「1話を見て憤りを感じた作品も…」視聴率低迷の春ドラマ、業界関係者の《嘆き》

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4月から放送を開始している春ドラマは業界人からの下馬評は高かった。

風変わりな宇宙物理学者を演じる主演・堤真一を筆頭に、有村架純、山田裕貴、本田響矢ら豪華キャストがズラリと出演する日曜劇場『GIFT』(TBS系、日曜午後9時〜)、北村匠海が主演を務める実話を基にした青春モノ『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系、月曜午後9時〜)、主婦役の永作博美が鮨職人を目指す『時すでにおスシ!?』(TBS系、火曜午後10時〜)、高橋一生が2役を務めるタイムリープもの『リボーン 〜最後のヒーロー〜』(テレビ朝日系、火曜午後9時〜)、刑事役の兄・岡田将生と検視官役の弟・染谷将太がバディを組むクライムサスペンス『田鎖ブラザーズ』(TBS系、金曜午後10時〜)など、各局が人気・実力のある俳優を起用し、看板枠にそれぞれ得意ジャンルの作品をそろえてきていたからだ。

ところが、いざ放送が始まってみるとその空気は一変している。

最も注目を浴びていた日曜劇場『GIFT』が初回世帯視聴率9.4%(ビデオリサーチ社調べ、関東地区、以下同)に留まり、同枠4年ぶりの視聴率1ケタ台というまさかのスタートを切ると、月9『サバ缶、宇宙へ行く』も前クールの『ヤンドク!』を下回る初回視聴率6.0%、視聴率では安定感を誇る火曜10時枠『時すでにおスシ!?』も2話にして早くも4%台と伸び悩み、関係者から今期は早くも「総倒れではないか?」という声がささやかれ始めている。

前編記事『企画の奇抜さと新しさだけが先行で《うんざり》…業界人が「春ドラマがつまらなすぎる」と嘆いている!』に続き、今期の春ドラマに不満を感じている業界人の声をお届けする。

社会問題を軽く扱った『夫婦別姓刑事』

「1話を見て、非常に憤りを感じました」

佐藤二朗と橋本愛によるダブル主演ドラマ『夫婦別姓刑事』(フジテレビ系、火曜9時〜)も初回世帯視聴率が3.9%と低迷。同作についてこのような厳しいコメントを寄せたのは、ドラマ制作会社に勤務するディレクター・B氏だ。

「タイトルを見る限りは“選択的夫婦別姓”の制度や社会風刺をどう織り込むのかと思っていた視聴者は少なくなかったはず。しかし、実際には現状のところは制度論は無関係で、同じ部署に所属する刑事が夫婦であることを隠してバディを組むというコメディタッチのストーリーだった……。

これはもうタイトル詐欺に近い。社会派ドラマになることを期待した人がいるだろうし、やってはいけない切り口だと思います。

1話を見ましたが、扱う事件自体も新しさはないし、夫婦であることがバレないようにドタバタを繰り広げながら事件を解決していくだけでは正直持たないのでは?」

こちらも設定や切り口の奇抜さが先行して、期待を裏切るドラマになったことが低迷の要因のようだ。

春ドラマが低空飛行スタートになった要因には、脚本の問題点もあるという。同業者らしい意見を述べてくれたのは、深夜ドラマやアニメのシリーズ監修を手掛ける女性脚本家のC氏だ。

「『GIFT』の脚本を担当する金沢知樹さんは『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)や『東京サラダボウル』(NHK)など、ニッチな世界を鮮やかに描いてきたヒットメーカー。彼の持ち味は人間の生々しい心境や屈折した思いをさりげないセリフやシーンにうまく落とし込むこと。

ただし、現状ではクセの強いキャラクターたちを描くことだけを求められ、ひたすらテンポ重視の脚本になってしまっている。金沢さんは元芸人だけあって、コミカルなセリフ回しも非常に巧みなのにそれも生きていない。今回のような“群像劇”との相性があまり良くないのだろうなというのが今のところの感想ですね」

期待できる作品も

C氏は続ける。

「『時すでにおスシ!?』も脚本と企画が合っていない印象です。同作を手掛けるのは『わたしの一番最悪なともだち』(NHK)や『マイダイアリー』(テレビ朝日系)の兵藤るりさん。学生時代に坂元裕二さんのゼミを受けており、若者の繊細な機微や自然体だけど心に残るセリフが抜群に上手な注目作家だと思っています。

ところが、同作の主役は永作博美演じる50歳の主婦・みなと。兵藤さん自体がまだ若いこともあって、子供を持つ50代の女性の感情表現やセリフに説得力が欠けるところがある。

ナチュラルな会話劇も控えめで分かりやすいベタなセリフが多いのも気になりました。大きな展開が起きない緩いテンポは兵藤節だなと思いましたが、SNSを見ると火曜10時枠の視聴者には刺激が足りていない様子。果たして、この枠を彼女に書かせるべきだったのかは疑問が残っています」

では、今期の春ドラマは本当に総倒れなのか。しかし、業界人の中で評価の高いドラマもいくつか存在する。最初に名前が挙がったのは『田鎖ブラザーズ』だ。ドラマライターのD氏は語る。

「岡田将生さんがヤサグレ気味のクズな兄、染谷将太さんが合理的で冷静な弟を演じているのですが、これまでありそうでなかった距離感のバディになっており、掛け合いやコンビネーションに見応えがある。二人の高い演技力もあってこそだと思いますが。

また、事件の考察を楽しむ余地を残しながらも、ドラマそのものはキャラクターの感情や関係性に比重が置かれているので腰を据えてじっくり見ることができる。『最愛』『アンナチュラル』『MIU404』を手掛けるプロデューサー・新井順子さんらしい重厚なドラマで、最終話まで見たいと思わせる一作です」

波瑠が新境地を開く『月夜行路 ―答えは名作の中に―』

脚本家のC氏が、現時点で“次も見たくなるドラマ”として挙げたのは『月夜行路 ―答えは名作の中に―』(日本テレビ系、水曜午後10時〜)だ。

「文学を扱うドラマは理屈っぽく見えたりするんですけど、『月夜行路』は全編通して、ほどよいキャッチーさがある。文学の知識やミステリーの謎解き、コミカルな掛け合い、回想シーンのバランスが絶妙。数多くのヒット作を書いてきた清水友佳子さんの筆力が際立つ良作です。

その中でもルナを演じる波瑠さんは、ミステリアスな雰囲気を醸し出しながらお茶目な文学オタクっぷりを見せる独特なキャラクターが非常にハマっている。彼女の代表作になるのでは?」

最後に、民放キー局でドラマ制作に長く関わってきた元プロデューサーA氏が今期の春ドラマ全体を改めて総括した。

「春ドラマ全てがつまらないわけじゃない。むしろ題材だけ見れば意欲的な作品は多いと思います。ただ、企画は尖っているのに感情移入させる導線がどれも弱かっただけ。

中盤話以降で主人公やその他の登場人物の心情や関係性がしっかりと掘り下げられるようなストーリーになっていけば、視聴率の回復も難しくないはず」

春ドラマを「不作」の一言で片づけるのはまだ早い。気温も上昇してくるGW以降の中盤話にはドラマの熱気も上がることを信じたい。

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