『ベイマックス』にみなぎる“ヒーロー作品”としての熱い精神 感動的なヒロとタダシの関係
白くてまんまるな形で、思わず抱きつきたくなるような姿が愛らしいケア・ロボット、ベイマックス。とぼけたリアクションも憎めない、ディズニーの大人気キャラクターだ。
参考:ディズニーアニメーション映画『ベイマックス』、『金曜ロードショー』で9月6日に放送決定
そんなベイマックスが活躍する2014年公開の映画『ベイマックス』は、“癒し系”のおとぼけロボットと、少年の物語であることから、ともすれば『ドラえもん』のような内容を連想させるかもしれない。だが、この作品の原題は、『Big Hero 6(ビッグ・ヒーロー・シックス)』。じつは「マーベル・コミック」のヒーロー作品を下敷きにしたものだった。
ここでは、本作『ベイマックス』の内容と背景を振り返りながら、本作がヒーロー作品らしくない魅力を新たに獲得していった理由と、それでも紛れもないヒーロー作品の王道をいくものに仕上がっている理由を解説していきたい。
考えてみれば2014年当時、マーベル・コミック原作ヒーローのディズニーアニメという企画は、日本においてはやや集客が難しいところがあったかもしれない。その意味において、『ドラえもん』という、藤子・F・不二雄原作のTVアニメが国民的な存在として知られ、長年の映画シリーズの実績もある状況では、やはりヒーロー作品として売り出すよりも、『ドラえもん』同様にロボットの名前をそのまま使った、『ベイマックス』というタイトルで提出した方が人気を集められると考えたのかもしれない。
しかし、あくまで本作で活躍するのは、ベイマックスと少年ヒロを含めた、6人のヒーローチームである。本作は、そのことを念頭においていれば、内容に違和感をおぼえることはないだろう。
本作が企画されたのは、2009年にディズニーによる「マーベル・エンターテインメント」の買収が契機となっている。買収の理由は、第一にマーベル・コミックのヒーローを題材とした実写映画の製作、配給を念頭にしたものだが、ディズニー得意のアニメーションの方でも、今後を見据え、ヒーロー映画を一つ作りたかったという思惑も理解できる。
監督として白羽の矢が立ったのは、ディズニーアニメを主にストーリーの側から支え、『くまのプーさん』(2011年)を手がけている、ドン・ホール監督。彼はマーベル・コミック作品のリストを読んで作品化できそうなものを探しているうち、あまり有名ではない『Big Hero 6』と出会ったのだという。
『Big Hero 6』は、原作コミックでは日本のヒーローたちの活躍が描かれる。そのメンバーには当初、ベイマックスとヒロ以外に、日本の『X-MEN』キャラクター、サンファイアとシルバー・サムライが加入していた。とはいえ当時、『X-MEN』シリーズの映画化権は21世紀FOXが所有していたことから、これらのキャラクターは、本作では登場させない判断がとられている。何より驚くのは、原作のベイマックスは、イカつい姿をしたガードロボットという設定があることだ。
つまりドン・ホール監督はじめアニメーションのスタッフたちは、原作を大幅に改変し、さまざまなアイデアを加えることで作品を創造し直しているのである。かくしてベイマックスは、ヒーローとしての素養を持ちながらも、基本的には愛らしいケア・ロボットというキャラクターとなったのだ。
何より、とぼけた性格と親しみ深い体型、さまざまな動きを見せてくれるベイマックスは、いつまでも眺めていることができるくらいに魅力的。この魅力を表現し得ただけでも、本作は成功だと感じられるほどだ。特徴的かつシンプルな顔のデザインには、ドン・ホールが来日した際、新宿の花園神社の境内に下がる大きな鈴のイメージが反映されているという。それを実際にかたちにしたのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』や『ガンダム Gのレコンギスタ』などのアニメ作品で、キャラクターやメカのデザインを担当してきた、コヤマシゲトである。
さらに、日本が舞台だったところも、本作では刷新。サンフランシスコと東京をドッキングしたような、多国籍な雰囲気の近未来都市「サンフランソウキョウ」が新たに生み出された。地形やランドマークは、いかにもサンフランシスコのイメージだが、随所に日本風の意匠が施されている。これは、大地震によって一時崩壊したサンフランシスコを、日系人たちが修復したことで蘇った設定があるのだという。カリフォルニアの「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パーク」では2023年から、「サンフランソウキョウ・スクエア」として、この個性的な街並みが再現されている。
こういった、原作からのさまざまな改変によって本作は、より広い層の観客に訴求する内容となったといえるが、なかでも注目したいのは、エモーショナルな物語だ。そして、そこにはやはり、「ヒーロー作品」としての熱い精神がみなぎっている。
なかでも感動的なのは、14歳で大学に入学にできるほどロボット工学に精通しているヒロと、ベイマックスを作り上げた、兄のタダシとの関係を描くエピソードである。ヒロはあるとき大きな喪失を味わい、自身が開発した「マイクロボット」を悪用するヴィランとの戦いに身を投じることになる。しかし、そのなかで本来の自分を見失い、人を傷つけようともしてしまう。だが、そこでヒロは、タダシの言葉や、タダシの作り上げたケア・ロボットのベイマックスに込められた、「人を助ける」という意志と理想にあらためて触れることで、“正しい(タダシ)”姿勢を受け継ぎ、真の“ヒーロー(ヒロ)”になるのだ。
「ヒーローとは何か」という問いかけは、何度も何度も、さまざまなヒーロー作品のなかで投げかけられてきた。そしてその答えは、どの作品もほぼ同じものだ。そう、それは「人を助ける」という考え方を持つことである。そのように考えれば、たとえスーパーパワーを持っていなくとも、メカによる圧倒的な技術力がなくとも、誰でもヒーローになれるはずだ。その献身的な姿勢を示すものとして、「ケア・ロボット」という存在を考案したことで、本作はヒーロー作品の本質を表現することにも成功したといえるだろう。
ディズニープラスでは現在、スピンオフ作品として、『ベイマックス・ザ・シリーズ』(2017年)、『ベイマックス・ザ・シリーズ ショーツ』(2018年)、『ベイマックス&モチ』(2019年)、そしてシリーズ『ベイマックス!』(2022年)が配信されている。これだけコンスタントに新作が製作されていることからも、『ベイマックス』の人気は高いことがうかがえる。
面白いのは、最新シリーズ『ベイマックス!』の原題が、『Baymax!』であることだ。日本では本作『Big Hero 6(ビッグ・ヒーロー・シックス)』を『ベイマックス』という邦題に変えたが、本国アメリカでも同じくベイマックスの名前を新たなタイトルに選んだのである。やはり、ベイマックスというキャラクターに注がれる愛は、本国アメリカでも変わらないのだ。
(文=小野寺系(k.onodera))
