新卒が4人いればトッププレーヤー1人に勝てる…キーエンス出身者が教える「チームで成果を出す決定的方法」
※本稿は、岩田圭弘『仕組み化がすべて』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■個人よりも「チームの成果」を向上させる
「社員の平均年間給与は2000万円超」と言われるキーエンスですが、スタープレーヤーに依存することはありません。メンバーが誰であれ結果が出る「仕組み」を重視して、目覚ましい成果を出しているのです。
組織の成果を出すためには、メンバーの行動の総和である行動量と成果の相関関係を見極め、最低限必要な行動を仕組みとして規定し、共有することが求められます。そしてメンバーの行動を適切な方向へと導く仕組み化が重要です。
それでは、組織全体の成果向上のために、マネジャーが優先すべきことは何でしょうか。
それは、個人よりもチームの成果を向上させるスキルとしての仕組み化を身につけ、チーム内での情報共有や仕組み化を評価する制度を作ることを意味しています。
このことにより、チームの人数に比例して成果を向上させることができる理由を確認しましょう。
■スタープレーヤーに依存してはいけない
組織全体の成果は、メンバーの行動によって生み出されるものだとお話ししました。その上で、なぜ仕組み化をするべきなのか確認しておきましょう。答えは、行動の質や確率を上げるためです。仕組みを作ることで、30人分の1人ではなく、30人分の30人を動かすことができるのです。
基本的に、組織は組織全体で成果を出すという考え方に基づいています。スタープレーヤーに依存するのではなく、誰かが抜けても困らないようにすることが重要です。つまり、再現性を高めることが必要なのです。
しかし、マネジャーになった人の中には、自らがプレーヤーとして成果を出してきた人が多いのではないでしょうか。すると、「自分が成果を出してさえいれば、30人分の1人でもなんとかなるのではないか。そこそこの成果を出せるのではないか」という考えに陥りがちです。自分がトッププレーヤーだったからこそ、このような考え方を肯定したくなるのもわかります。だからこそ、30人分の30人を動かすことの重要性を理解する必要があるのです。
少しわかりやすい人数で考えてみましょう。自分が5人チームの内の1人であれば、自分が突出した成果を出せば、なんとかチーム全体の成果を上げることができるかもしれません。
しかし、チームが30人になると、いくら自分が頑張っても、30人分の成果を1人で出すことはできません。それでは、組織が拡大していきません。大人数を任せられるマネジャーというのは、30人分の成果を出せるように仕組みを作って結果を出せる人です。
■5人の部下が「自分の半身」の力をつければ2倍の成果に
そういう人であれば、次は100人を任せても成果を出せると考えられます。マネジャーは、自分個人の結果よりも、チームでの結果を最大化することを優先すべきです。ある程度の規模になると、たとえば営業チームであれば自分で全部の顧客に営業できるわけではありません。
そこは仕組みを作って、みんなに売ってもらう必要があるのです。仮に、5人の部下を持つマネジャーがトッププレーヤーとして1億円の売上を上げるとしましょう。そして部下5人の1人あたりが出せる売上が1000万円しかなければ、チーム全体の売上は1億5000万円くらいです。仮に同じような部下の数が6〜8人に増えても、せいぜい2億円くらいまでです。これでは、売上が拡大していきません。
しかし、5人の部下がトッププレーヤーの営業の仕組みを理解して実践したことでそれぞれがトッププレーヤーの半分の5000万円まで売り上げることができるようになれば、マネジャーが5000万の成果でもチーム全体の売上は一気に3億円になります。
つまり仕組み化によって5人の部下がトッププレーヤーである自分の半分の実力を身につけることができれば、自分一人が頑張ってチームを引っ張っているときよりも2倍くらいの成果を出すことができるのです。
■自分の調子が悪くなってもチームの業績は安定する
また、自分だけが頑張ってチームの成果を維持しているのでは、部下が育ちません。その結果、部下たちも成長している実感がなくて辞めてしまうかもしれません。そうするとチームとしての業績が下がります。
トッププレーヤー自身にも波があるでしょう。トッププレーヤーである自分の売上が厳しくなると途端にチームの業績が悪化します。つまり、1人のトッププレーヤーの調子の良し悪しがチームの成績の良し悪しに連動してしまい、業績が安定しません。
しかし部下の5人が安定して成果を上げていれば、自分一人の調子が悪くなってもチームの業績を不安定にさせません。このように、組織の成果を上げるためには仕組み化が重要なのです。1人のスタープレーヤーに依存するのではなく、チーム全体で結果を出せる仕組みを作ることが、マネジャーには求められています。
■自分だけが成果を出すのは精神衛生上よくない
会社組織においては、個人の成果よりもチームとしての成果が重要視されるのは事実です。
まだ新入社員の段階では、個人の成果が評価の中心となることもあります。しかし新人時代を脱してからは、常にマネジャー候補として見られるようになります。
マネジャーを目指すのであれば、組織の階層構造上、マネジメントの対象となる人数が増えるにつれ、プレーヤーとしてのスキルだけでは対応しきれなくなります。そのため、上位の役職に就くためには、チームをまとめ、全体の成果を向上させるスキルが不可欠となります。
実際に、私自身も個人の成果を重視していた時期がありました。自分の仕事の成果を叩き出すことだけしか考えていない時期があったのです。しかし自分だけが目標を達成し、他のメンバーが苦戦している状況では、チームとしての成果に貢献できていないというプレッシャーを感じるだけでなく、チーム全体のモチベーションが低下してしまうことに気づきました。
そこで、チームとして注力すべきポイントや行動を明確にし、可視化するなどの取り組みを行ったところ、状況が改善されたという経験があります。このとき、自分だけが突出した成果を出すことは、精神衛生上も良くないとも実感しました。
■名選手が名監督になれるわけではない
とはいえ、プレーヤーとしての成果を求めている人たちの中には、組織全体の成果が芳しくない中で、自分だけが成果を出している状況をむしろ歓迎する人もいるかもしれません。そのような状況のほうが、成果を出せている自分にスポットライトが当たり、より高い評価を得られると思うからです。
確かに一時的には評価されるかもしれませんが、それが立場を高める評価につながるとは限りません。自分の成果だけを考えているプレーヤーが良いマネジャーになれるとは思われないためです。名選手が名監督になれるわけではありません。
自分の成果だけを高めようとしている人の考え方を変えるためには、自分と他人という軸ではなく、自分と組織という視点で考えることが重要です。チームの中で自分だけが良い成績を収め、他のメンバーが目標を達成できていない場合、チームリーダーとしての資質や責任が問われます。この人では部下の育成はできないだろうと判断されかねません。
■リーダーとしての責任を負わせることで学ぶものがある
このように突出した成果を出しているメンバーがいた場合は、その人に一度リーダーを任せてみるのも一つの方法です。
自分だけが結果を出し、周りが結果を出せないという経験を通して、チームをまとめることの重要性に気づく可能性があるからです。リーダーとしての責任を担わせることで、自分の限界にも直面するはずです。
メンバー同士の中で突出した人材に対して、周囲の成績を上げるモチベーションを与えるためには、組織をまとめる立場を経験させることが鍵となります。1メンバーの段階では、他のメンバーの成績を上げることまでは求められませんが、チームの責任者となった時点で、そのような責務が生じます。
つまり、責任と権限のバランスが重要なのです。組織における個人の成果とチームの成果のバランスを取ることは、リーダーシップを発揮する上で欠かせない要素です。個人の力を引き出しつつ、チーム全体のパフォーマンスを最大化するために、リーダーは常に全体を見渡し、適切な判断を下していく必要があります。
■新卒が4人いればトッププレーヤー1人に勝てる
キーエンスでは、自分が担当しているクライアントの他の部門の情報を得たときに、その部署を担当しているキーエンスの同僚に紹介して成果が出れば、紹介した自分にインセンティブが付与されるという評価制度があります。
このようなポイント制は、仕事の仕組みに関しても有効です。人に自分のやり方(仕組み)を教えてあげること自体が評価される仕組みがあればよいのです。たとえば、自分が担当しているのと違う商品のニーズをキャッチしたら、その情報をチーム内の他のメンバーに提供して、それが成約につながりインセンティブが得られる仕組みがあれば、それも仕組み化できます。
また、成功した営業プロセスや提案書を、毎月1件チーム内で共有できる仕組みを作り、チームとして有効な仕組み化につなげた結果が評価される仕組みがあれば、全体で仕組み化することへのモチベーションが高まります。
重要なのは、自分一人の成果よりも、自分の半分の能力の人が5人いたほうが2倍以上稼げる事実を知ることです。このような仕組み化の効能を、マネジャーは常に意識している必要があります。
人によっては、「新卒は戦力にならない」と思っているかもしれませんが、たとえ新卒がトッププレーヤーの3分の1の能力しか出せなくても、新卒が4人いれば、トッププレーヤー1人に勝てるのです。
■仕組み化で「組織の成果が人数に比例」するようになる
このように考えることができれば、組織で結果を出すためには頭数の多さが重要であることも理解できます。仕組み化ができていれば、組織の成果は人数に比例します。人数が増えるということは、組織全体の行動量が増やせることを意味します。それは人数×8時間の就業時間が行動量になるためです。
このインパクトは非常に大きいと言えます。メンバーの一人ひとりを教育していたのでは労力がかかりますが、行動の内容を仕組み化してマニュアルで伝えることができれば、何人ものメンバーに一度に伝えることができます。
このとき、仕組みをマスターしたことで、一人ひとりの成果が1.2倍になった場合、5人の仕組み化が行われれば「1.2×5=6」で6人分の成果を出せることになるので、ちょうど1人分の成果を増やすことができる効果があります。
10人の仕組み化が行われれば「1.2×10=12」で12人分の成果を出せますので、2人分の成果が増えたことになります。つまり、仕組み化によって一人ひとりの成果がもしも2倍になったときは、メンバーが5人であれば「2×5=10」で10人分の成果が出せるようになります。
つまり、5人分の成果が増えたことになります。一人のトッププレーヤーが頑張っただけでは、さすがに5人分の成果を増やすことはできません。仕組み化の例として、1日あたりの顧客との面談の最低件数を決めておくことなども考えられます。
それだけのことで、営業が喫茶店でゆっくりしていたり、車を公園のそばに停めて寝ていたりするといった非生産的な時間をなくすことができ、チームの売上を2倍以上にするということが可能になります。
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岩田 圭弘(いわた・よしひろ)
アスエネ共同創業者 兼 取締役COO
慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2010年新人ランキング1位を獲得。その後、2012年下期から3期連続で全社営業ランキング1位を獲得し、マネージャーに就任。その後本社販売促進グループへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年にキーエンスに戻り新規事業の立上げに携わる。2020年アスエネに参画。
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(アスエネ共同創業者 兼 取締役COO 岩田 圭弘)