今年一番話題の寿司! 「日本橋蛎殻町 すぎた」出身の新店が広尾にオープン
9月12日、広尾にオープンした「鮨 陸」。「鮨 水谷」「日本橋蛎殻町すぎた」で修業し、バンコクで名を馳せた戸田 陸さんが親方を務めるとあって、これは名店になることが確約されたも同然です。すでに11月まで予約で埋まっているという噂。その実力はいかに!
寿司マニアの話題をさらった「鮨 陸」が待望のオープン

広尾駅から徒歩5分という距離なのに、喧騒をまったく感じさせることのない場所にある真新しいビルの1階に「鮨 陸」は誕生しました。緑の垣根に沿いながら路地を入ったビルの裏手のエントランスを入り、12月にオープン予定の日本料理店を抜けた奥に入り口があります。

扉を開けると真っ先に目に飛び込んでくるのは美しい一枚板のカウンター。少しだけ斜めにしたのは3〜4人で来店しても話しやすいという配慮から。椅子は肘掛けが短く、背もたれは寄りかかると稼働するタイプで座り心地にこだわっています。

店主は戸田 陸さん。和食店を経験後は「鮨 水谷」「日本橋蛎殻町 すぎた」で修業し、海外へ。5年間バンコクの「鮨いちづ」を任されると、OAD(Opinionated About Dining)により4年連続アジア100店に選出。さらに日本国以外の寿司店でアジア1位を獲得し凱旋帰国。POP UPで腕を振るうと寿司マニアが絶賛、9月12日のオープンを待たずして予約殺到、今年の注目店となりました。提供するつまみ6〜7品から始まり、握り12貫ほどの「おまかせコース」32,000円から抜粋してご紹介しましょう。
食材を生かす技術とセンスで「うまい!」と言わせるつまみ

こちらは「蛸のやわらか煮」。定番料理の一つであるがゆえ、親方によって食感も味わいもさまざま。戸田さんの煮蛸は噛んだ瞬間はとてもやわらかいのですが、最後にほんの少し歯応えを感じる、驚きの食感です。

「鰯の海苔巻き」も寿司屋では馴染みがありますが、こちらも千差万別。ガリや葱の量、鰯の締め具合、海苔の溶け方でまったくと言って良いほど違いが出ます。

取材当日は北海道の鰯。あれほどパリッとして見えた海苔はしっとりしながらも歯切れ良く、口中ですべての食材を均一に感じられたはずなのに主役の鰯が最後にこっそり顔を出す。なんという一体感! 酢締めの塩梅も言うことなし! 「親方(『日本橋蛎殻町すぎた』の杉田孝明さん)の鰯に入れた塩を抜く技術が素晴らしいんです。これは丸パクリです」と笑って話しますが、この仕上がりは戸田さんがかけた時間と努力の賜物です。

これは珍しい! 揚げたフカヒレの登場です。葱と生姜と加え、薄口醤油で味を調えた鰹と昆布の出汁で炊いたフカヒレは中国料理のようですが口中で確かに和の味が出現し、カリッと揚げた衣と一本一本くっきりと感じられるフカヒレの繊維とのコントラストに頬が緩みっぱなし。「鮨いちづ」で人気のつまみだったそうですが、これはこちらでもスペシャリテになる予感!
視覚も味覚もとりこにする握り

1貫目はコハダ。キリッと酢締めしたコハダで「揚げフカヒレ」の油を切り、握りへの扉を開きます。コハダを食べればその職人の技量がわかると言われるのは、塩の量や振り方、酢で締める時間や塩梅を決めるのはデータでなく職人の勘によるから。戸田さんの技術と舌のセンスが確信できる一貫です。

取材当日は青森県大畑漁港の100kgの本鮪。夏から初秋は国産の天然鮪が手に入りづらい時期ですが、最上級の鮪がしっかり入ってくることからも戸田さんの実力のほどがうかがえます。大きく切りつけて重ねるのは「すぎた」譲り。赤身なのにとろりんとした口どけにしばし陶酔できます。

千葉県で獲れた「メガイアワビ」は軽く蒸して、飾り包丁を入れて握ります。実は鮑は火加減も味つけにも細心の注意が必要な難しい食材。このやわらかさとほどよい歯応えのバランスといい、後から滲み出る貝独特のうまみといい、鮑に目を細めてしまいます。

江戸前寿司の代表格の一つである穴子。ふっくらとした身、甘さ控えめの煮つめ、酢飯が一体となって喉を通ると穴子は溶けてなくなり、後に残るのは穴子の香りとうまみ。戸田さんの穴子のうまさたるや! 小骨一つ感じない丁寧な仕事ぶりも感動もの!

うまい握りはうまい酢飯があってこそ! 戸田さんの酢飯はお米マイスターが厳選した香りが強くて大粒の古米を、羽釜で表面はパリッとした輪郭を持ちながら芯まで火が入るように炊き、熟成した米酢に赤酢を少しだけブレンドした酢を合わせています。酢をあまり主張させずにパラリと解ける酢飯はどんなタネともマッチして対等に主役を張っていることを実感させます。
一番は楽しんでもらうこと!

うまいつまみとうまい握りにつきものなのが酒。「半合ずつ召し上がっても重なることがないよう種類を豊富に揃えています」と、日本酒好きなら思わず「おぉ!」と叫んでしまうものが並びます。寿司と言えばどうしても日本酒に行きがちですが、こちらではワインもおすすめ。「うまみが強く繊細な味わいの戸田さんの握りにはやわらかさのあるワインが合います」と熟練のソムリエがシャンパーニュとブルゴーニュを中心に国産ものを加えてセレクトしています。

最高の食材を仕入れることも、クオリティの高いつまみや握りも、日本酒もワインも、居心地の良い空間作りも、すべては客に楽しんでもらうため。修業先で体得したものに海外で蓄積した独自のセンスが加わった「鮨 陸」。食事が終わり帰路につくとお腹も心も幸福感でいっぱいになります。すでに予約困難店になりつつありますが、是が非でも訪れたい店です。
※価格は税込
<店舗情報>
◆鮨 陸
住所 : 東京都渋谷区広尾5-13-6 ARISTO広尾ビル 1F
TEL : 070-8361-8161
文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:八木竜馬
