ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のSebastian Ziebaさんを筆頭とする研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを用いた、太陽系外惑星「LHS 3844 b(Kuaꞌkua)」の表面組成に関する研究成果を発表しました。


研究チームはLHS 3844 bについて、大気を持たない岩石惑星であり、その表面は玄武岩などに似た暗い岩石で覆われている可能性が高いとしています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Astronomy」に掲載されています。


太陽系外惑星の「地質」に迫る

これまで太陽系外惑星の研究は、主にその大気の性質や有無を調べることに重点が置かれてきました。しかし、惑星がどのような地質学的特徴を持っているのかを解き明かすことは、その天体の真の環境や歴史を知るための次なる重要なステップとなります。


今回観測対象となったLHS 3844 bは、インディアン座の方向・地球から約49光年先のスーパーアース(地球よりわずかに大きく重い岩石惑星)です。直径が地球の約1.3倍あるこの惑星は約11時間という極めて短い周期で、主星である赤色矮星(M型星)の「LHS 3844」を公転しています。


主星のすぐそばを回っているため、地球を公転する月のように、LHS 3844 bは自転と公転の周期が同期した「潮汐ロック(同期自転)」の状態にあります。そのため、常に主星に向けられている昼側の平均温度は約1000ケルビン(約725℃)の高温と推定されています。


【▲ 太陽系外惑星「LHS 3844 b」の想像図。2022年5月公開(Credit: Artwork: NASA, ESA, CSA, Dani Player (STScI))】

宇宙風化を受けた表面 地球のような地殻は持たず?

研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡の「MIRI(中間赤外線観測装置)」を使用して、LHS 3844 bの高温な昼側から直接放射されるスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)を詳細に測定しました。


得られた観測データを地球、月、火星の岩石・鉱物モデルと比較した結果、地球の地殻に広く見られる花崗岩のような、ケイ酸塩に富む組成である可能性は明確に除外されました。代わりに観測データとよく一致したのは、玄武岩などの火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)に似た暗い岩石です。


このデータから、惑星表面の状態について、「最近の火山活動によって形成された新鮮で固い岩盤」もしくは「大気がないことによる宇宙風化(恒星からの放射や隕石の衝突で表面が変質したり変色したりする現象)を受けて生じた細かい微粒子(レゴリス)」という、2つの可能性が示されました。


今回の観測では、最近の火山活動の痕跡となり得る二酸化硫黄(SO2)などの火山性ガスは検出されませんでした。このことから、LHS 3844 bは地質学的には長期間不活発な状態にあると示唆されており、研究チームは宇宙風化を受けたレゴリスで覆われているシナリオを有力視しています。


なお、CfAによると、一般的にケイ酸塩に富む地殻の形成には、プレートテクトニクスと液体の水が関与していると考えられています。そのためZiebaさんは、LHS 3844 bには水がほとんど存在せず、地球のようなプレートテクトニクスが機能していないと推測しています。


太陽系外惑星における地質学の新たな幕開け

ウェッブ宇宙望遠鏡の優れた感度に支えられた今回の成果は、数十光年も離れた岩石惑星の表面の地質を直接探ることで、太陽系の水星や月をそのまま大きくしたような“宇宙風化を受けた不毛の岩石惑星”という、LHS 3844 bの姿を浮き彫りにするものとなりました。


研究に参加したマックス・プランク天文学研究所(MPIA)のLaura Kreidbergさんによれば、研究チームはすでにウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測を実施しています。今後は、固い岩の層と細かい粉末とで光の放射や反射が異なる点を利用して表面の粗さを調べ、惑星表面の性質をさらに詳細に解明することを目指すということです。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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