【渡辺 陽一郎】「N-BOX」が国内販売台数1位でもスズキに敗北…静かに進む”ホンダ離れ”の本質は「予約殺到のスーパーワン」にも表れている
2025年度新車販売台数において、ホンダの軽自動車「N-BOX」は19万8893台で5年連続の首位を獲得。日本で一番売れたクルマとなった。
5月21日頃に国内で発売を予定している新EV「Super-ONE(スーパーワン)」も、発売前にもかかわらず「5月上旬時点の受注は電気自動車では異例なほど好調だ」(販売店)という。
しかし、全車種の合計販売台数で見るとホンダの印象は変わる。
2025年度の国内新車販売台数の1位は147万4659台のトヨタで、2位は72万5008台のスズキ、そして60万9209台のホンダは3位だった(各社発表の販売実績に基づく)。かつての勢いは影を潜め、近年はスズキをなかなか抜けない状況が続く。ドライバーの“ホンダ離れ”は静かに進んでいると言えよう。
さらに2026年度3月期連結決算では、EV戦略の見直しに伴う関連損失が響き、営業損益が4000億円規模の赤字になると見込まれる。同社の上場以来、初の赤字転落だ。
個別の車種とメーカーの勢いに差が見られる現状に、カーライフ・ジャーナリストの渡辺陽一郎氏は「ホンダには本質的な問題が2つある」と指摘する。
では一体、どんな問題を抱えているのか?
渡辺氏が解説する。
前編記事〈ホンダのスーパーワン「発売前から異例の売れ行き」…不人気色の紫&黄色アピールに滲む「ホンダの自信」〉から続く。
他車種の需要を奪いかねない
スーパーワンが5月21日頃に正式発売されると、間違いなく人気車になる。
今の日本では、走りを楽しむスポーティなクルマの売れ行きはかつての勢いを失っているとはいえ、スズキのジムニーノマドや生産を終えたスイフトスポーツ、日産ノートオーラNISMOなど、コンパクトでカッコ良く、運転の楽しいクルマの人気は根強いからだ。
スーパーワンは、自宅に充電設備がないと所有しにくい電気自動車だが、コンパクトなスポーティカーの仲間に入る。しかも個性的なのに、周囲の歩行者や車両を威圧する過剰な存在感はない。日本のユーザーにとって、魅力の多い商品だから受注台数も増えた。
しかし、ここにはホンダの欠点も見られる。
スーパーワンをホンダ車全体の中で捉えると、補助金を引いた実質価格が安すぎることだ。スーパーワンの実質価格が209万200円、ガソリンターボのN-ONE・RSは227万8100円、電気自動車のN-ONE・e:Lが261万8800円となれば、N-ONEやN-ONE・e:Lの立場はどうなるのか。一気に割高な印象を強めてしまう。
ちなみにホンダは電気自動車のインサイトも4月に発売しており、この価格は550万円で、国から交付される補助金額はスーパーワンと同じ130万円だ。実質価格は420万円だから、スーパーワンの2倍に相当する。
スーパーワンの開発者や商品企画担当者がベストを尽くすのは良いことだが、ホンダの場合、ほかのホンダ車の需要を奪うことが多い。
なぜか廃止と復活を繰り返す
過去を振り返ると、1994年に発売された初代オデッセイは人気車になったが、1996年に初代ステップワゴンが発売されるとユーザーを奪われた。そのステップワゴンも、2001年に初代フィットが発売されると売れ行きを下げた。
そして2011年に初代N-BOXが登場すると、フィットも販売数を落とした。このようにホンダでは、新型車が人気を高めると、別の車種が犠牲になる。その繰り返しだ。
このほかホンダでは、車種の廃止と復活も多い。CR-Vは2016年に4代目で国内販売を一度終了したが、2018年に5代目で復活した。ところが2022年に再び廃止され、2024年には、6代目が燃料電池車で国内販売をリースにより復活させた。この後、2026年2月に、ハイブリッドのe:HEVを含めて国内販売を完全に再開した。
このほかシビックやオデッセイも、一度廃止されて復活した経緯がある。販売店は「車種を廃止すると、お客様は見捨てられた気分になり、他社に移ってしまうことも多い。その後に復活しても、戻ってはいただけない」と言う。
電気自動車でも、ホンダeを2020年に発表して2024年に終了した。ホンダeは全長が3895mmのコンパクトな電気自動車で、最小回転半径は4.3mだから小回りの利きも抜群だった。日本に最適な電気自動車だったが、わずか4年で廃止した。
ある取材の場で廃止の理由をホンダに尋ねたところ「ホンダeはドアミラーを液晶にするなど先進技術を満載して価格も高かった(廃止時は495万円)。使命は終わったと判断して、N-ONE・e:の投入と併せて終了した」と説明された。
それならホンダeを乗り継ぎたいユーザーはどうなるのか。価格が高いなら、装備のシンプルなホンダeを345万円くらいで投入する方法もあった。この意見をホンダe以外のホンダの開発者に伝えると「私も同感だ」といわれることが多い。
個々の商品は優れているのに…
話を整理すると、ホンダには本質的な問題が2つある。
まずはユーザー目線の欠如だ。先に挙げた販売店の「車種を廃止すると、お客様は見捨てられた気分になって他社に移ることも多い。その後に復活しても戻ってはいただけない」というコメントは、自動車業界の常識だが、ホンダはそこを守らない。
2つ目の問題は、全体の統制を取るリーダーシップが不在なことだ。個々の商品は優れているが、全体を見わたすリーダーがいないから、機能と装備を充実させた電気自動車のスーパーワンよりも、ガソリンエンジンのN-ONE・RSが実質的に高額になったりする。
この問題は、ホンダの電気自動車に関する一連の話題にも通じる。
ホンダはゼロシリーズとアキュラRSXの開発や販売を中止すると発表して話題になったが、アジア向けのゼロ・アルファは続行する。この場合、通常は電気自動車の「見直し」という表現を使うが、ホンダでは「中止」としたから世の中を驚かせた。
ホンダが以前公表した「2040年までにすべての新車を電気自動車と燃料電池車にして内燃機関を全廃する」方針も同様だ。
技術の世界に「廃止」はあり得ない。技術に上下をつけず、環境やユーザーニーズの変化に応じて、最適な方法を採用する。従ってホンダは「2040年には電気自動車と燃料電池車を1年間に350〜400万台生産する」という具合に表現すべきだった。ホンダにはショッキングな表現が多く、自分で傷口を広げて騒ぎを大きくしている面がある。
スーパーワンは幸福な偶然
スーパーワンに話を戻す。このクルマは、開発者が市場の声ではなく、造りたい電気自動車を開発して成功したケースだが、幸福な偶然と考えるべきだ。
1990年代中盤までのホンダは、スーパーワンのように開発者が造りたいクルマを開発し、それをユーザーも喜んで購入した。環境もそれを許したが今は違う。
今のホンダに最も必要なのは、ユーザーの気持ちを最優先にすることだ。
そのためには、毎日ユーザーに接している販売店の意見を真剣に聞く必要がある。「営業は開発者が造ったクルマを売ればいい」という従来の考え方を改めないと、ホンダの業績は悪化の一途を辿ってしまう。
もはや20世紀とはユーザーも各種の環境も違うのだ。
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