(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢期の生活を支える資産は、家族であっても全体像を把握できていないことがあります。特に現金や有価証券などが自宅に保管されている場合、相続の場面で初めてその存在が明らかになるケースも少なくありません。思わぬ資産が見つかることもあれば、逆に「あるはずのものがない」と気づくこともあります。

「まさか、こんなところに…」父の死後に開けた金庫

佐野さん(仮名・66歳)は、93歳で亡くなった父の遺品整理をしていました。

父は生前、堅実な性格で知られ、年金を中心に質素な生活を送っていました。佐野さん自身も、「それなりに貯金はあるはず」と考えていたといいます。

「父は昔から“無駄遣いはしない人”でしたし、現役時代も長く働いていた。老後も困るような状況ではないと思っていました」

遺産として確認できたのは、預金約1,800万円と、自宅不動産。決して少なくはないものの、「もっとあるはず」という感覚も拭えませんでした。

「そういえば、金庫があったなと思い出したんです」

父の寝室の奥に置かれていた、小型の耐火金庫。鍵の所在も分からず、生前は一度も中を見たことがありませんでした。

業者に依頼して開錠したその瞬間、佐野さんは息をのみます。

「え…こんなに?」

中に入っていたのは、現金の束でした。数えてみると、総額は約2,000万円。さらに、古い封筒に入った定期預金の証書や、すでに満期を迎えているまま放置されていた金融商品の書類も見つかりました。

「正直、驚きました。でも同時に、“なぜこれをそのままにしていたんだろう”という疑問もありました」

父は、銀行に預けることに慎重で、一定額を現金で手元に置いておく習慣があったといいます。しかし、その額は想像を超えていました。

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、高齢世帯の金融資産の一部は依然として現預金に偏る傾向があり、リスク資産への移行が進んでいない実態が示されています。背景には、「元本割れへの不安」や「管理の煩雑さ」があるとされています。

「父なりの安心の形だったのかもしれません。でも、結果として誰にも共有されていなかった」

「助かった、という気持ちはありました。でも…」

この発見は、佐野さんにとって大きな意味を持ちました。

実は佐野さん自身、老後資金に不安を抱えていました。年金は月17万円ほど。退職後は再雇用で働いていましたが、収入は大きく減少していました。

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月約11.8万円であるのに対し、消費支出は約14.8万円と、平均で赤字となっています。

「正直、この先どうなるんだろうという不安はありました。貯金もそこまで潤沢ではなかったので」

その状況で見つかった現金は、安心材料になったのは間違いありません。

「助かった、という気持ちはありました。でも、それだけじゃなかったんです」

佐野さんが感じたのは、「もっと早く知っていれば」という思いでした。

父は晩年、医療費や生活費を切り詰めるような場面もあったといいます。佐野さん自身も、必要に応じて援助をしていました。

「本当は、そこまで我慢する必要はなかったはずなんです。あれだけの現金があったなら」

また、現金で保管されていたことで、資産の把握や管理が難しくなっていた側面もありました。

相続の手続きにおいても、金融機関に預けられている資産と異なり、現金は申告や分割の判断を含め、取り扱いに注意が必要です。税務上も、申告漏れがないよう慎重な対応が求められます。

「結果的に見つかったからよかったですが、見つからなかった可能性もあった。そう考えると怖いですよね」

今回の経験を通じて、佐野さんは「資産は持っているだけでは意味がない」と強く感じたといいます。

「大事なのは、“どう使うか”と“どう共有するか”なんだと思いました」

現在、佐野さんは自分自身の資産について、家族と話し合う機会を設けるようになりました。

「自分が同じことを繰り返さないように。きちんと伝えておくことが大切だと感じています」

父の金庫から見つかった現金は、確かに佐野さんの生活を支える助けとなりました。しかし佐野さんは、

「もっと違う形で使えていたかもしれない。そう思うと、少し複雑ですね」

と語ります。資産は、存在するだけでは家族を守れません。適切に使い、共有されてこそ、その価値が発揮されるのかもしれません。