記事のポイント
オンは2026年第1四半期に過去最高業績を記録し、特にアパレル事業が前年比45.1%増と急成長した。
ゼンデイヤとの協業やストーリー重視の施策を通じ、18〜34歳の若年層をアパレル起点で獲得している。
オンはパフォーマンスブランドからライフスタイルブランドへの転換を進め、「つま先から頭まで」戦略を拡大している。


スイス発スポーツウエアブランドのオン(On)のアパレル事業は、同社の基盤であるフットウエア事業に比べればまだ規模が小さい。

しかし2026年第1四半期、それは同社が次に進もうとしている方向性をもっとも明確に示すものとなった。

売上初の10億ドル超え、CEO交代も創業者主導で継続



オンは5月12日、第1四半期決算で過去最高の業績を発表した。売上高は前年同期比14.5%増の8億3190万スイスフラン(10億2000万ドル=約1530億円)で、四半期売上高として初めて8億スイスフランの大台を超えた。

為替変動の影響を除いたベースでの成長率は26.4%。純利益は82.2%増の1億330万スイスフラン(1億2700万ドル=約190億円)、粗利益率は関税の重荷があったにもかかわらず前年の59.9%から64.2%へと拡大した。なお、ドル換算は1スイスフラン=1.23ドルでの概算値である。

この四半期は経営体制の引き継ぎが行われたタイミングでもあった。

13年間オンに在籍し、CEOあるいは共同CEOを5年以上務めてきたマーティン・ホフマン氏が5月1日付で退任した。同氏はCFOも兼任していたが、その役職は現在フランク・スルイス氏が引き継いでいる。

オンの共同創業者で新たに共同CEOに就任したデヴィッド・アレマン氏は、この変化を戦略的な仕切り直しではなく、創業者主導の継続として位置づけており、ホフマン氏は長年にわたり会社の規模拡大に貢献したあと「自ら退くと決めた」と語った。

「我々創業者には、この16年間にわたって築き上げてきたものを継続し、オンを未来へと運んでいく義務がある」とアレマン氏は述べた。

「我々は共に戦略を定義した。その戦略は着実に実行に移されており、継続性を示すメッセージとなっている」。

フットウエアは依然として中核事業で、シューズ売上は12.2%増の7億6370万スイスフラン(9億3900万ドル=約1410億円)となった。

しかし、際立ったのはアパレルで、45.1%増の5530万スイスフラン(6800万ドル=約102億円)を記録。為替変動の影響を除くとアパレル売上の伸び率は57.5%に達した。

オンの成長をけん引する「アパレル」と若年層需要



アレマン氏にとって、このカテゴリーの重要性はもはや机上の話ではない。

「アパレルは、我々の直販チャネル内で初めて事業全体の10%を超えた。これは素晴らしいことだ」とアレマン氏は決算発表前にGlossyに語った。

「また、18〜34歳の非常に若い層が、直販チャネルにまずアパレルから入ってくることが多いとわかる。つまり、彼らはフットウエアより先にアパレルを目当てに来ているということだ」。

これは、ランニングシューズとパフォーマンスのイノベーションによって信頼性を築き上げてきたブランドにとって、注目すべき進化といえる。

アレマン氏はオンの野望を「つま先から頭まで」成長させることだと表現し、実用性を重視するフットウエアブランドから、ライフスタイルブランドにより近いものへと移行していくと説明した。

「我々は、ひとつのカテゴリーにおける純粋なイノベーションや機能性だけで意味を持つのではなく、ブランドがあなたのアイデンティティとなるという点でも重要なのだ」と同氏は語った。

ゼンデイヤ起用で加速するストーリー主導型マーケティング



これまででもっとも明確な例が、ゼンデイヤとのコラボレーションだ。彼女と共同制作したコレクションは、よりソフトで、よりファッション色の強いパフォーマンスウエアのビジョンに踏み込んだものだった。

4月16日に発売されたこのコレクションには、タンクトップ、ジャケット、スカート、パラシュートパンツといったアパレルに加えて、スニーカーのクラウドノヴァムーン(Cloudnova Moon)も含まれていた。

コレクションはスパイク・ジョーンズ監督による映像作品によってサポートされ、製品ローンチを推進するためによく使われる短編コンテンツよりも、意図的にストーリー主導の手法を採ったとアレマン氏は述べた。

同ブランドによると、このキャンペーンは米国で2000万を超える「エンゲージドビュー(深く視聴された再生数)」を生み出した。

「発売したとたんに、ほぼ瞬時に売り切れてしまった」と同氏は述べた。

「非常に大きな反響と注目を集めることができた。短い尺のクリップやコンテンツに頼るのではなく、きちんとストーリーを伝えるという選択をした点でも、勇気のある決断だったと思う。我々は、ストーリーで語るブランドだと考えている」。

このコレクションは、多くの場合まずアパレルを入り口に、若い消費者を新たに呼び込んだという。

決算説明会によれば、若年層への注力はすでに顧客データにも表れている。オンによると、2026年第1四半期には、18〜24歳がD2C顧客に占める割合を大きく伸ばし、これは同社がこのデータを取りはじめて以来で最大の伸び幅となった。

この傾向は第2四半期初頭にかけてさらに加速しているという。これがオンの次のフェーズでカギとなる。パフォーマンスを置き換えるのではなく、ライフスタイル製品を活用してブランドの存在感を広げていく、というアプローチだ。

アレマン氏は、この機会を自身が「ムーブメントクラス」と呼ぶ消費者層、つまり伝統的なステータスシンボルではなく、ウェルネス、活力、長寿、自己投資を重視する層を中心に据えて説明した。

「スポーツはすでに社会のど真ん中にまで入り込んでいる」と同氏は語った。

「週末にスポーツで使うギアを持つ、というだけの話ではなくなった。スポーツはもう、自分自身のアイデンティティの一部になっている」。

パフォーマンスイノベーションとライフスタイル拡張の「二軸戦略」



オンはいま、2つの方向性の事業を並行して進めている。

ひとつはパフォーマンス主導の事業だ。これには「ライトスプレー(LightSpray)」の開発が含まれる。シューズをスプレーで吹き付けて製造する技術で、従来よりも少ない部品で、より軽く速いレーシングシューズの実現をめざしている。

もうひとつはライフスタイル主導の事業で、オンを日常のワードローブに取り入れたくなるブランドだと感じさせる製品やパートナーシップを軸に組み立てられている。

ここには、ゼンデイヤとの共同制作コレクション、FKAツイッグスとのコラボレーション、履き心地に重点を置いたスニーカー「クラウドティルト(Cloudtilt)」シリーズなどが含まれ、アレマン氏によればクラウドティルトはいまや、フットロッカーヨーロッパ(Foot Locker Europe)でもっとも売れているモデルだという。

「20年前なら、パフォーマンスイノベーションのブランドであることと、いわばファッションブランドであることは、まったく対極にあった。それがすっかり変わってしまった」と同氏は語った。

APAC拡大とD2C強化で進むグローバル展開



オンの店舗数は世界で70店に達し、ストックホルム、サンパウロ、シドニー、サンフランシスコでの新規出店も計画している。売上が44.4%増の1億7400万スイスフラン(2億1400万ドル=約321億円)となったアジア太平洋(APAC)地域では、特に需要が強い。

アレマン氏によると、東京キャットストリート店で連日長い行列ができているのを受け、銀座に2店舗目となる東京の旗艦店をオープンしたという。

「その結果、いまや行列のできる店舗を2店持つことになった」と同氏は語った。

バッグやバックパックなどのアクセサリーも、まだ規模は小さいものの早くも勢いを見せており、売上は70.7%増の1290万スイスフラン(約1600万ドル=約24億円)となった。

アレマン氏は、これらの製品もまた同じ「つま先から頭まで」という構想の一部だと述べた。

「単なる実用品ブランドではなくアイデンティティを表すブランドである以上、当然ながら我々は、消費者が自分自身のアイデンティティを真に表現できる機会を提供したいと考えている」と同氏は語った。

需要拡大のなかで問われる「プレミアムブランド」としての規律



いま直面している課題はコントロールだ。

オンにとって卸売は引き続き最大の販売チャネルで、売上は13.3%増の5億960万スイスフラン(6億2700万ドル=約940億円)となった。一方、D2C売上も16.4%増の3億2230万スイスフラン(3億9600万ドル=約594億円)となった。

アレマン氏によれば、オンはもっとも重要な卸売パートナーの店舗のうち、いまだ半分ほどにしか入っていないという。

「我々はこの非常に強い需要に、規律をしっかり保ちながら応えている。数十年単位で続く、本物のプレミアムブランドを築いていきたい。それこそが、創業者主導のブランドがやるべきことだと思う」と同氏は語った。

[原文:On crosses $1 billion in quarterly sales as new CEOs push into full-look dressing

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)