『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

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 サンリオが初のオリジナルキャラクターを生んだのは1973年のこと。それから50年以上が経った今、かわいらしい見た目の“ファンシーキャラクター”は根強い人気を獲得するに至った。

参考:『ちいかわ』「セイレーン編」映画化 ナガノ「楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです!!」

 とはいえそのなかでもさまざまな流行り廃りがあるようで、最近では人間に「キュートアグレッション」の感情を引き起こさせるようなキャラクターの人気が爆発している。いくつか具体例を挙げながら、現代のキャラクターコンテンツを俯瞰してみよう。

 そもそもキュートアグレッションとは何かというと、小さな動物やぬいぐるみなどのかわいいものを見たときに、ちょっとした攻撃的な衝動が湧き上がってしまう人間の心理現象を指す。若者のあいだでは「キューアグ」という略称でも浸透しているようだ。

 その代表的なコンテンツとしては、ナガノが原作を手掛ける『ちいかわ』が挙げられるだろう。主人公のちいかわをはじめとした“小さくてかわいいキャラ”のほのぼのとした日常を描く作品……と見せかけて、彼らの身にさまざまな危険が襲いかかるというダークな作風となっている。

 作中に登場する「敵」の種類は色々。行動の自由を奪って食べようとしてきたり、おかしなセリフを吐きながら攻撃してきたりと、理解できない生態をしており、その見た目も奇妙なものばかりだ。超常的な力によって悪夢のような目に遭わされることもあり、ちいかわたちの不憫な姿や必死に生きようともがく姿を見ていると、不思議な感情が湧き上がってくる。

 また2026年夏の公開が発表された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』では、同作のなかでも屈指の恐ろしさを誇る「セイレーン編」が題材となる(※)。これは強大な力をもつセイレーンとの戦いを描いたエピソードで、不穏な展開が多いことからある種のホラーとして受け取る人も。SNS上では、劇場版が「PG指定になるのでは?」という声すら上がっているほどだ。

 「セイレーン編」にかぎらず、『ちいかわ』は登場人物たちが物理的にダメージを負うところだけでなく、精神的に追い込まれる様子を丹念に描いているのが特徴。仲間たちが次々いなくなって1人で頑張らなければいけなくなったり、草むしり検定の試験に1人だけが何度も落ちてプレッシャーを感じたりと、あの手この手で窮地に立たされるのだ。その様子は間違いなくかわいそうではあるが、なぜか「もっと見ていたい」という感情を喚起されてしまうところがある。

■『おぱんちゅうさぎ』『モルカー』も 広がる「キューアグ」ブーム 『ちいかわ』以外の作品でキュートアグレッションを感じさせる作品といえば、イラストレーターの可哀想に!が手掛ける『おぱんちゅうさぎ』が思い浮かぶ。

 主人公のおぱんちゅうさぎは、普通に毎日を過ごしているだけでやたらと理不尽な不幸が襲い掛かってくるキャラクター。トイレの行列に並んでいる際、ようやく自分の番が来たと思ったらそこは個室ではなく清掃用具入れで、どんどん順番を抜かされるため仕方なく最後尾に並び直す……という姿などが描かれている。どれだけひどい目に遭ってもくじけず、健気にがんばろうとする姿がかわいそうであり、かわいくもある。

 同じく可哀想に!が手掛けている『んぽちゃむ』も、同系統の人気作品。ただし主人公のんぽちゃむは最初こそ不憫だったが、段々“憎たらしさ”が強調されるようになっており、路線が変わっているようにも見える。

 そのほか、2021年からテレビ東京系で放送され一大ブームを巻き起こしたストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』も、キュートアグレッション的な消費のされ方だった。

 羊毛フェルトで作られたキャラクターはもふもふとしていてかわいらしく、健気ながんばりを応援したくなるのだが、作中では度々悲惨な目に遭わされることに。たとえばシーズン1の第2話では、銀行強盗に銃で脅されて震えながら命令に従うモルカーの姿が描かれ、「かわいそうでかわいい」と話題を呼んでいた。

 なぜかわいいキャラがかわいそうな目に遭うと、心が満たされてしまうのか……。その理由をここで紐解くのは難しいが、キュートアグレッション系の作品をまとめて眺めると、深刻な不幸というよりも日常生活のレベルで起きるちょっとした不幸がよく描かれている印象を受ける。それによって受け手の側が、かわいそうな目に遭うキャラクターに強く感情移入し、共感を寄せられる構造になっているのではないだろうか。

 すなわちどこか遠くで不幸になるキャラクターを眺めて面白がっているわけではなく、自分と同じような生活を送っているキャラクターをすぐそばで励ますような感覚がここにはあるのかもしれない。

 昔と比べて、大きく性質が変わっているファンシーキャラクターたちの世界。次はどんなヒットコンテンツが出てくるのか、注目していきたいところだ。

参照※ https://realsound.jp/movie/2025/11/post-2229146.html(文=キットゥン希美)