【田中 圭太郎】国立大学を「稼げる大学」にする”政府の愚策”…無理難題を押し付けられた「2つの超有名大学」で生じている「知られざる歪み」
【前編記事】『東北大教員が「大変なことになる」と悲鳴の告白…国立大学が飛びついた、政府の「10兆円大学ファンド」の異常性』より続く。
目論見が外れてしまった東北大
東北大が最終的に「国際卓越研究大学」として認定されたのは'24年11月になってからだ。'24年度分としては助成されず、'25年度分として154億円が'25年2月に交付された。文部科学省によると、同年9月には'26年度分として169億円の助成も決定している。
国立大学法人には、人件費などの基礎的経費として、運営費交付金が国から交付されている。この交付金が毎年450億円から500億円程度の東北大にとって、大学ファンドの運用益による助成金は巨額であることは間違いない。ただ、年間3000億円を5〜7大学に分配するといった触れ込みから、'24年度から毎年500億円程度の助成が受けられるとの期待があったとすれば、その目論見は外れたことになる。
一方、第2期の公募は'24年12月から'25年5月まで行われ、今度は第1期に申請した10大学から東北大と東京理科大を除く8大学が申請した。審査の結果、'25年12月に東京科学大が第2号に認定された。
また、京都大は「候補」に選ばれ、最長で1年間体制強化計画を「磨き上げ」ることが認定の条件となっている。医学部の教員による収賄事件など不祥事が相次ぐ東京大は、最長で1年間の継続審査となり、「法人としてのガバナンスに関わる新たな不祥事が生じたと判断された場合、審査を打ち切る」とされている。現時点で第3期の公募が行われるかどうかは決まっていない。
一部の関係者によって大学間の格差が拡大
審査結果について、アドバイザリーボードの意見は公表されているものの、誰が発言したものなのかは不明だ。巨額の助成を長期にわたって行うにもかかわらず、どのようなプロセスで選定されているのかについては不透明と言わざるを得ない。この仕組みには大学関係者からも疑問の声が上がっている。
教育学が専門で、国際卓越研究大学制度に反対の声をあげてきた京都大学大学院の駒込武教授は、審査にあたるアドバイザリーボードの問題点を指摘する。
「大学の研究力を上げたいのであれば、大学単位でお金を出すのではなく、研究グループ単位で出すべきです。それに研究計画の審査は専門家の集団が行うべきでしょう。アドバイザリーボードのメンバーは内閣府の委員会の常連や財界人ばかりです。このような人たちが、何を基準にして国際卓越研究大学を選んでいるのでしょうか」
同じく教育学が専門の北海道大学大学院の光本滋教授は、大学間の格差を広げるものだと批判する。
「国際卓越研究大学は、もともと大学間の格差が大きいと言われてきた中で、格差をより一層広げる政策です。研究力の底上げとか、大学の質の保証とは逆の方向です。さらに、認可された東北大の体制強化計画を読むと、学内の研究者の処遇にも大きな格差をつけていく感じがします。このような方向性でいいのか疑問です」
「稼げる大学」を求められる事態に
国際卓越研究大学が構想された背景には、日本の研究力の低下がある。研究力を測る重要な指標である論文数や質の高い論文の割合などは'00年代前半より国際的な地位の低下が続いている。その原因の一つと考えられるのが、'04年の国立大学法人化だ。
法人化によって、運営費交付金は約10年間にわたって毎年1%の削減が続いた。'04年度には1兆2416億円だったが、'25年度の当初予算では過去最低水準の1兆784億円となり、約20年間で1632億円も減少している。この間、物価の上昇や人事院勧告にもとづく賃上げに対応した増額はなかった。
科学研究費助成事業といった競争的資金は増えたものの、特定の目的に使途を限定された短期的な資金のため、各国立大学の財政は悪化し、若手教員数の減少や研究費の減少、設備の老朽化などを招いている。
ただ、'26年度は法人化後で最大規模の増額になった。物価高や人事院勧告の賃上げに対応するため、前年よりも188億円上乗せされるとともに、'25年度の補正予算として486億円が計上され、合計で674億円増額された。それでも法人化前よりは大幅に低い金額だ。
国際卓越研究大学制度は多額の公金を使いながら、現状ではわずか2大学を支援するだけだ。普通に考えて、日本全体の研究力強化にはつながらないだろう。大学ファンドを活用するなら、運営費交付金を増やすなど、すべての国立大学法人の底上げを目指すほうがまだ理解できる。
しかも、認定された大学は、国際的に卓越した研究力の強化を進める一方で、年3%の事業成長を目指すなど、「実効性が高く意欲的な事業・財政戦略」を進めることも求められる。言い換えれば、「稼げる大学」になることが求められるのだ。
教員が知らない「荒唐無稽」な目標
そして、助成を受けている東北大の関係者からも、制度に対する疑問の声が聞こえてくる。
東北大の体制強化計画には、重要業績評価指標として重点KPIが掲載されている。論文数は現在の6791本を、10年目には倍の1万3200本に増やし、さらに25年目には2万4000本に増やす目標だ。これは現在約3000人在籍している教員が、1人あたり年間2本程度の論文数を、25年目には年間8本に増やすことを意味する。この目標を「荒唐無稽」と評する教員は多い。
他にも、質の高いと評価されたTop10%の論文の割合を9.8%から25%に引き上げることや、若手研究者のTop10%の論文数を10倍にすること、大学発のスタートアップ数を現在の157社から1500社に増やすなど、20項目にわたって高い目標が掲げられている。
'23年9月1日に東北大が候補に選ばれたと発表された際、公開されたアドバイザリーボードの意見には、「KPIやマイルストーンを明確にした体系的な計画」であることや、「改革の理念が組織に浸透している」ことへの評価が記載されていた。しかし、複数の教員は、体制強化計画の内容や重点KPIを候補に選ばれるまで「知らなかった」と証言する。
「東北大が候補に選ばれたことは、9月1日の午前中に文部科学大臣から発表がありました。しかし、私たち教員がKPIを目にしたのは、その日の午後が初めてです。誰が作成したのかもわかりません。これらの目標について学内で意思統一していると申請したのであれば、虚偽申請ではないでしょうか。しかも、KPIには出来もしない内容が書かれています。達成するのは無理でしょう」(教員の一人)
教員らは体制強化計画の内容やKPIを知らなかっただけでなく、KPIを達成する方法も示されていない。ほかにも国際卓越研究大学に関する事業については、学内で話し合うのではなく、決まったことだけが指示される。おそらく一部の大学幹部と、CSTI関係者やアドバイザリーボードらで使い道が決められているのではないだろうか。'25年度の助成金154億円の使い道の詳細も、学内ではまだ明らかにされないままなのだ。
それだけではない。認定から約1年半が経過した現在、東北大では研究力の強化どころか、大学院生や教員が困惑する事態に陥っている。次回は、博士課程の大学院生や留学生が受けていた支援が、突然削減された事態についてお伝えする。
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