“錦織引退騒動”のマッチポンプで露呈した問題点 誤報に踊った日本メディアの情けなさ
【スポーツ時々放談】
【スポーツ時々放談】錦織圭の復活が見えてこない背景 会場どころかプレスルームの雰囲気まで異常に暗い
漫才がつまらなくなった。こわもての大統領や総理大臣のせいではなく、SNSだ。炎上嫌さに皮肉もギャグも鈍り、堅苦しくていけない。錦織圭も振り回された。
ツアー下部大会、サラソタオープンに1カ月ぶりに出場。事前に「引退試合」と報道された──。
「大会ディレクターが錦織の引退試合と言った」と地元紙が報じ、これをすぐ海外メディアが拾ったあたりがネット時代。マネジャーが否定と上書きされた“ニュース”が流れ、ここに日本のスポーツ紙が反応した。
「(仏紙レキップによれば)ポルトガルの著名なテニス記者ホセ・モルガド氏が反応。『ニシコリはサラソタで引退しません。彼の代理人が、私に明言してくれました』とポストし、火消しした」(4月5日=日刊スポーツ)
伝聞のそのまた伝聞の丸写し。本人の「今週はやめません」という発信で大会は始まったが……中国のウーに3-6、6-3、1-6で敗れ、後味の悪さだけが残った。
36歳は昨夏から腰痛を抱え、ランキングは400位台後半まで後退。フェデラー、ナダルに続きラオニッチ、ゴファン(ともに35歳)の同世代もラケットを置き確かに引退は秒読みだが、身の処し方は己で決めたいだろう。
この大会はかつて錦織も優勝し、10年前に地元の女性慈善家がスポンサーに。正式には「エリザベス・ムーア・サラソタオープン」で、会場が今回から、錦織が育ったIMGスポーツアカデミーに移った。この拠点にはケイニシコリ・コートもあり、推薦枠提供は自然の流れだ。
引退発言をしたのが「大会ディレクター」のムーア女史、否定したのがIMGのマネジャー──コミュニケーション不足か意図的か、マッチポンプの話題づくりを疑われても仕方ないだろう。
問題は「著名なテニス記者」を根拠に踊った日本のメディアだ。ポルトガルに「ジョゼ」はいても「ホセ」はいない。それはともかく、2年前のジャパンオープンでATPのCEOはこう話していた。
「現場からテニスライターは減り、インフルエンサーが増えた」
スポーツライターはテニスの発展に大きく寄与した。バド・コリンズ、リチャード・エバンス、クリス・クレアリー、トム・テバット……物知りで雄弁な書き手に、大会は記者席を用意し、会見を義務化し、プレスルームを整え、メディアとの共同で比類なき世界ツアーは築かれた。時は流れてベテラン記者は消え、ネット時代に登場したのが個人権益を追求するインフルエンサーだ。
彼らは記者か? 既得権を与えるか否か、選手に近づけて大丈夫か、いやうまく利用できるかも知れない……SNSに頭を抱えているのはテニス界だけではない。
引退儀式はやがて日本で行われるだろう。スタンドはオールド、メディアはインフル……改めて、全米準優勝、世界4位の興奮は遠い昔の話になったようだ。
(武田薫/スポーツライター)
