温かい飲み物がトレンドに TikTok発「中国医学的な生活」が米国でウケる理由

記事のポイント
中国伝統医学に基づく極めて素朴な生活習慣が、TikTokを通じて今、若者の間で爆発的なブームとなっている
複雑化するウェルネス経済のなかで、リンゴを煮るだけのような簡便さが多くの消費者に新鮮に響いている
特定のブランドは、この自然発生的なトレンドを追い風にサイト流入数や認知度を劇的に向上させている
TikTokでは、突然、誰もが中国人化している。
人種や文化的背景を越えて、圧倒的にポジティブな広がりを見せる珍しいトレンドである。ユーザーたちは、リンゴをゆでたお湯を飲む様子を記録したり、家の中を裸足で歩かないようにルームスリッパを購入したり、朝食から冷たい食べ物をやめたりする動画を次々と投稿している。
シェリー・ズー氏が先導するチャイニーズ・バディの波
多くのクリエイターが参加しているが、このムーブメントを主導してきたのは、TikTokフォロワー71万1000人を抱えるシェリー・ズー氏である。ズー氏の「バディ・スターターキット」プレイリストには複数の投稿が含まれており、その一部は200万〜600万回の再生数を記録している。
ズー氏は事実上のトレンドセッターとして、中国伝統医学(TCM)の実践を解説する動画を通じて、新たに参加する人々を「チャイニーズ・バディ」時代へと導いている。
そうした動画のひとつで、ズー氏は次のように語っている。
「OK、今日から中国人になったわけだから、知らないかもしれないけど、中国人は実は家の中でスリッパを履く。清潔さのためというよりも、身体の健康を保つため。もし家の中を裸足で歩いていたら、冷たい床に直接触れることになる。つまり、冷えを体内に取り込んでしまい、その結果、身体が弱くなる。病気になりやすくなるし、体が病気と戦うための力を失った状態になる。でもスリッパを履いていれば、温かさを維持しやすくなって、病気になる可能性も低くなる」。
懐疑的な視線を好奇心に変えたウェルネスの変遷
TCMを基盤とするブランドにとって、このトレンドはチャンスであると同時に、彼らが長年支持してきた伝統が初めてメインストリームに入り込んだ瞬間でもあるかもしれない。
ハーブチンキ(ティンクチャー)ブランドのエリックス(Elix)創業者であるルル・ジー氏は、2020年に会社を立ち上げて以来、TCMについて語り続けてきた。これまで、この分野はかなりニッチだったという。
中国医学では温かい飲み物を飲むことが推奨されるが、ジー氏がその習慣を伝えると、消費者からは懐疑的な反応や、ときには反発すら受けてきた。「私はアイスコーヒーが好き。冷たいダイエットコークも好き。それを誰にも取り上げさせない」というのが、よく聞かれる決まり文句だった。
しかし今は、様子が違うとジー氏は語る。彼女がもっとも強く感じているのは、「人々が圧倒的に前向きで、好奇心を持っている」ことだという。TCMをベースにしたウェルネスティーブランド、ザ・チー(The Qi)の創業者であるリサ・リー氏も、Glossyとの対談のなかで同様の見解を示した。
「この話題について話せるのが本当にうれしい。私にとってとても興味深い現象。もちろん、私はずっと前から中国人だけど」と、彼女は冗談を交えて語り、育ってきた文化に突然注目が集まっていることに触れた。
文化的な本物らしさと信頼がトレンドを加速させる
TikTokフォロワーが5万4000人以上いるリー氏は、長年にわたって同プラットフォームで中国文化を発信してきており、いくつかの動画は一定の広がりを見せてきた。
それでも、今回の盛り上がりについては、ズー氏のブレイクが大きいと考えている。「彼女は楽しくて、面白い。そして、とても本物らしさがある」とリー氏は語った。
同時にリー氏は、このトレンドの背後にある長い歴史も強調した。
「これらの習慣はトレンドではない。何千年も前から存在してきたもの。何十億もの人々を癒やし、育んできた。だから、ズー氏がそれらを本当に楽しく新鮮な方法で紹介できているのは、とてもエキサイティングなことだ」。
このTikTokトレンドは、新年のはじまり頃から勢いを増しはじめた。ズー氏の投稿や、それに触発された多くの動画は、あからさまに政治的なものではないが、そのタイミングは、米国にとって特に困難な時期と重なっている。
社会的不安を背景に求めるコントロール感
1月7日以降、米移民税関捜査局(ICE)はミネアポリスで2人の米国市民を殺害している。
ジー氏にとって、現在のTCM実践への関心の高まりは、より広範な政治的・社会的状況と密接に結びついている。
「ソーシャルメディアを開くと、戦争や飢饉、世界的な苦しみといった、不安定で不確実なニュースばかりが目に入る。そうしたなかで、今の世界に対して無力感を覚えている人がとても多い。そしてそこに、この国の経済的不安定さ、政治の世界で起きていること、医療へのアクセスを失う人々、医療費の上昇が重なり、人々は強い無力感を感じているのだと思う」と彼女は語った。
ジー氏によれば、一部の人にとって「チャイニーズ・バディ」になることは、コントロール感を取り戻すためのひとつの方法なのだという。
さらに、高価なサプリメントや会員制サービス、LEDマスク、その他の手の込んだウェルネス・ルーティンが支配するウェルネス経済のなかで、スライスしたリンゴを水で煮るだけで一定の健康が得られるかもしれない、という考え方は新鮮に映る。
さらに深く見ると、中国と米国の関係に対する意識も変化しつつあるようだ。中国は歴史的に米国の貿易上のライバルであったが、米国が中国と関与することへの支持は高まっている。
シカゴ国際問題評議会が2025年10月に実施した世論調査では、米国人の53%が中国との協力を支持しており、これは2024年の40%から上昇している。
旧正月の商機とオーガニックなブランド成長
ジー氏とリー氏の両者は、「中国化」のトレンドを概ねポジティブなものとして捉えており、人々が自分たちの文化に対して真の好奇心を示していると感じている。
エリックスはアンバサダープログラムを通じてクリエイターと協業しており、すでに一部のクリエイターが、このトレンドを取り入れたブランド関連コンテンツを制作している。
月初から現在までで、同ブランドのWebサイトへのトラフィックは40%増加し、ソーシャルインプレッションは前週比で250%増となっている。また、オンラインの健康アセスメントを完了するために、同社のECサイトを訪れる消費者も増えているという。
この流れをさらに活かすため、ジー氏は今月17日の旧正月に合わせたブランドプロモーションと関連コンテンツの準備を進めている。
「これ以上ないほど、タイミングがぴったりだった」と彼女は語る。
「中国で育つすべての子どもにとって、もっとも大切な文化的伝統のひとつは、現金がいっぱい入った紅包(ホンバオ)(赤い封筒)を受け取ること。紅包は幸運、富、そして繁栄の象徴だ」。
シンプルさがもたらすウェルネスの民主化
4日から、エリックスはすべての注文に対し、エリックスの「ラッキーキャッシュ(幸運の現金)」、つまりギフトカードを入れた紅包をプレゼントしている。また、旧正月に向けて中国の伝統に関するコンテンツも制作しているという。
エリックスは、このトレンドについて投稿するよう、クリエイターに直接支払ったことはない。その代わりに、すでにトレンドに参加している人々に声をかけ、商品を試したり、中国医学の医師との1対1の相談を予約したりする機会を提供している。
ジー氏自身の動画のなかにも広がりを見せたものがあり、アジア系の母親からの5つのアドバイスを紹介した動画は、再生数77万7000回を超えた。
そこでは、サツマイモやキノコといった「グラウンディング」フードを食べることや、腹式呼吸を意識することなどが紹介されている。
リー氏も、なぜ今このトレンドが響いているのかについて、ジー氏の見解に同意した。
「皆、シンプルで、心を落ち着かせてくれて、少し楽しく、それでいて本当に体によく、しかも手が届きやすいものを求めている」と彼女は語る。
「リンゴとお湯なら、誰でもできるでしょう。本当にシンプルなのよ」。
[原文:Glossy Pop Newsletter: As TikTok embraces ‘Chinese Baddie’ culture, TCM brands see a breakthrough moment]
Sara Spruch-Feiner(翻訳、編集:藏西隆介)
