「補助金」はもらえなくても価値がある?…研究結果から見えてきた、「申請プロセス」が中小企業の成長にもたらす驚くべき効果【公認会計士が解説】
補助金活用を考える中小企業は「採択されること」を重視しがちですが、実証研究は意外な事実を示しています。生産性や売上の伸びを左右するのは、補助金を受け取ったかどうかではなく、「申請というプロセスそのもの」にあるというのです――。経済産業省の制度を対象に独立行政法人経済産業研究所(RIETI)が行った分析結果をもとに、公認会計士の岸田康雄氏が補助金の“本当の価値”を紐解きます。
ほとんどの人が誤解している「補助金」の“本当の価値”
多くの中小企業経営者にとって、「補助金」や「助成金」を確保することは、事業の成長を後押しする有効な手段でしょう。新たな設備投資や販路拡大に踏み出すには、まとまった資金の確保が不可欠だからです。
しかし、企業の成長にとって本当に重要なのは、「受け取るお金」そのものではないかもしれません――。
経済産業省が2013年に開始した「小規模事業者持続化補助金(BSS)」を対象に、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)が行った研究は、この一般的な認識に一石を投じました。同研究では、補助金制度の価値が資金給付そのものではなく、“別の部分”に存在する可能性を示唆しています。
では、補助金制度において多くの企業が見落としている「もっとも価値のある要素」とはいったいなんなのでしょうか。
補助金の価値は受給そのものではなく「申請プロセス」にある
研究が明らかにした最も注目すべき点は、補助金を受け取った企業と、申請したものの不採択だった企業とのあいだで、生産性や売上成長に明確な差が見られなかった点です。つまり、補助金という資金援助を実際に受け取ったかどうかは、その後の企業業績に直接的な影響を与えていなかった可能性があるということです。
この結論は、「回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design)」や「差分の差分法(Difference-in-Differences)」といった厳密な実証手法に基づいて導かれています。直感に反する結果ではありますが、研究はさらに重要な事実を示しています。
補助金に「申請した企業」(採択の有無を問わない)は、「申請しなかった企業」と比較して、より高い生産性と売上成長を達成していたのです。
重要なのは、この効果が採択結果とは無関係に観測されたこと。つまり、補助金の価値は「結果」ではなく「プロセス」にあった可能性が高いといえます。
論文では、次のように述べられています。
「我々は補助金の申請企業が非申請企業よりも高い生産性と売上成長を達成していることを見出した。この発見は、申請という行為自体が、外部支援を通じて企業自身の事業課題への自発的な取り組みを促し、生産性向上につながることを示唆している」
「事業計画の可視化」と「第三者の視点」が会社を強くする
では、なぜ申請という行為そのものが生産性向上につながるのでしょうか。研究では、その理由として主に2つの要因があるとしています。
1.「事業計画書」で自社のビジョンが可視化される
持続化補助金の申請においては、「事業計画書」の作成が必須です。
売上や生産性を高めるために、自社の課題や目標、施策、数値計画を言語化する作業は、自社の戦略を改めて整理・分析するきっかけとなります。こうした整理のプロセスが、結果として企業の強みを磨くことにつながるのです。
先行研究でも、戦略的な計画策定がタスク遂行能力を高め、競争力の向上につながることが示されています。
2.専門家からの助言やサポートを受けることができる
また、小規模事業者持続化補助金の申請者は、日本商工会議所(JCCI)や全国商工会連合会(CFSCIJ)などの支援機関から、事業計画に関する助言やコンサルティングを受けることができます。
内部リソースが限られがちな中小企業にとって、こうした専門家からの客観的なフィードバックはきわめて貴重です。多くの経営研究においても、外部の視点が中小企業の成長要因となることは広く指摘されています。
とりわけ効果が顕著だった「業種」は…
さらに研究では、産業別の分析も行われており、補助金申請が特に成果につながっていたのは「サービス業」であることがわかっています。
なお、ここでいうサービス業には、インフラや通信、物流、卸売、金融、不動産、学術、宿泊、娯楽、教育、医療、複合サービスなど幅広い分野が含まれます。反対に、製造業や建設業では効果が限定的でした。
サービス業は、人のスキルや経験に支えられている部分が大きく、戦略の整理や外部の意見を取り入れることが業績に影響しやすい業種です。だからこそ、申請の過程で行う計画の可視化や専門家からの助言が、結果として生産性向上に強く作用した可能性があると考えられます。
自社を成長させるための「新たな視点」
この研究は、中小企業の成長戦略を考えるうえで、新たな視点をくれるものです。小規模事業者持続化補助金の本当の価値は、資金そのものよりも、
・戦略の言語化
・専門家の助言
・経営課題の可視化
といった「申請プロセス」にあるのではないか――。
自社を軌道に乗せるための第一歩は、「資金調達」に躍起になることよりも、まず自社の現状とビジョンを整理し、具体的な事業計画をつくることにあるのではないでしょうか。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
