引っ越しなんてしなきゃよかった…「地方の庭付き一軒家」から「都市部の駅近マンション」に住み替えた、年金月26万円・70歳夫婦の後悔
一般財団法人高齢者住宅財団「高齢者の住宅資産の循環活用に関する検討調査(令和5年)」によると、老後の生活資金確保やバリアフリー化を目的に、60代の約4割が住み替えを意識、または実施しているそうです。こうしたなか、広くて手に余る一軒家から、娘家族の住む街の駅近マンションに引っ越した70歳夫婦は、とある理由から住み替えを後悔していました。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。
現金でマンションを購入したシニア夫婦
とある地方で暮らすテルオさん(仮名・63歳)とカナコさん(仮名・63歳)夫婦は、長年住み慣れた「庭付き一戸建て」から、「都市部の駅近マンション」への住み替えを計画しはじめました。
夫婦には2人の娘がおり、いずれもその都市部の街に暮らしているというのが大きな理由です。
40年前に郊外に建てられた戸建ては、いまやその役目を終えたかのようにあちこちにガタが来ています。かつてはカナコさんが娘たちとガーデニングにいそしんだ庭も、手間が追いつかずいつの間にか雑草が茂り、荒れ放題に。4LDKの間取りは、夫婦二人には広すぎて掃除が行き届きません。
「間取りは2LDKで十分。便利な駅近マンションなら資産になるし、車も手放せる」
こうして、約2年にもおよぶ綿密な計画の末、65歳になった2人は自宅の売却代金と預金、テルオさんの退職金を元手に、約7,000万円の新築マンションを現金で購入しました。資産は目減りしてしまいましたが、夫婦はどちらもムダ遣いしない性格で、生活費も月26万円の年金収入で十分賄えていたため、夫婦はなんの心配もしていませんでした。
引っ越し当初は「大満足」の二人だったが…
引っ越し当初は、駅近の利便性とマンションの最新設備、それに娘家族との交流に大満足の日々でした。しかし、住みはじめて5年が経過するころには、夫婦はマンションへの引っ越しを後悔していたそうです。
まず二人を襲ったのが、修繕積立金等管理費の値上げでした。最新設備を備えたマンションは共有スペースも豪華で、その分管理費は高くなりがちです。夫婦が購入したマンションも例外ではなく、当初は月3.3万円だった管理費と修繕積立金が、長期修繕計画の見直しにより月4.5万円へ引き上げられることになりました。
その結果、固定資産税を除く住居費が年間54万円に。年間14.4万円の負担増です。年金生活では、この“じんわり値上げ”が地味に堪えます。
まだまだある…引っ越し後の後悔ポイント
また、知り合いの少ないエリアかつマンションということで、引っ越し前は当たり前にあった「ご近所づきあい」が消滅。人と話す機会が極端に減った夫婦は外出が億劫になり、気づけば家にこもりがちになってしまいました。
夫婦が引っ越しを後悔した「最大の誤算」
そして、二人が引っ越しを後悔したもっとも大きな理由は、最近子どもが生まれた次女家族の存在です。
夫婦がマンションに引っ越してから約2年が経ったころ、次女夫婦に待望の第一子が誕生しました。
次女夫婦は共働きということもあり、夫婦は「いつでも頼っていいからね」とサポートを申し出ます。すると早速、次女家族が夫婦の家の近くに引っ越してきました。
当初は「気軽に孫を可愛がることができる」と喜んでいた夫婦でしたが、孫の世話を頼まれる機会が増え、最近では毎日クタクタです。2LDKの住まいでは手狭で、落ち着ける時間や空間がなくなってしまいました。
「いつもなにかに追われている気がして、ずっと疲れている……こんなことなら引っ越しなんてしなきゃよかった」
夫婦は「前のようにのんびり暮らしたい」と再度の住み替えも検討しているものの、資金面の不安に加えて、70歳という年齢による気力や体力の衰えも感じており、なかなか重い腰が上がらないということでした。
老後の住み替えで後悔しないために
今回紹介した夫婦のように、「資金はあったのに、住み替え後の満足度が思ったほど高くない」というケースは珍しくありません。
こうした失敗を避けるためには、実際に引っ越す前に、次のポイントを整理しておくことが重要です。
■「ランニングコスト」の増加を見込んでキャッシュフロー表を作る
マンションを現金で購入すれば住宅ローンはありませんが、管理費や修繕積立金といった「ランニングコスト」は一生かかり続けます。また、管理費・修繕積立金は、入居当初は低めに設定されていることも多く、段階的に値上げされる可能性が高い点も見落とせません。
こうした将来の負担増を踏まえ、キャッシュフロー表で長期的な資金計画を確認しておく必要があります。
■生活の質を「前期」と「後期」に分けて考える
厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」によると、男女の「健康寿命」と「平均寿命」は下記のとおりです。
■健康寿命
・男性:72歳
・女性:75歳
■平均寿命
・男性:81歳
・女性:87歳
健康寿命までを「前期」、その後、医療や介護が必要になる時期を「後期」と位置づけると、前期と後期では住まいに求める条件が大きく変わるのではないでしょうか。
前期はたしかに利便性が優先されますが、後期はバリアフリー環境や病院の近さなど、医療や介護へのアクセスのしやすさが優先されます。
■老後資金の使い道は分散させる
テルオさん夫婦は、年齢的な理由と潤沢な資金があったことから、住宅ローンを組まずにマンションを購入しました。しかしその結果、手元資金を大きく減らすことになりました。
順調に生活できれば問題はありませんが、健康寿命を過ぎた「後期」には、医療費や介護費が増えるリスクが高まります。
そのため、定年後に住宅を購入する際は、老後資産の総額から「生涯の生活費」と「予備費(1,000万円程度)」を確保したうえで、購入予算を決めることが重要です。
定年後の住み替えを検討する際には、気に入った住まいを選ぶだけでなく、「老後の生活に必要なお金をどれだけ手元に残しておくか」を優先することで、理想と現実のギャップを埋めることができるでしょう。
山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
