いよいよ5月30日に予選リーグ戦がスタートする『JEMTCスペシャルABEMA地域トーナメント2026』。今大会最大の目玉は、全出場棋士が腕時計型の心拍計を装着し、その数値がリアルタイムで中継されることだ 。静寂の中で行われる将棋の対局において、なぜ棋士の心臓は時にアスリートのように激しく波打つのか。現役医学部生棋士である獺ヶ口笑保人四段(26)が、その医学的なメカニズムを基礎知識から鋭く分析する。

【映像】渡辺明九段が“心拍計”をテスト装着

 そもそも心拍数とは、人間の身体においてどのような状態や負荷を表すバロメーターなのだろうか。獺ヶ口四段は「心拍数は全身のあらゆる臓器からの信号がごちゃ混ぜになって反映されています」と語る。そのため、心拍数が変動した理由を説明するのは少し複雑だという。

 「例えば、横になっている人が立っただけで一過性に心拍数が上がります。頭に血を巡らせるためです」と獺ヶ口四段。また、コーヒーを飲めばカフェインの刺激で上昇し、好きな人を見るだけでも上昇するなど、同じ行動をしていても朝と夕方では異なるという。「心拍数はアクセルとブレーキで制御されています。“交感神経”がアクセルで、“副交感神経”がブレーキです」と基本のメカニズムを解説する。

 では、ただ座って考えている将棋の対局中に心拍数が上がるのはなぜか。獺ヶ口四段は「詰まされるかもしれないという 『危機』 、勝てそうだと感じる 『報酬』 、時間切迫による 『判断』 がトリガーになります」と断言する。これらを脳で処理する場面では、「脳から“交感神経を強く、副交感神経を弱くする働きかけ”が行われます」という。

 「“交感神経(アクセル)”が末端から放出するのが“ノルアドレナリン”です。ノルアドレナリンは心臓に作用することで心拍数があがります」と獺ヶ口四段。また、交感神経は副腎にも働きかけ、同様に心拍数を上げるアドレナリンを分泌させる。一方、ブレーキである“迷走神経”の働きが弱まることで、ブレーキも弱くなり心拍数が上昇する仕組みだ。

 ここで、脳がフル回転しているから酸素が必要になり心拍数が上がるのではないか、という疑問が浮かぶ。しかし獺ヶ口四段は「先を読む、記憶する、判断するというプロセスは、それ自体で心拍数の大きな上昇につながりません」と語る。読書や会話、一人で詰将棋を解く際も頭はフル回転するが、必ずしも心拍数が上がるわけではないという。

 「しかし、もし詰将棋解答選手権の会場で詰将棋を解くとなったらどうでしょうか。同じ詰将棋でも、“そこに勝負の要素が加わること”で、『間違えたら恥ずかしい』、『入賞したい』、『時間がない』といった感情が、 『危機』・『報酬』・『判断』のトリガーとなって心拍数を上昇させます」と獺ヶ口四段。「脳は安静時から多くのエネルギーを消費しています。頭をフル回転している時に、局所的に血液量が増加しても、脳全体で見ると変化は比較的少ないです」と続ける。

 「血液や酸素が必要だから心拍数が上昇するという理解はやや過剰かと思います」と獺ヶ口四段。だからこそ、「脳における血液や酸素の需要としての心拍数ではなく、 『危機』・『報酬』・『判断』としての心拍数測定は意味がある と考えます」と、今大会の企画の真意を語った。

◆JEMTCスペシャルABEMA地域トーナメント2026 超早指しの『ABEMAトーナメント』と『地域対抗戦』が融合した新シリーズ。全国を6つの地域ブロック(関東・関西は各2チーム)に分けた全8チームによって競う団体戦。各チームは8名の監督と、ドラフト会議で指名された棋士4名の計5名で構成され、総勢40名が地域の威信をかけて戦う。5月30日から予選がスタートし、勝ち上がったチームによる準決勝および決勝戦は8月に生中継で実施される。
(ABEMA/将棋チャンネルより)