やりがいのない繰り返しの作業は脳をダメにする…集中すること自体が脳を鍛える科学的説明
毎日同じ仕事、同じ手順、同じ道--。慣れることは効率的に見えますが、じつは知らず知らずのうちに脳への刺激を減らしてしまっているかもしれません。
脳科学者のリチャード・レスタック氏は、ルーティンをやめて新しいことに挑戦すれば、いくつになっても脳は広範囲に活性化し、成長し続けると説きます。
レスタック氏の著書『いくつになっても頭はよくなる』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
集中力が脳全体をきたえる
神経科学者たちは簡単な実験によって、集中力が脳全体をきたえることを発見しました。
その実験とは、ボランティアの女性に頭をPETスキャナー(脳の活動を画像で捉える装置)の中に入れてもらい、そのままの状態で、小さなパソコンのキーボードを利き手で打ってもらうというものです。打ってもらう文字列は実験者が選び、その女性には知らされていません。
彼女は試行錯誤しながら文字列を見つけ出そうとしました。打った文字が正しいかどうかは、目の前の小さな画面に表示されました。正しいキーを選ぶと、画面に正解のシグナルが現れるのです。彼女はついに文字列すべてを見出しました。すると今度は、その文字列を自動的なリズムで入力しつづけるようにと指示されました。1時間後には、何も考えずに漫然と入力できるようになりました。
実験中、彼女のPET画像は変化していきました。実験の最初の時点、つまり文字列を見つけるまで努力していたときの画像では、脳が広範囲にわたって活動していました。それは、計画や記憶を司る前頭葉、無意識の自動的な運動を司る大脳基底核、円滑に動くよう調整する小脳など、高度な認知に関する部位です。ところが、文字列がわかったとたん、運動野の指の動きに関する部位にしか活動が見られなくなったのです。
実験の内容を知らない人には、被験者の行動はずっと変わらないように見えます。PETスキャナーの中で横になり、キーボードを打ちつづけているだけだと思うでしょう。表面しか見ていない人には当然、実験中に起こっている脳の重要な変化がわからないのです。
初めのうち、彼女は正しい文字列を見つけ出すために、集中しなければなりませんでした。しかし文字列を見つけてしばらく練習した後は、注意を他にそらせるようになり、ぼうっと夢想さえできるようになりました。自動車運転の初心者が運転に慣れていくときも、同じような脳活動の変化が起こります。練習を積めば、運転しながらいろんなことを考えられるようになってきます。
ルーチンは最適なパフォーマンスを妨げる
知的な努力をするときも同様の変化が起こります。セントルイスのワシントン大学での実験では、PETスキャナー内の被験者に、一連の名詞に合う動詞を考えてもらいました。たとえば「キッチン」なら、「料理する」や「掃除する」という言葉が思いつくはずです。
言葉を考えるこの作業は、脳の広い範囲を活動させます。つまり左前頭皮質、左側頭皮質、前帯状皮質、右小脳皮質などです。
ところが、被験者が事前にこの作業を練習しておくと、PET画像の結果が劇的に変わります。その結果は、用意されたリストの単語をただ読むときと同じです。
練習すれば、集中力があまりいらなくなるのは当然です。そして、脳の大部分の活動を止めるという残念な影響もあります。ですから、決まった行動(ルーチン)にこだわりすぎると、重要な脳部位の活動を自分で止めて、脳の最適なパフォーマンスを妨げてしまうのです。
ですが、ルーチンをやめて何かに挑戦すれば、このプロセスをひっくり返して重要な部位を再び使用できます。このことが大切なのは、広く分散した脳部位が、数多くの神経ネットワークによる一貫したシステムを形成するからです。
新しいことに挑戦すると脳にいい
具体的にいうと、ワシントン大学の研究は、学習や仕事で新しい課題に取り組むことの効用を実験的に証明したわけです。やりがいのない繰り返しの作業はつまらないうえに、脳や心を麻痺させます。退屈なルーチンの繰り返しは高くつきます。つまり、脳の大部分の機能が衰えてしまうのです。とはいえ、もっともやりがいのある仕事でも、ときには休憩が必要です。キーボード実験の終わりのほうでぼうっとしたのは、退屈や疲労への対処法だといえます。
被験者が言葉を考える実験に慣れた後(すなわち、脳の大部分を休ませたまま作業できるようになった後)、今度は再びキーボードを打つ行為に注意を向けてもらいました。すると、前頭前野と他の分散したネットワークが再び活性化しました。
ですから、もし一時的に繰り返しの「頭を使わない」作業をするよう強いられたら(おそらく、いろいろ思い浮かぶでしょう)、それに集中し、行っていることに全力を注いでください。そうすれば、脳は各部位の共同作業に戻ります。
ただし、注意すべきことが1つあります。ある行動を規則正しく繰り返しているとき、皮質下部に任せるほうがいいときもあるのです。たとえば、F1ドライバーになる訓練をしているのでなければ、運転の仕方にあまり意識して注意を払わないほうがいいでしょう。ふつうの道路状況なら、何年もかけて皮質下部に組み込み、自動化した運転プログラムに任せてください(もちろん、その運転プログラムが安全で丁寧な場合の話です。そうでない場合は、運転の再教育講習を受けましょう。運転技術が向上するだけでなく、人と交流できますし、脳の働きもよくなります)。
キーボード実験と言葉の実験は、何であろうと今していることに全力で集中すれば、脳の大部分を使えるということを示しています。意識して注意を払えば、どんなに決まりきった作業にも再び新鮮さを与えられます。忘れないでください。脳は目新しさによって成長します。もっともつまらないルーチンワークでも、斬新でやりがいのある課題に変えるよう努力しましょう。
後編を読む『不安や「考えすぎ」は脳の力を弱めてしまう!…脳科学者が提唱する「直観力」を高める方法』
