投資のプロも注目…"知名度は低いのに世界シェア1位"の日本の隠れた超優良企業の名前
※本稿は、田宮寛之『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■世界シェアNo.1の日本企業は、じつはたくさんある
「日本にはGAFAMのような企業がない」
「1989年には世界の時価総額ランキング50位以内に日本企業が32社あったが、今は0社」
「かつて世界を席巻した日本の半導体企業に昔の面影はない」
近年は日本企業について否定的なコメントを聞くことが多い。バブル崩壊後の“失われた30年”の間に、日本企業は本当に競争力を失ってしまったのだろうか。
そんなことはない。世界シェアナンバー1の日本企業は今も多数存在し、日本経済のみならず世界経済を支えている。例えば、花形の基幹産業である自動車業界ではトヨタ自動車が世界シェアトップを誇る。
しかし、その一方で、自動車業界のような巨大マーケットではなく、小規模なマーケットで世界シェアが圧倒的に高く、世界のサプライチェーンで非常に重要な企業が日本にはたくさんある。
こうした世界のニッチ(すき間)分野で勝ち抜き、サプライチェーン上で重要な製品を持つ優良企業を「グローバル・ニッチ・トップ(GNT)企業」と言う。
欧州でピーター・ドラッカーの次に影響力のある経営思想家と称されるハーマン・サイモンは、GNT企業を「Hidden Champions(隠れたチャンピオン)」と呼ぶ。目立たないが技術やノウハウにすぐれており、経済を支える企業という意味だ。
GNT企業が活躍するニッチ分野は市場が小さいので、新規参入が少ない。また、どの業界でもトップ企業には情報や商談が優先的に集まってくる。トップ企業は2位以下企業よりも優位にあるのだ。ゆえにGNT企業はその業界で圧倒的に強く、その地位はなかなか揺るがない。
GNT企業は大手メーカーの下請けからスタートしたケースが多いこともあり、一般消費者向けのBtoC企業ではなく、企業を相手に取引するBtoB企業であることが大半だ。また、グローバル展開していて対象マーケットは海外にあるため、本社を東京や大阪に置く必要がなく、地方に置くケースも多い。
そうした背景もあって、GNT企業は知名度が低く、すぐれた技術とノウハウを持ち業績も良好なのに、人員採用に苦労しているところさえある。
■半導体の世界王者TSMCも認める日本のGNT企業
半導体受託製造会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は日本進出にあたり、工場だけでなく研究開発のための「TSMCジャパン3DIC研究開発センター(JRDC)」を設立した。TSMCがクリーンルームを備えた研究開発施設を台湾以外に設立するのは初めてのことである。
TSMCは日本国内の半導体関連企業と共同で研究開発を進めているが、この中には信越化学工業、東京応化工業、ディスコ、レゾナック・ホールディングス、イビデンといった企業が名を連ねる。
TSMCがこれらの企業を研究パートナーとして選んだのは、GNT企業だったからだ。
信越化学は半導体ウエハーの製造で、東京応化工業はウエハーに塗る化学薬剤で、ディスコはウエハーを切断したり研磨したりする装置で、レゾナック・ホールディングスは後工程材料で、イビデンは半導体パッケージ基板で世界シェアトップを誇る。
これらの企業は各分野のナンバー1だからこそ、共同研究の機会を得て、他分野のナンバー1企業と交流することができる。そこで得られるメリットは計りしれない。
そして、TSMCとの関係が深まればTSMCからの発注が増えるし、TSMCが日本以外で事業展開するときにはTSMCから提携の声がかかるだろう。ナンバー1企業だからこそ、さらに成長する。

■世界シェア90%の安全弁専門メーカー
半導体業界以外にも、GNT企業は数多くある。
たとえば大阪府に本社を置く福井製作所は、世界でも珍しい安全弁専門メーカーだ。特にLNG(液化天然ガス)運搬船に設置されているLNGタンク用安全弁を得意としており、その分野では世界シェア90%を誇る。
今後、世界的に液化水素、液化アンモニア、液化CO2を運搬する需要が高まるため、さまざまな実験プロジェクトが世界中で実施されている。安全弁トップメーカーの福井製作所はこうしたプロジェクトへの参加を必ず要請される。プロジェクトを推進する企業や団体は安全弁トップメーカーの福井製作所の技術を必要としているのだ。こうした液体運搬に関する情報が福井製作所に集まってくるのは言うまでもない。
福井製作所はいずれ、液化水素・液化アンモニア・液化CO2タンク用安全弁でも世界シェアトップを占めることになるだろう。
半導体関連のGNT企業や福井製作所の例でわかるように、GNT企業だからこそGNT企業であり続けるのだ。
■ニッチ史上で世界を制す3つのパターン
GNT企業が海外展開するパターンは3つある。
1つ目は日本国内のニッチ市場でトップとなったあとに、海外市場に進出して世界的に高いシェアを確保するというパターン。標準的なパターンだ。
総合ポンプメーカーの酉島製作所は1919年に設立され、戦後は国内の発電所向けなど大型ポンプの製造で成長した。1970年代に入ると中近東やアジアへの輸出に注力し事業を拡大。今では海水を真水にする海水淡水化プラントで使用されるポンプで世界シェアトップだ。
2つ目のパターンは、すぐれた技術やノウハウがあるにもかかわらず、日本国内で販売が困難なため海外に展開し、そこでの実績をもとにほかの国でも販売を伸ばすケース。
国内ではサプライチェーンが確立しているので、新規の企業がそこに参入するのは難しい。大手企業は実績のない中小企業がつくった製品を採用しないことが多い。自治体など官公庁は前例踏襲主義なので、大手民間企業よりもさらに新製品の購入に慎重だ。
それに比べると米国企業は品質重視であるため、すぐれた製品であれば実績に関係なく採用する傾向が強い。米国企業への納入実績をもとにほかの国へも販売し、日本には逆上陸というケースは少なくない。
ネジメーカーの竹中製作所は、1980年代にさびないネジを開発したものの、国内のゼネコン、プラント企業は購入しなかった。それまで竹中製作所と取引がなかったことと、同社が無名な中小企業だったことが理由だ。
しかし、米石油メジャーのエクソンが石油プラントでの採用を決めたことで、世界的に普及し、今では国内のゼネコン、プラント企業にも採用されている。
3つ目の海外展開のパターンは、最初から海外展開を目指すケースだ。国内のニッチ市場は小規模なので、収益の拡大に限界がある。そこで、最初から海外展開を目指すGNT企業もあるのだ。ニッチな分野であっても世界全体ならば充分な需要がある。
精密切削工具メーカーのOSGは、1968年に国内工具専業メーカーとしては初めて米国法人を設立した。当時、米国に顧客はいなかったが、世界へ販売するには米国進出しかないとして未知の米国市場に飛び込んだ。
■投資先、就職先、取引先として有望なGNT企業
そもそも私がGNT企業に注目するようになったのは、学生のための就活セミナーで講演したことがきっかけだ。学生たちに就職したい企業を聞くと、挙がるのはテレビCMなどで有名な企業ばかり。言うまでもなく、こうした企業が必ずしも優良企業というわけではないし、就職先として優れているとも限らない。しかし、多くの学生は有名企業に就職したいと言う。
大手有名企業の対極に、ニッチな分野においてすぐれた技術やノウハウを持ち、業績良好な企業がある。それがGNT企業だ。

私は約40年間、経済記者としてさまざまな業界や企業を取材し、記事を書いてきた。企業研究のバイブルと呼ばれる『会社四季報』の取材・執筆は30年以上続けている。これまで4000社以上の企業を取材する中で、国内には独自技術やサービスを武器に高い世界シェアを持つにもかかわらず、知名度の低いGNT企業が多数あることに気づいた。
私が『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』を執筆したのは、多くの人にGNT企業へ目を向けてもらいたかったからである。
GNT企業は学生の就職先としてすぐれているのはもちろん、ビジネスパーソンにとっては取引先、提携先としてすぐれている。また、転職先としても有望だ。GNT企業の中には上場企業もあるので、こうした企業は優良な投資先と言える。
世界シェアトップであるにもかかわらず日本での知名度が低い、“隠れた優良企業”のすごみを知っていただきたい。
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田宮 寛之(たみや・ひろゆき)
東洋経済新報社 編集委員
東洋経済新報社編集局編集委員、明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日本経済新聞グループのラジオたんぱ(現・ラジオ日経)、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクとなる。2007年、株式雑誌の『オール投資』編集長に就任。2009年、就職・採用・人事などの情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げて編集長となる。これまで取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。『週刊東洋経済』デスク時代は特集面を担当し、マクロ経済からミクロ経済まで様々な題材を取り上げた。2014年に「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職。著書『新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業』(講談社+α新書)シリーズは17万部を超えるベストセラーに。近著は『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)。
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(東洋経済新報社 編集委員 田宮 寛之)
