〈習近平の目玉事業が大ヒンシュク〉世界中で迷惑がられる“中国製高速鉄道”の末路…「列車というより火の車」
習近平国家主席の看板政策「一帯一路」の象徴として世界各地に建設された中国製高速鉄道。しかし、その舞台裏では巨額の借金、膨張する建設費、自然破壊、そして国民への税負担という深刻な問題が噴出している。インドネシアでは「政府保証不要」とされたはずの事業が事実上の国費投入に追い込まれ、ケニアでも莫大な赤字が続く。華々しく走る列車の陰で何が起きているのか。その実態を追った。
【画像】「走るほど赤字」といわれるインドネシアの中国製高速鉄道「ウーシュ」
事業を支える土台自体が完全に腐敗
なぜ、巨大な資本と技術をつぎ込んだはずの交通インフラが、負の遺産となってしまうのだろうか。
理由は単純な機械の故障や設備の不具合にとどまらない。事前の需要予測を無視した無理な建設計画、雪だるま式に膨らむ費用、そして現地の自然や住民の生活を無視した強引な工事工程が複雑に絡み合っている結果である。
目に見える列車自体は動いていても、事業を支える土台自体が完全に腐敗しているのである。
東南アジアで初めて開業したインドネシアの高速鉄道「ウーシュ」を例に挙げてみよう。首都ジャカルタとバンドンを結ぶ真新しい鉄路は、乗車時間を大幅に短縮し、多くの乗客を運んでいる。
一帯一路の成功を示すショーケースとして、習近平国家主席も現地のトップとともに開業を大々的に祝った。国家の威信をかけた事業として、列車自体は立派に動いている。
ところが、裏側の台所事情は火の車である。
時計の針を少し戻すと、もともとジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道計画は、日本が長年にわたって綿密な地質調査や需要予測を行い、安全性を最優先にした提案を行っていた。
長年の無事故記録と緻密な運用システムを誇る日本の新幹線技術を導入するはずだった。しかし、インドネシア政府は最終的に中国の提案を選んだ。決め手となったのは、相手国の税金を使わず、政府の保証も求めないという、中国側が提示した極めて柔軟で甘い融資条件であった。
日本との激しい受注競争の末、中国が資金面での優遇を武器に契約を横取りした経緯がある。しかし、安易な約束はすぐに破綻した。土地の買収に手間取り、環境への配慮を怠ったために工事が大幅に遅れた。
結局はインドネシア政府が国民の税金を使って借金を返す方針
新型コロナウイルスの影響も重なり、結果として建設費用は当初の予算をはるかに超える72億ドル以上へと膨れ上がった。事前の計画がいかにずさんであったかを物語っている。
膨らんだ費用の穴埋めとして、中国側は高い金利で追加のお金を貸し付けた。現在、鉄道会社は日々の売り上げで利息すら払えない状態に陥っている。
2024年だけで約2億6000万ドルの赤字を出し、結局はインドネシア政府が国民の税金を使って借金を返す方針へ転換せざるを得なくなった。税金を使わないという最初の約束は完全に反故にされた。
シンガポールの報道機関『Channel News Asia』(CNA)は、2026年2月10日に配信した「インドネシア、ウーシュ高速鉄道の対中債務を国費から返済へ」という記事の中で、事態の深刻さを次のように報じている。
「ウーシュの債務返済には国家予算を使用する。ジャカルタとバンドンを結ぶ全長142キロの東南アジア初の高速鉄道は、2023年に商業運転を開始し、毎日2万~3万人の乗客を運んでいる。建設費は約73億ドルに上り、4分の3はインドネシアが中国国家開発銀行からの融資を通じて調達したものである」
自力で利益を出し、自立して運営するという事業の大前提が完全に崩れ去っている。巨大な鉄の塊は、国の財政を食いつぶす怪物へと姿を変えた。
環境への影響を評価する手続きが形骸化
インドネシアの事例は、財務的な破綻にとどまらない。自然環境や地域社会にも甚大な被害をもたらしている。事前に決められた環境アセスメント、すなわち環境への影響を評価する手続きがいかに形骸化していたかが明らかになっている。
古くからあった排水路が埋め立てられ、雨季になると沿線地域で深刻な洪水が頻発するようになった。トンネルを掘る際の発破作業では、住宅が密集する地域で多数の建物の壁に亀裂が入る物理的な被害が出た。
にもかかわらず、企業側の補償対応は遅々として進んでいない。住民の平穏な生活を脅かし、数千世帯に立ち退きを強いておきながら、責任ある対応をとらない。
工事の過程で4万人の雇用を生んだと主張する一方で、沿線にあった昔ながらの仕事が奪われ、地域の農業や水供給にも悪影響を及ぼしたという指摘もある。現地の自然と人々の生活を犠牲にしてつくられたインフラが、現地社会に歓迎されるはずがない。
インドネシアだけではない。アフリカの状況も見てみよう。
ケニアでは、天文学的な赤字を垂れ流す
アフリカは一帯一路における最大の投資受入地域であるが、鉄道事業の失敗と国家へのダメージは顕著である。ケニアでは、首都ナイロビと港町モンバサを結ぶ新しい標準軌鉄道がつくられた。
物資を運ぶ大動脈として稼働し、記録的な量の貨物を運んでいる。しかし、ケニアにおいても中国からの借金に対する利払いが重くのしかかり、鉄道会社は天文学的な赤字を垂れ流している。
経済メディア『The Kenyan Wall Street』は、「ケニア鉄道公社、SGR融資コストで280億シリングの損失を計上」という記事で、次のように報じている。
「ケニア鉄道公社は2025年度、SGRの貨物輸送量が過去最高の705万トンに達し、営業損失を縮小させた。しかし、中国からの融資に対する約259億ケニアシリング(320億円)に上る利払いが重くのしかかり、最終的に約281億ケニアシリングの純損失を計上する結果となった。巨額の利払いが営業利益の改善を完全に無意味にしている」
鉄道を走らせれば走らせるほど赤字が膨らむという矛盾を抱えている。お金の問題だけではない。ケニアの鉄道建設は、取り返しのつかない自然破壊をもたらした。
線路は野生動物の楽園である国立公園を真っ二つに分断してしまった。ゾウなどの動物たちが昔から移動に使っていた道が塞がれ、生態系に深刻な影響を与えている。工事に伴う騒音や粉塵、建物のひび割れといった被害が周辺住民を苦しめている。
甘い見通しと、政治的な思惑が、取り返しのつかない結果に
エチオピアでは、内陸国と港を結ぶ鉄道が需要不足で莫大な赤字を出し、結局は国が巨額の借金を肩代わりすることになった。
当初の甘い見通しと、採算を度外視した政治的な思惑が、取り返しのつかない結果を招いた。実質的に、国家全体の税金に事業失敗のツケを回したことに他ならない。
ナイジェリアの事例は、事態が一層深刻である。中国から巨額のお金を借りて鉄道網を整備したものの、列車の脱線事故が相次ぎ、設備の老朽化も進んでいる。
ナイジェリア内部では、資金の横領や汚職が横行している。鉄道会社の幹部たちが事業資金をかすめ取り、サービスの質が著しく低下している。システム全体が不正によって腐敗し、まともに機能していない。
なぜ中国は採算の取れない鉄道事業を世界中で乱発したのだろうか。背景にあるのは、中国国内の事情である。
高い金利を取り、不透明な条件を押し付けている
国内でつくりすぎた鉄鋼や、過剰になった鉄道建設の能力を、海外へ輸出する必要に迫られていた。多国籍企業や国際機関よりも早く、緩い条件でお金を貸し付ける代わりに、自国の企業に建設工事を独占させるという手法をとった。
相手国の支払い能力を厳格に審査せず、ただひたすらに規模を追い求めた結果が、現在の惨状である。借金を返せなくなった国々に対して、中国は返済期限を延ばしたり、新しいお金を貸し付けたりする最後の貸し手として振る舞うようになっている。
国際的な支援機関とは異なり、高い金利を取り、不透明な条件を押し付けている。鉄道事業で利益を出すという目標はすでに放棄され、お金を貸した中国の銀行が損をしないための応急処置に追われている。
立派な車両が走り、立派な駅舎が建っていても、鉄道が国の未来を食いつぶす借金と引き換えであれば、誰のためのインフラか分からない。
中国がつくった新幹線や鉄道が迷惑がられ、大失敗と見なされる理由はこうした要因に集約される。巨額のお金を投じて国を豊かにするはずだった夢の超特急は、今や現地社会を苦しめる重い足かせとなっている。
文/小倉健一
