三笘(右)への対策も完全に後手に回った。(C)Getty Images

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 両者の財政力や選手層、歴史、格を考慮すると、衝撃的な結果だったかもしれない。チェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジで、ブライトンが2−1の逆転勝利──しかし両チームの現在の状態を踏まえると、至極妥当な結末だったと言える。

 試合後の会見で、「(およそ一週間前に)クラブに帰還してから、もっとも屈辱的な敗北でしたか?」と訊かれたチェルシーのフランク・ランパード監督は開口一番、「もっとも(内容や状態に)ふさわしい結果だ」と言った。4月8日にウェストロンドンに暫定監督として戻ってきたレジェンドはここまで、プレミアリーグとチャンピオンズリーグの3試合で全敗。ただし指揮官は、結果よりも内容に不満を抱いているようだった。

「結果よりもパフォーマンスが現状を示していると思う。落胆を誘う出来だった。結果は妥当なものだ。ブライトンがファンタスティックなチームであることは確かだ。しかし我々は、あらゆる側面で物足りなかった。フットボールの基本において、完全に劣っていた」
 
 13分にミハイロ・ムドリクが左サイドから切れ込み、コナー・ギャラガーにパスを渡すと、この23歳のセントラルMFが放ったシュートはDFに当たってゴールに吸い込まれた。

 ところが先制したのに勢いは生まれず、ブライトンの攻勢を受ける展開に。ぞして前半にダニー・ウェルベックに同点とされ、後半にはフリオ・エンシソの強烈な逆転ゴールを許してしまった。

 キックオフ前に、指揮官の広大なバナーを掲げたゴール裏のホームサポーターの期待に、ランパードはまたしても応えられなかった。しかし問題の根は別のところにある。昨年6月にクラブを買収したアメリカ人オーナー、トッド・ボーリーは金融やビジネスには通じているはずだが、フットボールの知識はなきに等しい。

にもかかわらず現場に介入し、それを嫌ったトーマス・トゥヘル──チェルシーに二度目の欧州制覇をもたらした指揮官だ──を解任し、後任に迎えたグレアム・ポッターも半年弱で更迭。その4日後に、「クラブとファンに明確で安定したプランを供給すべく」暫定監督としてランパードを再登板させた。クラブのレジェンドではあるものの、一時政権は失敗に終わり、およそ2か月前には、成績不振を理由にエバートンから解任されていた指揮官だ。その声明と決断は、冗談にしか思えない。

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 これはまさに、モダンフットボールのビッグクラブがビリオネアたちの遊び道具になってしまった好例と言える。新オーナーの下、チェルシーが今季の二つの移籍市場に投じた額は、史上最高額を優に超える推定約6億1000万ユーロ(約854億円)。その多くが市場価値を大幅に上回る値段で取引された。

 つまり、マーケットでの振る舞い方を知らない裕福な新参者は、他クラブにとって与し易い金蔓になってしまっているわけだ。しかも本当に必要なポジションは補強されず、ウイングやセントラルMFがひどくだぶついている。

 アレックス・ファーガソン後のマンチェスター・ユナイテッドも似た状況にあったが、当時の彼らでさえ、リーグを二桁順位で終えることはなかった。現在、チェルシーは11位。このままボトムハーフでフィニッシュする可能性もありそうだ。
 
 ボーリーは、プレミアリーグはオールスターマッチを検討すべきだとか、敵地でのレアル・マドリーとのチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦の前に「3−0で勝つから心配ない」とか、恥ずかしげもなく口にする男だ。だがファンは恥辱を感じているようで、ブライトンに敗れた後、一部のホームサポーターはオーナーに怒りをぶつけていた。

 それでもこれほどまでに厚顔無恥なアメリカ人なら、今週のマドリーとのリターンレグを前にしても、楽観的な姿勢を維持しているのかもしれない。

「悪魔と手を結んだなら、その代償を払わねばならない」

 かつてユナイテッドのファーガソンは、プレミアリーグに多額のTV放映権が入ってきた時に、そう言った。文脈は違うけれど、今のチェルシーにも当てはまりそうな言葉だ。

取材・文●井川洋一