承諾殺人で起訴、明かされた別の被害者 父は「お前のおもちゃじゃない」 止められなかった“殺人願望”
埼玉県さいたま市大宮区のマンションの一室で、棚の上から女性の頭蓋骨が見つかった。
承諾殺人などの罪で起訴された被告人の男性(32)の裁判で、神奈川県警が「自殺」と断定していたケースにこの被告人が関与していた可能性があることが判明した。
「事件性を疑うことはなかったのか」。初公判で明らかにされた被害者遺族の供述調書には、警察の対応を疑問視する言葉があった。
●承諾殺人とスマホ窃盗の罪で起訴
埼玉県内最大の繁華街がある大宮駅から北東に約2キロ。緑地に囲まれた閑静な住宅地に佇む、ベージュのタイルが特徴的なマンションの一室から異様な物体が発見された。
2025年6月、報道各社は「7年前に行方不明となった女性の頭蓋骨ではないか」と一斉に報じた。
起訴状によると、被告人の男性は2015年と2018年の2回にわたって、女性2人の承諾を得て睡眠薬で眠らせたうえ、首を絞めて殺害した。
さらに、2022年5月〜2025年4月、6回にわたってさいたま市内の駅構内で通行人からスマホを盗んだとする窃盗罪でも追起訴された。
男性は初公判で、いずれの犯行も「間違いありません」と起訴内容を認めた。
当初注目されていたのは、行方不明になっていた女性Aさん(当時21歳)に対する殺人事件だった。
しかし公判で、実はその事件だけでなく、男性が別の女性に対する承諾殺人の罪でも追起訴されていたことが判明した。
その事件は、既に県警が「自殺」だと断定して捜査が終了していた。
●小学生から「人を殺したい」欲望
検察側の冒頭陳述によると、男性は通信制の高校を卒業した後、アルバイトなどをしていた。犯行当時は無職で、両親と同居していた。
検察官は男性の異常性について、こう指摘した。
「被告人には小学生のころから『人を殺したい』という欲望があり、成長するにつれて、その欲望が強くなっていった」
男性は過去、窃盗と銃刀法違反の容疑で検挙されたことがあった。
この時の事件について検察官は、男性が「人を殺すなら抵抗されにくい小柄な女性や人気のない路地で襲おう」と考え、その予行練習と称して「相手にバレないように近づき、通行人のリュックなどからスマホを抜き取っていた」と主張した。
実際、検挙時の所持品検査で男性のポケットからはナイフが発見されていたという。
●男性は「心中希望者」のサイトを見るようになる
「通り魔は発覚しやすい」
そう考えた男性は、殺害の計画内容を変えていく。
検察側によると、男性は「『死にたい』という人なら抵抗もなく容易に殺害できて、発覚もしないだろう」と考えたという。
そこで、「心中希望者」が集まるサイトなどからメッセージを送りつづけた結果、Bさん(殺害時22歳)と出会った。
事前にBさんから「睡眠薬を飲ませた後に殺害すること」などの承諾を得た男性は、2015年10月、神奈川県横浜市にあったBさんの自宅を訪問。
自宅には男性とBさんの2人きりだったことから、男性は殺害行為に着手したとされる。
●男性は「自殺」を見せるための隠滅行為も
検察側の冒頭陳述などによると、はじめに男性はBさんに睡眠薬を服用させた。
「首を絞めて殺害しよう」と考えていた男性は、Bさんが眠りにつくまでの間、ベルトで輪っかをつくり、それをトイレのドアノブにかけるなどの準備をしていたという。
準備が終わると、男性はBさんの頬を叩いて眠っているのを確認。反応がなかったことから行動に出た。
「被告人は、Bさんの頸部を両手で絞めた。その瞬間、Bさんはうめき声をあげたことから手を離している」(検察側冒頭陳述から)
男性はその後、事前に準備したベルトの輪っかにBさんの首を入れると、吊り上げるように体重を一方にかけて殺害したという。
その際、Bさんの片目が痙攣していたため、男性は「死んでいないのでは」と考えたものの発覚を恐れて立ち去った。
検察側は、男性がBさん宅を去る前に「自殺と見せかけるために、事前に書かせた遺書を壁に貼った」と述べ、隠滅行為をしたと主張した。
●自殺と断定した神奈川県警
今回、問題になっているのは、事件が発覚した後の神奈川県警の捜査だ。
検察側によると、Bさんの母親が娘と連絡が取れなくなったことを心配し、翌朝に自宅を訪れ、合鍵を使って室内に入ったところ、Bさんの遺体を発見したという。
通報を受けて現場に到着した警察官は、遺書があることなどの状況を総合的に考慮して「Bさんは自殺した」と断定。神奈川県警はそれ以上の捜査をしなかった。
●亡くなった女性から「死ぬんじゃない、殺されるんだ」とライン
一方、両親の供述調書によれば、最初から「事件ではないか」と警察官にただしていたという。
第一発見者となった母親は供述調書で、事件前に娘からLINEで「死ぬんじゃない、殺されるんだ」というメッセージが来たことを明かしている。
さらに、「事件性」をうかがわせる出来事があった。
検察側によると、当時Bさんの死亡をその場で確認できなかった男性は、事件の2日後、再びBさんの家を訪問。亡くなっているのを確認しようと玄関ドアを開けた時、室内にBさんの両親がいたという。
「午前9時から10時ころに、玄関が開く音がしました。玄関の方を見ると、男性が一歩足を踏み入れようとしていました。私たちを見つけるとすぐに男性は逃げていきました」(父親の供述調書より)
父親は、「死ぬんじゃない、殺されるんだ」という娘からのメッセージを思い出し、すぐに玄関の方に駆け寄った。
しかし、「私は急いで玄関を開けて外を一瞥しましたが男性はいませんでした」。
●神奈川県警「捜査が不十分だった」と遺族に謝罪
両親は警察官にLINEのメッセージや、不審な男性がいたことなどを伝えた。だが、周辺に防犯カメラはなく、神奈川県警は「自殺」という判断を変えることはなかった。
父親は、不審な男性について申告した時、警察官からあしらわれたという。
「警察官は『警察が来ていたことから近隣住民が興味本位で玄関ドアを開けたのだろう』と言っていました。『よくこんなこともあるんですよ』とも言っていました」
初公判が終わった後の今年3月23日、神奈川県警はBさんの両親に対して、「当時の捜査が不十分だった」と認めて謝罪した。
●「座間事件」をきっかけに遺体を切断
その後、男性の「殺人願望」は暴走していく。
検察側によると、「殺人願望」が満たされなかった男性は、2017年に起きた男女9人が殺害された「座間事件」のニュースを見て、「殺して遺体の処理もしたい」と考えたという。
男性は2018年1月、Bさんと同じように、SNSで出会った女性Aさんを睡眠薬で眠らせ、ロープで首を絞めて殺害。Aさんの遺体から血を抜いて、頭部や手足を切断した。
切断した頭部は、事前に購入していた「ヒーター」を使って煮込むように処理したという。その後、準備していたキャリーケースに骨を入れ、頭蓋骨は棚の上に置いていた。
それから7年後、スマホを盗んだ窃盗の容疑で男性の家宅捜索に入った埼玉県警が、頭蓋骨などを発見。一連の事件が明るみになった。
●被害者の父親「お前のおもちゃじゃない」
検察官が次々と犯行の一部始終を説明する中、法廷の被告人席に腰をかけた男性は、表情を変えることなく淡々と聞いていた。
法廷で朗読されたAさんの父親の供述調書にはこんな悲痛な想いが書かれていた。
「絶対に許さない、お前のおもちゃじゃない」
