2019年、対立する西部の群れのチンパンジーに囲まれて牙をむく中部のチンパンジーの雄/Aaron Sandel via CNN Newsource

CNN)ウガンダにあるキバレ国立公園でチンパンジーの研究プロジェクトを統括するアーロン・サンデル氏は2015年6月24日、観察対象の群れのチンパンジーたちが突然静まり返ったことに気づいた。数頭は顔をしかめ、不安そうな表情を浮かべた。他のチンパンジーたちは互いに触れ合い、安心感を得ようとしていた。

遠くから他のチンパンジーの鳴き声が聞こえたが、それは全く珍しいことではない。少なくとも20年間、現地のチンパンジーたちはかなり大きな群れを形成しており、最盛期には200頭以上が仲良く暮らしていた。

しかしサンデル氏が見たところ、多くのチンパンジーが集まってきても彼らは通常のやり方で打ち解けようとはしなかった。いつもなら大声を上げ、背中を叩き合い、手をつないだりするはずだった。それどころか、数頭のチンパンジーはそこから走り去ってしまった。サンデル氏と研究者のジョン・ミタニ氏は困惑した。かつては仲が良かったチンパンジーの群れが突然、まるで他人同士のように振る舞い始めたのだ。

現地のチンパンジーを20年間研究しているミタニ氏に「何が起こっているんだ?」と尋ねても答えは出なかったと、サンデル氏は振り返る。この日を境に、大規模なチンパンジーの群れは分裂。現在西部チンパンジーと中部チンパンジーとして知られる二つの派閥に分かれ始めたという。「この出来事が分極化の種を蒔(ま)き、群れの崩壊につながったのだと思う」。米テキサス大学オースティン校の人類学准教授でもあるサンデル氏はそう語る。

それ以来、二つのグループ間の暴力は激化し、成体や幼体に対する致命的な襲撃が年に数回発生している。研究者らはこのほど、チンパンジーの「内戦」と呼ばれるこの現象を記録した新たな研究を発表した。「内戦」は500年に一度しか起こらないと推定される稀(まれ)な出来事で、これまで観察されたのは一度だけだ。

9日に科学誌「サイエンス」に掲載されたこの研究結果は、社会的なつながりの変化が非ヒト動物の集団内でどのように争いを引き起こすのかを垣間見ることができる貴重な機会を提供する。野生では捉えどころのない現象だが、人間同士の紛争における相互関係の役割をも浮き彫りにする可能性があると、研究者らは指摘している。

霊長類の「内戦」

チンパンジーは本来、縄張り意識が強い動物だ。通常は雄を中心とする個体がグループを作り、縄張りの境界付近をパトロールしてライバル集団のメンバーがいないか確認する。もし部外者を見つけると攻撃を加える。場合によっては殺してしまうこともある。

キバレ国立公園のンゴゴ・チンパンジー・プロジェクトは、現在ミシガン大学人類学名誉教授であるミタニ氏によって1995年に共同設立された。異例なほどの規模を有する当該のチンパンジーの群れについて、当初から分裂するかどうかを巡る議論はあったものの、その時点で分裂の兆候は見られなかったという。保護区は食料や樹木が豊富で、大きな群れを支えるのに十分な環境だったと、論文の筆頭著者のサンデル氏は述べている。

しかし2015年のあの日を境に、チンパンジーたちは急速に西部と中部の二つのグループに分裂していった。これらのグループは、チンパンジーたちが分割した縄張りにちなんで名付けられている。現在、彼らは互いを遠ざけるためにパトロールを行っている。

西部チンパンジーは中部チンパンジーよりも攻撃的だ。研究によると18年から24年にかけて、西部チンパンジーの群れは4カ月ごとに最大15回のパトロールを行い、年間平均で中部チンパンジーの群れの中から成体1頭と幼体2頭を殺害している。サンデル氏によれば、西部チンパンジーは中部チンパンジーに対して優位に立っているようで、これはおそらく早期から結束力が強かったことによるものだとみられる。

最初の致命的な襲撃は18年に発生し、エロールという名の若い雄のチンパンジーが襲われた。襲ったのはンゴゴの縄張りのほぼ中央付近にあるイチジクの木で餌を食べていた西部チンパンジーの成体の雄5頭だった。サンデル氏が12年にこのプロジェクトに参加した当時、エロールは約10歳で、同氏の論文の題材となっていた。

サンデル氏によると、チンパンジーの縄張りが分裂する前は、彼らは縄張り全体を自由に移動できていたが、現在は縄張りが中央付近で二つに分断されているという。境界線は常に変化しており、現在は西部チンパンジーが境界線をさらに東へ押し広げているようだとサンデル氏は付け加えた。

19年には2度目の致命的な襲撃が発生。これまでのところ、中部チンパンジーの死者は成体7頭と幼体17頭に上り、さらに14頭が行方不明となっている。研究論文によると、行方不明のこれらのチンパンジーも致命的な攻撃の犠牲になった可能性がある。

「チンパンジー同士が殺し合うのを見るのは本当に悲しい。よく知っているチンパンジーが殺されるのを見るのはなおさら辛(つら)い。まるで戦場特派員になったような気分だ」とサンデル氏は語った。研究者たちは現在、暴力行為を研究しているが、同時にそれ以外のチンパンジーの感情についても研究する機会を得ていると、同氏は付け加えた。具体的には共感や英雄的な行動、友情などについてだ。

「研究を通じて、チンパンジーの本質に触れているような気分になる」「このように関係性が劇的に変化する様子を観察することで、通常の観察だけでは得られないチンパンジーへの洞察、つまり彼らの心と感情を垣間見ることが可能になる」(サンデル氏)

チンパンジーから戦争について学べること

霊長類学者だった故ジェーン・グドール氏は1970年代、チンパンジーの「内戦」として知られる最初の事例をタンザニアのゴンベ国立公園での研究中に目撃した。それまで一緒に育ってきたチンパンジーたちが突然分裂し、互いに殺し合うようになったという。グドール氏と同僚たちはこれを「4年戦争」と名付け、ゴンベの歴史上最も暗い時代と位置付けた。

チンパンジーの群れの中でなぜ争いが始まったのか。断定はできないものの、ンゴゴの研究者たちはいくつかの仮説を立てている。サンデル氏によると、グドール氏のチンパンジーの群れと同様に、この群れでも優劣関係に変化が生じ、それがチンパンジー同士の交流に即座に影響を与えたようだという。ンゴゴの研究者たちは、2014年に発生した複数のチンパンジーの原因不明の死、15年のアルファ・メイル(群れを支配する雄)の交代、そして17年の呼吸器疾患の流行が、社会的つながりの弱体化と群れの分裂につながったと推測している。

「長年にわたるデータを通して、この稀な出来事を綿密に記録したことは、集団間の紛争に関する非常に貴重な知見をもたらしてくれる」と、英ヨーク大学の比較心理学者で心理学教授のケイティ・スロコンブ氏は述べている。スロコンブ氏は今回の研究には関わっていない。

スロコンブ氏はメールで「研究対象はこれまで知られている中で最大のチンパンジーの群れだったため、これほど多くの個体と良好な関係を維持することは、群れのメンバーにとって困難になっていた可能性がある」と指摘。さらに、このチンパンジーの群れに関する新たな情報は、人間関係やその他の環境要因が人間同士の紛争にどのように影響するかについての理解を深めるのにも役立つだろうと付け加えた。

サンデル氏によれば研究著者らは、人間の種それ自体や、人間関係の力学が戦争でどのような役割を果たすかについて、チンパンジー研究からより深い洞察が得られると主張している。チンパンジーには宗教や民族など、人間の戦争の主な原因とされる文化的特徴がないのがその理由だという。

サンデル氏は、ンゴゴでの戦争の終結には二つの可能性が考えられると付け加えた。一つ目は、中部グループが西部グループに対して縄張りと国境をより効果的に防衛できるような組織体制を構築し、致命的な攻撃の頻度が減少するというもの。二つ目は、グドール氏がゴンベで観察したのと同様に、より強いグループが弱いグループのメンバーをすべて殺害するという結末だ。

「第三の決着も考えられる。可能性は極めて低いように思えるが、グループ間で何らかの和解が実現するかもしれない」とサンデル氏は述べた。その上で、チンパンジーの行動について自分の知る限りそれは不可能に思えるとしつつ、そうした能力をチンパンジーたちが発揮したとしても決して驚かないと示唆した。