大ヒット中のドラマ『九条の大罪』(画像はNetflixより)

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Netflixで4月2日から配信され大ヒット中の同名原作漫画の実写化ドラマ『九条の大罪』。日本におけるNetflix週間TOP10(シリーズ)で2週連続1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいる。

原作者は漫画『闇金ウシジマくん』でおなじみの真鍋昌平氏で、柳楽優弥(36)演じる主人公・九条間人は、半グレやヤクザなど、きな臭い依頼人ばかりを扱う弁護士。世間からは“悪徳弁護士”と呼ばれながらも、松村北斗(30)演じる東大法学部卒のエリート助手・烏丸真司と共に、依頼人の弁護に挑む。リアリティに溢れた法とモラルの極限クライムエンターテイメントだ。

大きな話題を呼んでいる本作だが、SNSで“流行”しているのが作中で九条がたびたび口にする「完黙していれば、20日でパイになる」というセリフ。「パイ=釈放」なので「20日で釈放される」という意味だ。通常なら検察官が捜査のために被疑者を勾留できる期間は最大で20日。証拠が不十分な状態で「完黙(完全黙秘)」を貫けば、検察官は起訴できず20日で釈放されることになる。

作中では、九条の指示通りに完黙して悪人たちが次々と“パイ”に成功していた。こうした流れもあって、「完黙すれば20日でパイ」がネットミーム化する一方で、SNS上では《あれはあくまでドラマなので、実際にはそんな簡単じゃない》《あのルールを現実だと思う人が出てきそうでちょっと怖い》などと、フィクションと現実は違うとのツッコミも散見された。また、“普通の人間は20日間も完黙できない”“完全黙秘20日がどれほど苦痛か”など、経験者らしき人たちから完黙がいかに難しいかの指摘もあがった。

果たして、「完黙すれば20日でパイ」は現実世界でも通用するのか。刑事事件に詳しく、『九条の大罪』の原作ファンでもあるレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に話を聞いた。

「同作はあくまでエンタメであり“完黙すれば20日でパイ”はフィクションです。ただ、全くのフィクションとは言い切れないところに、同作の深みがあります。

原作の第1巻ではじめて“20日でパイ”が出てくるのは、反社と思われる人物の『脅迫罪』について。反社や組織犯罪だと逮捕されやすいのは事実で、物証がなければ、完全黙秘していると20日勾留されたあと証拠不十分で不起訴になるケースはあります。実際に作中で烏丸弁護士が『今回は脅迫の証拠もない』と物証がないことを断言しています。

脅迫罪という実害が残りにくく、言ったか否かが問題になる犯罪で、物証もないからこそ例外的に“完黙で20日でパイ”が成立しています。これが傷害罪であれば怪我という証拠が残りますし、恐喝罪であれば実害が残るので、完黙したところで釈放とはなりません」

「完黙すれば20日でパイ」はあるにはあるものの、かなり限定的な場面のようだ。

「しかも、警察も完黙への対応は徹底しています。特に通常逮捕の場合には、逮捕後に被疑者が完黙することは想定しているので、通常逮捕のケースだと黙秘しても”20日でパイ”にならずに起訴されるケースが多い」と河西弁護士は指摘する。

「そもそも、逮捕状を裁判所に請求する時点で、ある程度の物証があるケースが大半です。殺人事件などのように大きな事件であればあるほど、逮捕する前に完全に証拠を固めるので、黙秘したところで関係なく起訴されます。特に世の中から注目浴びている事件で、“完黙したから不起訴”となるケースは、まずありません」

完黙を貫くことの難しさがSNSでは数多く指摘されているが、実際はどうなのか。

「精神的には非常に難しいようです。本当に冤罪なら黙秘しやすいですが、実際に罪を犯している場合、証拠を突きつけられた中で沈黙を守るのは限界があります。普通は話し始めれば何かしら反応してボロが出てしまうものです。何より、裁判でも黙秘していると、“反省の言葉がない”として罪が重くなることがありますから、その板挟みに葛藤します。

逆に、捜査官からすれば、完黙が一番厄介なのは事実です。認めないなら、認めなくてもいいので、『認めないならどこを?』となります。『その日、その場で運転したことは認めるの?』とか『具体的に何は認めないの?』ということで話が前進するので、警察は否認部分の裏付け捜査に集中することができます。完全な無視が一番面倒で手間がかかります」

作中度々登場するヤクザや半グレだが、最近では、暴力団事件でも完黙は通じなくなってきているようだ。

「警察は、スマホの解析・復元について高い技術を持っています。かつては、実行犯が完黙することで、上層部が起訴されないケースもありました。しかし、現在はスマホやPCの解析により、完黙しても幹部が起訴されるケースもあります。

同作はエンタメでありながら、現実に起こり得る例外事案にクローズアップしているのが特徴で、社会問題を深く考えるきっかけにもなります。

冤罪を防ぐために重要なのが黙秘権です。同時に警察は、黙秘権を侵害しないように、物的証拠を固める技術を進化させています。“完黙すれば20日でパイ”は、あくまで例外事例と言えますが、全くのウソではないところに同作の深みを感じます。」

『九条の大罪』はあくまでフィクションで現実は甘くない。劇中の悪人たちの行動はなかなか通用しないようだ。