新卒で月60万円…!謎多き「地主株式会社」はなぜ日本一の初任給を実現できるのか?その驚異のビジネスモデル

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「初任給60万円」「平均年収1750万円」--この驚異的な数字を実現しているのは、総合商社でも外資系コンサルでもなく、東証プライム上場の「地主株式会社」だ。

同社の主力事業は、商業施設事業者に土地を長期で貸し出す「底地事業」。建物を持たず、土地だけに投資するという極めて地味なビジネスだが、116人という少数精鋭で86億円の営業利益を叩き出し、5期連続増益・過去最高益を更新し続けている。同社の2025年度の1人当たり営業利益は7414万円。高生産性で知られるキーエンスの1人当たり営業利益4484万円と比較してもダントツの高さだ。

その強さの源泉は「JINUSHIビジネス」と呼ばれる独自モデルにある。土地の仕入れからテナント誘致、投資家への売却まで一貫して担うことで、建築費や修繕費といったコストとリスクを構造的に回避し、高い利益率を確保しているのだ。

後編では、地主がなぜ少数精鋭でここまで異次元の生産性を実現できるのか、その理由をさらに深掘りしていく。

前編記事『日本一初任給が高い企業は商社でもコンサルでもなかった!「初任給60万円・平均年収1750万円」謎の会社の正体』より続く。

小売企業を契約のターゲットにした理由

長期の定期借地契約を結ぶことによって、地主の金融商品としての価値は上がります。つまり契約期間を長くできるような、途中撤退しにくい業種のテナントと契約を結べるかどうかが収益の肝です。

そこで地主がターゲットにしたのが日々の暮らしを支える小売業。GMS(総合量販店)や食品スーパー、ドラッグストア家電量販店、日用品・生活雑貨小売業などです。

こうした業種・業態には、それぞれの地域に根を張って価値が生まれるという特性があります。各地域に店が定着し、繁盛すればするほど撤退の可能性は低くなる。つまり、テナントが地域で愛される店になればなるほど、長期契約につながりやすい構造なのです。

底地のあるもともとの立地の良さに加えて、地域密着を志向する信用力の高い企業と長期契約を結べるようになってきたことが、地主ビジネスが安定成長してきた最大の理由です。

このような地主ならではの高収益企業体質を作り上げた背景にあるのが、同社創業時、まだJINUSHIビジネスを作り上げる前の同社の大きな失敗にありました。

滋賀のショッピングセンターでの失敗

その失敗とは、滋賀県の大型ショッピングセンター案件でのことです。この案件では「地主が借りた5000坪の土地に建物を建て、大手総合スーパーに貸す」という形態をとっていました。当時のテナントは売上規模1兆円を誇る総合スーパーでしたが、その後経営不振に陥り、店舗から撤退することになりました。

ところが、後継テナントは見つかったものの、「既存の建物のままでは入居できない」と譲りません。交渉の結果、オーナー側が建物の改装費用を負担したうえ、賃料の減額まで受け入れざるを得ない状況に追い込まれてしまったのです。

他者が使用する建物を所有することはこれほど恐ろしいことなのか。この経験を通じて、創業者の松岡哲也氏(現・取締役)は「そもそも建物を持たずに土地だけを貸せば、失敗に至らなかったのではないか」と考えたのです。これが今のJINUSHIビジネス発想の原点です。(以上、同社のスポンサードリサーチレポート参照)

その後、創業メンバーの1人だった西羅弘文氏(現・代表取締役社長)は、同社の認知度獲得のために旧社名・日本商業開発から地主株式会社へと社名を変更します。この企業名変更が市場に大きなインパクトを与え、同社の成長に寄与するきっかけになったと思われます。

22年には、その革新的なビジネスモデルが評価されて、競争優位性があり、かつ高い収益性を実現している企業を表彰するポーター賞(一橋ビジネススクール・国際企業戦略専攻主催)を受賞しています。

唯一の課題はフロー比率の高さ

同社が取引する企業は生活必需品を扱う小売業に加えて、ヘルスケア、教育、物流などの業種へと拡大。現在の取引社数は171社に、地主リートには年金や生損保など359社が投資するまでに広がっています。(同社決算資料より)

では同社の高収益を支えるJINUSHIビジネスには、特に穴はないのでしょうか。事業がかなり手堅い内容だけに、現状、大きな課題は見当たりません。あえて言えば、収益の大半をフロービジネスで賄っているということです。25年12月時点では、同社の売上総利益の70%がフロービジネス、ストックビジネスは30%です。

同社におけるフローとは固定資産売却です。現在は毎年600件以上の土地情報をもとに、年間で1000億円以上の仕入(25年12月期実績1420億円)を行っています。したがって新規に仕入れた分、持っている資産を入れ替えるために売却するという流れが順調に回っています。

(図表:同社決算資料をもとに筆者作成)

しかし、この土地の仕入がストップすれば入れ替えができなくなり、売却につなげられず、収益が上がらないという結果も考えられます。

26年3月末時点において中東情勢は混迷を極めており、今後、市況悪化懸念や投資家のリスク許容度低下で売却条件が厳しくなっていく可能性があります。すると同社の資本回転率が鈍り、高収益性を担保できないリスクが生じます。また、世界的な金利上昇局面にもあり、利回り要求が上がり続けるかもしれません。

同社でもこの点は課題としており、今後はストック収入を拡大させ、それのみで販管費を賄えるようにしたいと考えています。そのためには保有中の土地賃貸収益や地主リート拡大による資産運用事業の収益増が必要となります。

また、底地マーケットは今後も拡大すると見られており、同市場に競合企業が参入してくる可能性もあります。

(出典:地主株式会社「2025年決算説明資料」より一部抜粋)

こうしたリスクに対しても、今まで通り地道に、そして丁寧に一人ひとりの社員が取引企業に対応していけるか。高い初任給で働き始める少数精鋭の優秀な新入社員が、その能力をどれだけ発揮し、急成長していけるかにかかっていると言えるでしょう。

地主株式会社の今後の経営に注目したいと思います。

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