なぜDeNAは「ベストナイン捕手」を手放したのか 山本祐大トレードに見える“松尾汐恩への賭け”と交換相手の不安
シーズン中に正捕手が移籍する、“異例のトレード”が成立した。5月12日、DeNAの山本祐大と、ソフトバンクの尾形崇斗、井上朋也による1対2の交換トレードが両球団から発表された。山本は昨季、ベストナインとゴールデングラブ賞に輝き、今季も捕手ではチーム最多のスタメン出場を続けていた。そんな主力捕手はなぜ、このタイミングでチームを移ることになったのか。【西尾典文/野球ライター】
【写真】「会見見て泣いた」「祐大と優勝したかった」の声も…DeNAファンの様々な思いを背に戦う次世代捕手・松尾汐恩の姿
働き盛りの正捕手がまさかのトレード
背景には、DeNAの次世代捕手・松尾汐恩への期待と、ソフトバンクの捕手事情が見え隠れする。

特に反響が大きかったのは、山本の移籍である。山本は京都翔英時代、正捕手に石原彪(現・楽天)がいた。そのため、主に外野手としてプレーしていた。BCリーグの滋賀でキャッチャーとして大きく成長し、2017年のドラフト9位でDeNAに入団。2024年には108試合に出場し、104安打、打率.291をマーク。捕手ではリーグトップの守備率.997を記録するなど、攻守で大きな存在感を示した。今シーズンもここまで捕手ではチームトップのスタメン出場を続けていた。20代後半で、まだ働き盛りの正捕手がシーズン中に移籍するのは異例である。
DeNAファンから多くの驚きの声があがっている。その背景について、ある球団の編成担当はこう話す。
「DeNAは2022年のドラフト1位でキャッチャーの松尾汐恩(大阪桐蔭出身)を獲得しており、将来の正捕手に育てるプランだったと思います。ところが、山本が想像以上の成長を見せてレギュラーとなりました。以前より捕手を併用するチームは増えていますが、山本も松尾も打撃が良く、ベンチに置いておくにはもったいないとの意見は多かったようです。思い切った決断だとは思いますが、松尾の将来性に賭けたのでしょう」
トレードが発表された日の中日戦で、松尾はスタメン起用された。先制のタイムリーを含む2安打1打点の活躍で、チームの勝利に大きく貢献した。首脳陣の期待に応えて見せた。今年で22歳の若さもあり、プロ野球界を代表する捕手になる可能性は十分あるだろう。
懸案事項だった捕手の人材不足
一方のソフトバンクには、シーズン途中でも山本を獲得したかったチーム事情がある。球団関係者はその理由をこう話してくれた。
「一昨年のオフに甲斐拓也がFAで巨人に移籍してから、捕手はずっと懸案事項でした。まだ若くて打力もある山本を獲得できたことは本当に大きいですね。昔は投手とのコミュニケーションや投球パターンなどを覚えるのに時間がかかるため、シーズン中に捕手が移籍することは難しいと言われていました。ただ、今はデータが増えて配球面もチームから示すことができますし、投手のボールを再現できるマシンもあるため、すぐに対応できると思います」
ソフトバンクでは昨年から海野隆司が主に正捕手として起用されている。守備には定評がある。一方で、打率は今年もここまで1割台。レギュラーとしては物足りない数字となっている。それだけに山本の加入は、極めて大きなプラスとなりそうだ。
こうして見ると、異例のトレードとはいえ、山本、松尾、ソフトバンクにとってはメリットが大きいように見える。ただ、気になる点はある。山本の交換要員だ。前出の編成担当者も、この人選には疑問が残ったと話す。
「DeNAは昨年オフに外国人の先発投手が3人抜け、今年加入したコックスも肘を痛めて今シーズン中の復帰は絶望となっています。それを考えると先発投手を補強したかったと思うのですが、獲得したのはリリーフ投手の尾形と野手の井上でした。DeNAは尾形を先発で起用する方針だそうですが、これまでずっとリリーフで投げており、長いイニングでの投球は未知数です。井上も二軍では昨年結果を残しましたが、一軍ですぐ戦力になれる可能性は高くないでしょう。山本ほどの選手を出すのであれば、もっと先発で期待できる選手を獲得できなかったのかなとは思いますね」
尾形は今年先発転向を目指しており、3月28日のオリックスとの二軍戦では7回無失点と好投を見せている。しかし、4月3日に一軍昇格してからは、すべてリリーフでの登板だった。またDeNAは昨年のドラフトで、3位・宮下朝陽(東洋大)、5位・成瀬脩人(NTT西日本)を指名している。いずれも井上と年齢が近い、右打ちの内野手だ。井上は外野も守るが、決して守備力は高くなく、このあたりも編成的には疑問が残る点だった。
過去の例を見ても、移籍をきっかけに驚きの成長を見せるケースは決して少なくない。山本はソフトバンクで正捕手として存在感を示せるのか。松尾はDeNAの次代を担う捕手として、一気に台頭するのか。尾形、井上は、この大型トレードの評価を変えるだけの働きを見せられるのか。
異例のシーズン中トレードは、誰にとっての「成功」になるのか。その答えは、これからの4人のプレーが示すことになる。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
