公民館で「太鼓の達人」を楽しむシニアのeスポーツ同好会。90歳・86歳・70歳のチームで<ねんりんぴっく>に出場!
いまや世界大会も開かれるなど、競技として確立されているeスポーツ。最近ではシニアのフレイル予防効果も期待されているという。eスポーツはシニアが楽しめるものなのか?実際に現場を取材し、その魅力に迫る(撮影:本社・奥西義和)
【写真】秋田で活躍するeスポーツのプロチーム、マタギスナイパーズ
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eスポーツはフレイル予防?
筆者(64歳)は「ハマったら仕事ができなくなる!」との恐怖から、ゲームに手を触れずに生きてきた。
ところが最近、「eスポーツはフレイル予防の効果が期待できる」という情報を発見。eスポーツは単なる娯楽ではなく、パソコンやゲーム機を使い、多種多様なゲームで対戦する競技なのだという。
興味は湧くものの、果たして我々シニアが楽しめるものなのか。実際に現場を覗いてみた。
一緒に《ドーンドン》――西東京市
西東京市の住宅街に立つ、ひばりが丘福祉会館。廊下には「カラオケ同好会」「麻雀の会」「健康体操」といった、シニアにはお馴染みの名称とともに、「eスポーツ同好会」の文字が。
「狭くてごめんなさいね」と笑顔で迎えてくれたのは豊富(とよとみ)満子さん(90歳)。朝10時の開始に合わせて三々五々集まってきたメンバー11人で、すぐに部屋はいっぱい。奥の机にテレビ、太鼓とバチの形をしたコントローラー2台が置かれ、音楽と画面に合わせてリズムを取るゲーム、「太鼓の達人」が始まった。
太鼓を叩くのは一度に2人までだが、周りで画面を観戦する人たちも、「ドーンドン、カッカッカッ」と声を出したり、リズムに合わせて手拍子をしたりして練習に余念がない。うまいプレーには拍手と歓声で盛り上がり、失敗しても「次はがんばって!」と励ます声で、まあにぎやかなこと、にぎやかなこと。
「今度、東京都のシニア向け交流大会で、『太鼓の達人』のトーナメント戦があって。出場予定の人は、課題曲の練習に熱が入っています」と教えてくれたのは、赤岩美由紀さん(70歳)。
「大会に出るなら練習しなくちゃいけませんからね」と語る植田和子さん(86歳)と赤岩さん、そして豊富さんの3人は、2024年に鳥取で開かれた「全国健康福祉祭(ねんりんぴっく)」に出場したメンバーだ。
市の健康イベントによく顔を出す豊富さんがeスポーツを体験してみたことをきっかけに、友人の2人を誘ってチームを結成。3人ともeスポーツはもちろん、コンピュータゲームもまったくの未経験だった。
「子育てをしていたのが、ちょうどテレビゲームが出始めの頃。子どもには『一日何分まで』と言い聞かせていました。基本的に『やってはダメなもの』と思っていたから、まさか80歳を過ぎている自分が始めるなんて」と植田さん。
赤岩さんも、「周りにはゲーム好きの人もいましたけど、私は『時間の無駄かなぁ』と思うタイプでした(笑)」。
鳥取で行われた大会本番では、各地の強豪チームを前にあっけなく敗退してしまったものの、豊富さんと植田さんが「最高齢者賞・高齢者賞」を受賞。メディアにも取り上げられ注目を集め、その後もメンバーは地域のイベントなどでeスポーツを広める活動を続けることに。
仲間も増え、昨年からは現在の場所で同好会としての活動も始まった。「市内6ヵ所の福祉会館にeスポーツ専用の機器とサークル室ができたのは嬉しかったですね」(豊富さん)

左から植田さん、赤岩さん、豊富さん
互いに褒め合って
取材で印象的だったのは、こうした普及活動ではデジタルに強い若い人が指導に入ることが多いと思うが、この会はシニアだけで運営されていたこと。初心者にはメンバーが機器の使い方を教え、互いにアドバイスし合う。
「若い方はカタカナ言葉に慣れているから、説明が少しわかりづらいことがあるんですよ。私たちはその点、自分がわかったようにしか説明できませんから」との植田さんの言葉に、大いにうなずかされた。
メンバーの中には、同好会での活動のほか、「健康デジタル指導士」という市の養成研修に参加して、イベント会場で初心者にeスポーツのやり方を教え、運営をサポートするボランティアとして活躍する人も出ているというから頼もしい。
練習の甲斐あって、ゲームの腕前は、少しずつ上達してきたという。しばらく休むと、そのぶんだけ腕がにぶるというメンバーの意見もあった。
「といっても、いい点数を取ろうとやっきになるんじゃなく、『前回より何点上がったね』『あの難しい箇所をクリアできたのがすごい!』と小さな成長を見つけて褒め合えるのが、嬉しい」と赤岩さん。確かに、気負わずに楽しめるのも、シニア同好会ならではのよさといえるだろう。
赤岩さんは自宅にも「太鼓の達人」ができるゲーム機を備えてみたが、実際に叩いたのは2〜3回。「やっぱりみんなでワイワイ集まってやる楽しさには勝てませんね」。
植田さんも、「この年になると、家でも外でも大声を出すことは滅多にないでしょう。それがここに来ると、お互いの点数で冗談を言い合ったりして、大笑いできるのが気持ちいいんですよ」と話す。
市が大学との共同研究で高齢者にeスポーツを試行的に行ってもらったところ、フレイル予防の効果について肯定的な結果が出たという。その点について3人は、「あまり実感がない」という意見だ。
しかし御年90歳という豊富さんを始め、ほかのメンバーの方々も元気で活動的。表情は生き生きとして、おしゃべりも活発だ。「新しいもの好きで、『面白そう』と思ったらすぐ飛びつく好奇心が、共通しているかもしれません」と豊富さんは微笑む。
フレイル予防にeスポーツを取り入れる自治体は、全国で増えているという。「とにかく少しでも興味があったら、チャレンジしてみてください。きっと世界が広がりますよ」という3人からのエールを胸に刻んで、帰途についたのだった。
<後編につづく>
