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中東情勢悪化をはじめとした地政学リスクの高まりや米金融政策の不透明化、米ドルの下落基調など、2026年に入りマクロ環境は大きく変化しています。1月に急落する場面があったものの、2月に1オンス5,250ドルを突破し、「金」は短期金利の低下や金ETFへの資金流入、構造的なドル安の進行を背景に、引き続き堅調な需要を見せています。2026年3月の金市場動向より、高騰を支える要因と今後の展望についてみていきましょう。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。

地政学的リスクの高まりで、引き続き追い風の「金」

中東情勢悪化で米ドルや金などの「安全資産」需要高まる

中東で地政学的緊張が再び表面化して原油価格が少なくとも一時的に急騰したことから、マクロ市場において米ドルや金などの安全資産に対する需要が高まっています。

石油関連商品は総合消費者物価指数(CPI)の重要な原動力であり、生産者物価指数(PPI)の主要構成要素であることから、米国のブレークイーブン・インフレ率の上昇は3月初旬の米国債利回りに上昇圧力を与えています。

金のスポット価格は2月に7.9%上昇し、1オンス5,250ドルを超えました。これに対し銀は10.1%上昇し、ビットコインは14.7%下落、コモディティ価格は1.1%の上昇にとどまりました※1。リスク調整後ベースでは、金は銀、ビットコイン、S&P500指数を2ヵ月連続でアウトパフォームしています※2。

イラン情勢がさらに緊迫化した場合、1オンス5,500〜5,600ドルを再び試す展開が3月に訪れる可能性があります。

金ETF好調も、保有比率は依然低く拡大余地を残す

2月の米国上場金ETFへの純資金流入額は45億ドルに上り、2026年年初来の累積流入額は105億ドルに達しました。これは、2025年1〜2月の63億ドルを上回っています※3。

金価格が2025年に約65%上昇したにもかかわらず、世界のETFおよびミューチュアル・ファンド(投資信託)に占めるグローバルの金ファンド資産の割合は、2025年末時点でわずか1.0%弱にとどまりました※4。

金は依然としてポートフォリオにおける保有比率が相対的に低い資産であることから、2026年にかけて戦術・戦略の両面から保有拡大の余地が大きいと当社はみています。

ドル弱含みでも金堅調、為替不安が再燃

米ドルは年初来で軟調な動きが続いているものの2月はほぼ横ばいとなり、3月初旬には上昇に転じています。ウォール街のコンセンサスは依然として弱気であり※5、米ドル建て効果を通じて金や貴金属価格に追い風となる可能性があります。

金は年初来から米ドル・ベースで堅調に推移しており、特に一部の高ベータ通貨(オーストラリア・ドル、ノルウェー・クローネ、ニュージーランド・ドル)をアウトパフォームしています。

G10通貨のインプライド・ボラティリティは1月に上昇した後、2月には落ち着きましたが、3月に再び上昇する可能性があります※6。

金価格見通しは「強気シナリオ」優勢

米金利低下で、金の保有コストが縮小

利息を生まないコモディティである金を保有する機会費用は2月も引き続き低下しました。米国イールドカーブの中期ゾーンにおける実質利回りは大幅に低下し、5年物インフレ連動米国債(TIPS)の利回りは1.0%を試す展開となり、2022年末以来の低水準となりました※7。

米国債利回りはここ数週間、すべての年限を通じて低下しています。短期金利のトレーダーは7月の利下げを強く織り込んでおり、2026年の累積利下げ幅を約57ベーシスポイント(bp)と予想しています※8。

金は1オンスあたり5,500〜6,250ドルの「強気シナリオ」優勢

金価格に対する当社の見通しは引き続き強気に傾いています。当社の基本シナリオは1オンスあたり4,750〜5,500ドル(50%の確率)で、強気シナリオでは5,500〜6,250ドル(35%の確率)を目標レンジとしています。

当社は、1オンスあたり4,400〜4,600ドルのレンジにきわめて強力な下値支持線があると見ており、弱気シナリオでは4,000〜4,750ドル(15%の確率)を引き続き予想しています。

[図表1]今月のチャート:金はビットコインや銀と比較して「低ボラティリティ」資産★1

オルタナティブ資産の「値動きの違い」に注意

通貨安で金・BTCに資金流入も、安全性に課題

2025年にはグローバルなディベースメント取引(通貨価値切り下げトレード)が勢いを増し、個人投資家や機関投資家がビットコインや銀、金への資産配分を増やしました。

しかし、これらのフィアット通貨のオルタナティブ資産は、特に過去の価格ボラティリティや下落幅を考えると、オルタナティブ資産にはなり得ません。通貨の下落リスクや購買力低下リスクをヘッジしようとする投資家は、次のように自問するかもしれません。

「エクスポージャーをとろうとしているのは、低ボラティリティのフィアット通貨のオルタナティブ資産なのか、それとも高ボラティリティの投機的資産なのか?」

金は安定の一方で、BTCと銀は乱高下の傾向

過去10年間の30日移動平均ボラティリティのデータによると、ビットコインは約52.0ポイント、銀は約25.1ポイント、そして金は約13.6ポイントのボラティリティ資産です※9。つまり、過去10年間でビットコイン価格のボラティリティは金の約4倍、銀は金の約2倍でした。

注目すべき点は、同期間に金価格のボラティリティはS&P500指数よりも約1.5ポイント低かった一方、ビットコインと銀のボラティリティはS&P500指数を上回る水準を維持し、米国株式市場に対するベータは引き続き高い傾向にあります※10。

大幅な価格下落は、過去のボラティリティ・パターンと一致しています。2016年1月から2026年2月にかけて、ビットコインは8%を超える月次の下落を30回記録、銀は同様の下落を9回記録したのに対し、金は米大統領選後の2016年11月に1回記録したのみでした※11。

2016年以降における金市場の平均月次リターンはビットコインや銀に劣るものの、金融市場での流動性、分散効果および相対的な価格安定性は、フィアット通貨のオルタナティブ資産へのエクスポージャーを求める投資家にとって重要な検討事項です。

重要な点は、主要新興国の中央銀行も自国の準備資産分散戦略の一環として、ビットコインや銀ではなく金を購入していることです。これらを総合すると、金はポートフォリオにおける左側のテールリスクに対するヘッジ手段として捉えることができるでしょう。

ビットコインや銀にもフィアット通貨のオルタナティブ資産としての特性は一部ありますが、当社はこれら2つの資産は、右側テールリスクを有する高ボラティリティの資産と見ています。

実際、2026年にオルタナティブ・フィアット通貨市場全体でボラティリティが急上昇した局面でも、金は他のフィアット通貨のオルタナティブ資産よりも価格変動が小さく安定していました。

[図表2]短期利回りの低下に伴い金ETFの需要は増える傾向★2

FRBの方針と利回りが「金ETF需要」を左右する

FRB議長交代で政策不透明化、金に追い風

当社は以前、米連邦準備制度理事会(FRB)の議長交代における政策の不透明性に対する金のヘッジ効果についてレポートを発表しましたが、そのなかで指摘した「政策の不透明性チャネル」が顕在化しているようです。

ケビン・ウォーシュ氏が次期FRB議長に指名されたことを受け、市場は今後の金融政策フレームワークを再評価しつつあります。ウォーシュ氏は一貫して、「中央銀行のファストフードを脇に置くべきだ」と主張してきました※12。

これは、短期的なデータ・サプライズへの過度な依存、過剰なフォワード・ガイダンスおよび戦術的なメッセージの発信を避け、より明確なマンデートと規律ある政策運営を重視することを意味します。同氏がこれまで、信頼性、抑制的な市場介入、データに対する謙虚な姿勢を重視してきたことを受け、市場が低成長・低インフレの環境を織り込みやすくなる可能性があります。

こうした状況は歴史的に、短期利回りの低下と金などの実物資産ヘッジに対する需要の増加と連動してきました。

2026年1月30日に新たなFRB議長が発表されて以降、2年物米国債利回りは12〜15bp程度低下し、2年物米国債利回りと政策金利(フェデラルファンド金利)の誘導目標レンジ上限との差は再び拡大し始めています※13。これは早期緩和シナリオに向けたポジション調整がすでに始まっていることを示唆している可能性があります。

短期金利が引き続き低下した場合、短期金利のボラティリティは低下すると見込まれます。それに伴い、実質および名目金利の低下に対して正のコンベクシティを有する、金裏付けETFなどの資産へ資金移動する機会が生じるものとみられます。

短期金利低下が金ETFを押し上げる構図

歴史的に見て、短期利回りの低下と金ETFへの大量の資金流入は同時発生することが多くありました。図表2が示すとおり、ブルームバーグが算出する既存の金ETFの総保有高は、2年物米国債利回りの低下に伴って増加する傾向にあります。

2026年の金融緩和の道筋がより大きく市場に織り込まれた場合、「期待実質金利の低下→金ETF保有高の増加→現物市場のひっ迫化→金価格への上昇圧力」というよく知られたフィードバック・ループが再び現れる可能性があります。

[図表3]米ドルは長期的なサポート水準を試している★3

「構造的ドル安」が引き続き金需要を押し上げる

米ドルは2025年に約9.4%下落し、年間下落率としては2017年以来最大となりました。これは1971年に米国が金本位制を停止して以来、9番目に大きな下落率となります※14。

2025年の米ドル安は、金のドル建て価格に起因する米ドルとの長年の逆相関を反映し、2025年に金価格が上昇する主な要因となりました。その後、米ドルは1月下旬に4年ぶりの安値を更新し、足元では1980年以降の長期平均と15年来のトレンドラインの双方を試す展開となっています※15。

3月には米ドルを安全資産として買い戻す動きがありましたが、米ドルが節目となる水準を明確に割り込んだ場合は、構造的な米ドル安局面の始まりを示唆する可能性があります。その場合は、歴史的に見て持続的な金需要を支える環境となります。

ドル離れが進み、各国で金の保有が急増

金融制裁の対象先を広げる動きにより資金を米ドルから金に移す分散投資が加速しており、世界の外貨準備に占める米ドルの割合は1994年以来の低水準(約40%)まで低下する一方、金の割合は1991年以来の高水準(約30%)まで上昇しています※16。

2025年末時点で、米ドルの準備高は前年比約12%減少した一方で、金の準備高は前年比約40%増加しています※17。

米ドル下落バイアス強く、金に有利な環境

米ドルは、1月後半にG7間金利との乖離が一時的に生じた後は安定し、G7の金利格差が示唆する水準まで戻りましたが、全体としてのバイアスは依然として下方向です※18。米国債カーブのスティープ化、米財政赤字の拡大、対外政策と貿易政策に関する不透明感の高まりが相まって、マクロ環境は米ドルに不利な方向へ傾いています。

これは、米国債に対する海外投資家の需要に影響を及ぼす可能性があります。

コンセンサス予想では、米ドルは2026年末にかけてさらに3%程度下落すると見込まれ※19、目先のコンセンサスリスクは、米ドルの持続的な安全資産としての反発ではなく、米ドルが再び下落方向に傾いていることを示しています。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohanad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)