クルーズ船内でハンタウイルス集団感染、WHO会見 主な質疑応答まとめ

世界保健機関(WHO)は、アルゼンチンからカーボベルデへ向かっていたオランダ船籍のクルーズ船「ホンディウス号」で発生したハンタウイルス(アンデス株)の集団感染について、7日にスイスで特別記者会見を開きました。

これまでに8名の感染とうち3名の死亡が確認されています。テドロス事務局長や専門家らが、現状のリスク評価や今後の対応について記者団の質問に答えました。

感染拡大のリスクについて

Q. 今回の集団感染は、新型コロナウイルス感染症のような新たな「エピデミック(大流行)」や「パンデミック」に発展する恐れはありますか?

A(WHO専門家): 明確に申し上げますが、これは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ではなく、新たなパンデミックの始まりでもありません。 ハンタウイルスは空気感染ではなく、主にネズミなどのげっ歯類の排泄物などから感染します。

今回確認された「アンデス株」は、ハンタウイルスの中で唯一「人から人へ」の感染が確認されていますが、それも長時間の同居や医療ケアなど「濃厚かつ密接な接触」に限られます。

過去2018年のアルゼンチンでの集団感染と似たケースであり、接触者追跡を徹底すれば連鎖は断ち切れるため、一般の公衆衛生上のリスクは「低い」と評価しています。

予防措置とウイルスの性質について

Q. 空気感染しないとのことですが、感染予防のためにマスクは必要ですか?

A(WHO専門家): ウイルス自体は空気感染しませんが、船内という密閉空間であること、そして重症化すると激しい咳を伴う呼吸器症状が出ることなどから、予防的措置として乗客には個室待機をお願いし、部屋を出る際のマスク着用を指示しています。

また、患者のケアにあたる医療従事者には、より高度な防護具の着用を推奨しています。

ウイルスの変異とゲノム解析について

Q. 2018年の流行時と比べて、今回のウイルスに「懸念されるような変異」は見られますか?

A(WHO専門家): 現在、南アフリカ、スイス、そしてパスツール研究所の3つの優れた研究機関で、ウイルスの全ゲノム解析が急ピッチで進められています。いま得られている情報では、ウイルスに異常な変化や特筆すべき変異は見つかっていません。

解析結果が完全に揃い次第、過去の株(2018年のアルゼンチンでの株など)と比較し、変異の有無やその意味について、世界中の専門家チームと共有・分析を行っていく予定です。

乗客の隔離と帰国について

Q. 潜伏期間が最長6週間とのことですが、接触者は長期間の隔離が必要になるのでしょうか? また、乗客は今後どのように帰国するのですか?

A(WHO専門家): 6週間の「隔離」が必要なわけではありません。厳密に「隔離」が必要なのは、症状が出た確定患者のみです。

ウイルスに暴露した可能性のある「接触者」に対しては、最大42日間の「積極的モニタリング(日々の健康観察など)」を推奨しています。

現在、船内にWHOの専門家らが同乗し、乗客一人ひとりの暴露リスクを個別に評価しています。他者への感染リスクを最小限に抑えつつ、安全に下船して帰国できるよう、各国当局や運航会社と連携してガイドラインを策定中です。

アメリカとの連携について

Q. 米国がWHO脱退の方針を示していますが、今回アメリカ人乗客も巻き込まれる中で、情報共有や連携に支障は出ていますか?

A(テドロス事務局長・WHO幹部): 技術的なレベルでは、米国の疾病予防管理センター(CDC)と協力関係にあり、情報共有は問題なく円滑に行われています。

政治的な状況に関わらず、WHOの使命はアメリカ国民を含む全世界の人々を守ることであり、米国の専門機関の知見は世界にとっての財産です。

「ウイルスは政治や国境を気にしない。いかなる空白もウイルスに付け入る隙を与えるだけであり、連帯こそが我々の最高の免疫です。」(テドロス事務局長)

ワクチンと治療法について

Q. 現状、ハンタウイルスに対するワクチンや特効薬はありますか?

A(WHO専門家): 現時点で承認された特定のワクチンや抗ウイルス薬はありません。そのため、症状が現れた場合の早期の集中治療が、患者の生存率を改善する上で極めて重要になります。

(※本記事は2026年5月7日に開かれたWHOの記者会見をもとに、発言の要旨を構成したものです)

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