法の公布・施行日であることを踏まえている。目指しているのは、男性と女性が、職場で、学校で、地域で、家庭で、それぞれの個性と能力を発揮することだ。
「男だから・女だから」と性的役割分担による抑圧は、個人の自由を制限するだけでなく、心に負荷をかける場合もある。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「“男性は、女性はこうあるべき”という抑圧は、性別関係なく多くの人の心に悪影響を与えることがあります。たとえば、収入が少ないとか、繊細であったり、主夫であったりする男性の自己肯定感が低下し、心の病に発展するケースもあるのです。男性を縛り付ける抑圧を心理学では“トキシック・マスカリニティ(有害な男らしさ)”といい、最近はこれを背景とした調査も増えています」」
学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修業に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは、52歳の専業主婦・理恵子さん(仮名)だ。「夫が若い女性と浮気しているのです」と連絡をしてきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWeb連載など様々なメディアで活躍している。
結婚25年、子どもはふたり
理恵子さんから連絡があったのは、平日の13時でした。「今から相談に行ってもいいでしょうか」と言うので、1時間後にカウンセリングルームで会うことに。理恵子さんは、典型的な“優しいお母さん”という印象の方。ゆったりシルエットのコットン素材のワンピースでやってきました。52歳には見えないくらい若々しくかわいらしいのですが、表情がものすごく暗い。まずは何があったか伺うことにしました。
「ここ最近、夫が若い女性と浮気を繰り返しているのです」言います。55歳の夫とは結婚25年とのこと。そしてスマホを出し「見てください。1年前はこんな普通のおじさんだったのに、今は体を鍛えてスリムになりました。髪にパーマをかけて、若づくりし、20代の女性を漁っているのです」と写真を見せてくれたのです。
画面には、筋肉質で引き締まり、明らかに不自然なほど毛髪量が多い男性が白い歯を見せて笑っていました。1年前の写真と比べると、まさに劇的とも言えるほどの変化です。
「男子たるもの」
まずは夫が変わったきっかけから伺いました。
「夫はもともと“男らしさ”のようなものへのこだわりが強い人でした。軍人だった祖父の教えや、ずっと男子校だったこともあるのか、“男子たるもの〇〇だ”という考え方を持っています。例えば、妻子を養って当たり前、男は涙を見せたり弱音を吐いたりしてはいけないなどです。いわゆる昭和な価値観で育っているから、私にも専業主婦でいることを求め、当然のように家事や育児も私に丸投げでした」
理恵子さんの夫は、典型的なトキシック・マスカリニティ(有害な男らしさ)の考え方を持っている。このタイプの男性は、“男らしく、頼りがいがある自分”を最優先するために、抑圧を抱えやすい傾向があります。若いうちはいいのですが、年齢を重ねると、うつ状態になることも少なくありません。原因は、加齢により体力や気力が低下し、自分が考える男らしさと、現実の自分が乖離してしまうことが考えられています。これが、心理的な葛藤やアイデンティティの揺らぎを抱え、希死念慮に繋がるミッドライフクライシス(中年の危機)に陥りやすくなる。
「それはありました。1年前は、仕事でもトラブルなどが続き、“俺はもうだめだ”と言うように。一時期は自ら命を絶ってしまうのではないかとハラハラしたことを覚えています。私が励まそうとしても、“女に何がわかる”と怒鳴るし、心療内科の受診を勧めても“あんなものは軟弱なやつのいくところだ”と怒鳴る。仕方がないから見守っていると、ある日突然、体を鍛え始めたのです。ネットで、50代で鍛え始め大変身した男性を知り、その人のオンラインサロンに参加し、ワークアウトを繰り返すうちに元気を取り戻していきました」
夫が浮気をしている兆候が
理恵子さんは、鶏胸肉やブロッコリーなど、夫に言われるまま献立を整えたそうです。
「やたらストイックに体を鍛えていましたが、生きがいを見つけてくれて良かったと。体が引き締まってきたのは半年前くらいでしょうか。そこから浮気を繰り返すようになっていったのです」
それに気づいたのは、夫の下着の匂いが変わったこと。性交渉の跡と思しき痕跡が付着していたそうです。
「私が妊娠期間中に夫は浮気をしたことがあったので、なんとなくわかるのです。夫は性欲が強く、ちょっと強引な行為をします。私はそれが苦手だったので、外でしてもらった方がありがたい。夫は家族としてはいい人で、まず上場企業に勤務しており、お金は稼いでくれるし、家族のために惜しまずに使う人。知らないふりをすることにしました」
夫の勤務先は大手企業です。理恵子さんとは職場結婚だったとか。
「結婚が2001年なので、当時は女性社員を“職場の華”なんて言っていました。当時は、短大卒の就職枠があり、私は明らかに男性社員の花嫁要員としての採用。私も仕事が好きではなく、そもそも入社も重役をしていた父のコネでしたから。若い頃の私は、我ながら可愛かったので、男性社員にモテていたと思います」
娘たちから「離婚したほうがいい」
男女共同参画社会基本法の公布・施行されたのは、1999年6月23日。たった2年では社会は変わりません。理恵子さん自身も「頼りがいがある男性と結婚して幸せだ」と思っていたそうです。
「実際に幸せだったと思います。夫は男らしさにこだわるものの、家族に手を上げたりしません。でも、娘たちからは“お母さんの行動を制限するし、典型的なモラハラだから、離婚した方がいい”と言われているんです」
理恵子さんには、24歳と22歳の娘がおり、社会人として独立しているそうです。夫の浮気を娘2人に相談すると「まじキモい。55歳で浮気するなんておかしい。離婚しなよ」と勧められます。
「私は麻痺していましたが、よく考えると55歳の男が、娘と同じくらいの20代の女性と性交渉をしたがるっておかしいですよね」
男として現役であることへの執着
理恵子さんの夫が考えるトキシック・マスカリニティ(有害な男らしさ)の環境下では、男性の価値が「どれだけ多くの女性を獲得したか」という征服達成数に重きを置かれることがあります。もしかしたら「自分はまだ男として現役で、価値がある」と実感しているのかもしれません。そのことを話すと理恵子さんはハッとした顔を見せました。
「今、めちゃくちゃ腑に落ちました。まさにそれです。夫は手っ取り早く相手と出会うために、パパ活サイトに登録して、若い女性を漁っています。あとは、Instagramでナンパをして、デートに漕ぎ着けることもあります。ただ、夫はすごくケチ。家族には惜しまないのに、部下との飲み会も割り勘にするんです。だから、思った以上に出世しなかったと言われているほど。メッセージを見ると、若い女性に対しても、ホテル代の割り勘を提案しています。文章からも“エリートでかっこいい俺が声をかけてあげているんだから”という態度で接していることが読み取れます」
半年で5人の20代女性と…
理恵子さんは、夫が浮気相手とメッセージでやり取りしている画面のスクリーンショットを何枚も持っていました。見せていただくと、この半年の間に、5人の20代女性と関係を持っていることが分かりました。
「20代の女性なら誰でもいいらしく、容姿にこだわっている様子もありません。おそらく、オンラインサロンの男性から“たくさんの20代の女性と性交渉せよ”みたいなことを言われたのでしょうね。私自身、後の人生のことを考えると、こういう夫と、一緒に人生を歩むことが、嫌になってきました」
離婚を考えているのかと伺うと、「すぐに決めるのではなく、証拠を見てから考えます」とおっしゃいます。最近では、単なる疑惑の段階に留まらず、明確な動画や写真を確認した上で人生の決断を下したいという依頼も増えています。理恵子さんの強い決意を受け、私たちは本格的な調査に踏み切ることにしました。
◇調査の結果は後編「半年で5人の20代女性と…55歳夫の浮気の壮絶。25年連れ添った52歳専業主婦の決断」にて詳しくお伝えします。
