「おばあちゃん、今日のご飯なに?」可愛い孫の帰宅に引きつる笑顔…年金月24万円・68歳夫婦が下した「思い切った決断」
子どもや孫と近くで暮らす老後--一見「幸せそうで羨ましい」と思われがちですが、距離が近すぎることで、想像以上の負担を抱えてしまうケースも少なくありません。娘一家が近所に引っ越してきたことで生活が一変し、「こんな老後を望んでいたわけではない」と感じるようになった68歳夫婦の、思い切った決断とは?
娘一家の引っ越しに戸惑い…生活が一変
関東近郊で暮らす清水美代さん(仮名・68歳)は、夫の幸助さん(仮名・68歳)と戸建てで二人暮らし。夫婦で穏やかな老後を送っていました。
しかし、その生活はある日を境に大きく変わります。きっかけは、長女・理香さん(仮名)一家の引っ越しでした。
「近くに住めば安心でしょ? お互い助け合えるし。もう引っ越し決めちゃったから!」
孫は男の子2人。上の孫が小学校に上がる前という、転校の影響を受けないタイミングを狙って、すでに賃貸契約をしたという事後報告でした。
その言葉に、「娘も孫も可愛いんですが、正直なところ、いつもそばにいたいという感じでもなかったので……」と、喜びよりも、どこか戸惑いのほうが大きかったといいます。
引っ越しからほどなくして、美代さん夫婦の生活は大きく変わりました。
週末は家族そろって家に来て、美代さんの作った食事を食べる。娘夫婦は子どもたちを置いて出かけることもあり、その間、美代さん夫婦が面倒を見ることもありました。
「娘の家はマンションなので、孫たちは2階建ての我が家にテンションが上がるみたいで。1階と2階を全速力で走って遊ぶんですよね。全然飽きないみたいで、楽しいのはいいんですが、あまりに大騒ぎで……」
そのうち、孫は毎日のように学校帰りに立ち寄り、ランドセルを置くなり「お腹すいた」と言うように。下の孫の保育園の送り迎えは、いつのまにか美代さんたちに託され、そのまま自宅に連れ帰るようになりました。
共働きの娘とその夫は、子どもの心配をしないでいいという安心感からか、帰りが遅くなることも増えていきました。
「こういう老後を求めていたんじゃない」
次第に、体力的な疲れとともに、精神的・金銭的な負担も蓄積していきました。
「孫や娘夫婦のために使うお金が、驚くほど増えてしまって。食費は私たち夫婦で月7万円ぐらいだったんですが、10万円は当たり前。2倍になった月もありました。それだけじゃない、水道代も上がったし、買物に一緒に行くことも増えて……」
夫婦の年金は月24万円と一般的。娘一家の影響で増えたお金は「怖くて全部は計算できない」ほどだと、美代さんは溜息をつきました。
夫婦だけでゆっくり食事をする時間も、好きなときに外出する自由もありません。ある日、幸助さんはぽつりとこぼしました。
「俺たち、こんな老後を望んでたわけじゃないよな」
悩んだ末、夫婦が選んだのは、物理的な距離を取ること。長年住んできた戸建てを売却し、駅近のマンションへ住み替える決断をしたのです。
引っ越しの話は、すべて準備が整ったあとで娘に伝えました。
「最近、階段の上り下りもしんどくなってきたの。将来のことを考えて、小さめのマンションに移ることにしたわ。少し、ここからは遠いけど」
あくまで理由は“老後のため”。 孫のことも、負担のことも、あえて口にはしませんでした。
娘は「せっかく近くに住めたのに、困っちゃうな……でも、しょうがないね」と受け入れたといいます。
距離が戻してくれた、夫婦の時間
内閣府による令和2年度「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」では、高齢者が望む子どもや孫とのつきあい方について、以下のような結果が出ています。
【子どもや孫とのつきあい方に関する調査」
・子どもや孫とは、いつも一緒に生活できるのがよい 18.8%
・子どもや孫とは、ときどき会って食事や会話をするのがよい 56.8%
・子どもや孫とは、たまに会話をする程度でよい 10.4%
・子どもや孫とは、全くつき合わずに生活するのがよい 0.7%
・わからない 8.8%
・無回答 4.5%
半分以上の割合を占めたのが、「ときどき会って食事や会話をするのがよい」という選択肢。多くの人にとって、近すぎず遠すぎず、無理のない距離感が望ましいということでしょう。
リタイア後の世代にとって、「時間がある=余裕がある」と見なされがちです。けれど実際には、体力も生活のペースも、現役時代とは大きく異なります。また、お金の負担増も年金暮らしにおいては深刻です。
美代さん夫婦の選択は、一見すると冷たく見えるかもしれませんが、距離を取ることは、関係を守るための手段でもあります。
夫婦が引っ越した後、孫たちに会うのは週末や、予定を決めたときだけ。静かな生活を取り戻せただけでなく、こんな気持ちの変化もあったといいます。
「住み慣れた家を手放すのに、躊躇しなかったわけではありません。ですが、小さくて新しいマンションは想像以上に快適です。それに、近くにいたときより孫を素直にかわいいと思えるようになった気がします。距離って、やっぱり必要なんですね」

