緊急事態宣言下で開催された東京オリンピック。閉会を迎えた今、若者たちはどんな思いを抱いているのでしょうか。期間中をどう過ごし何を感じたか、大学生と高校生の総勢10人が語り合いました。司会と解説は『Z世代』(光文社新書)の著者、原田曜平さんです――。
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
東京のオリンピックスタジアムで行われた2020年東京オリンピックの閉会式で、国旗が掲げられている=2021年8月8日 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト
【座談会参加者】
國武/立教大学3年生
森/青山学院大学4年生
鈴木/慶應義塾大学4年生
土井/立教大学2年生
矢追/早稲田大学3年生
山崎/慶應義塾大学2年生
池上/日本大学1年生
青野/専修大学2年生
岡田/高校2年生
赤峰/高校3年生

■若者たちは大会をどう見たか

【原田】開催前には多くの反対があった東京五輪ですが、いざ始まってみるとテレビ視聴率も高く、若者も含めて多くの人が見ているようです。皆さんはどうしているのか、また開催前と現在とで五輪に対する気持ちに変化があったのかどうか聞かせてください。

【池上】私は開催前から「無観客なら賛成」でした。いざ始まってみると選手の試合にかける思いを強く感じるようになり、今も賛成の立場です。周りも始まってからはほとんど賛成派になって、選手の姿を見て励まされている人もたくさんいます。

【國武】私は開催前も今も「無観客でも反対」です。だから試合も五輪関連の話題も本当は見たくないんですが、実際に始まったら友達がSNSで話題にしていたりパートナーがテレビ観戦していたりで、どうしても目に入ってきちゃうんですよ。それで感じたのは、やっぱりグダグダだなと。開会式は直前まで問題だらけだったし、SDGsを掲げていたのに大量のお弁当を廃棄するし、東京の感染者数は爆上がりしているし。他にもひどいなと思うことがたくさんあって、こんな日本の姿が世界に伝わってしまうのは恥ずかしいです。

【土井】僕は一貫して「アスリートのために開催すべき」と思ってきました。テレビでもよく見ていましたし、日本人選手がいい結果をたくさん残してくれて本当にうれしいです。一方で、メダルラッシュによって、今回浮き彫りになったさまざまな政治の問題がかすんでしまっている気がして、そこはよくないなと。本来ならこの問題をもっと追及すべきだし、忘れちゃいけないと思います。

■開催反対でも競技は観戦

【森】僕は開催前は反対派でした。移動制限とか飲食店への休業要請とか、国民の生活を制限してまで開催するのはいかがなものかと思っていたので。でも、いざ五輪が始まったら観戦はしましたね。サーフィンやスケボー、競泳など好きなスポーツをテレビでやっていたらやっぱり見ちゃうし、戦っている選手を見たら応援もしたくなる。反対派だったけど、自分でも意外なほど観戦も応援もしていました。

写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

【青野】僕は「無観客なら賛成」派で、始まった後はとにかくエンターテインメントとして楽しんだっていうのが率直な感想です。もともとスポーツが好きで、特にサッカーやバレーは楽しみにしていたので、テレビでずっと見ていました。あと、選手のSNSもよく見ましたね。選手村の様子とかがわかって楽しかったです。

【矢追】僕はスポーツに興味がなくて、以前は五輪にも無関心でした。でも五輪が始まったら、SNSで友達のコメントとか選手の素の顔を目にするようになって、何だか楽しそうだなと思って初めてサッカーの試合をちゃんと見てみたんです。そうしたらスポーツ観戦の面白さに気づいてしまって、今後もっと見てみたいと思うようになりました。

【赤峰】私の高校ではコロナでほとんどの学校行事がなくなりました。部活の公演とか、高校生活最後の行事が本当にたくさん中止になって、小さな行事はダメなのに世界的なイベントはOKなんて納得がいかなくて。だから五輪開催にも反対でした。でも始まったら、やっぱり感動しました。ソフトボールとか、13年ぶりの実施でまた金メダルってすごいなって。

■「メダルラッシュでよかったね」で終わらせてはいけない

【山崎】私は今も開催には反対です。最初に掲げていた「復興五輪」はどこかへ行っちゃって、開会式の直前まで問題が山積みで、そんな状態で開催するなんてどうなんだろうって疑問だらけです。でもそういう問題とスポーツは切り離すべきかなと思うようになりました。母がずっとテレビをつけていることもあって、せっかく自国開催なんだから見ておこうかなって。結局、開会式から全部、ほぼすべての競技をテレビで見ました。今回集まった皆の中では私がいちばんよく見ているかもしれないです。

【原田】開催前には反対していて、始まったら応援するというのは矛盾しているのではという意見もありますよね。「自分は反対だから一切見ない」という人もいる中で、自分の変化をどう思いますか?

【山崎】矛盾しているのかなとは思いますけど、やっぱり選手はちゃんと応援してあげたいです。私は「やるならやるで応援しよう」っていうスタイルですね。ただ、今後は「メダルラッシュでよかったね」で終わらせず、見えてきた問題をしっかり解決していくべきだと思っています。

■他国で開催される大会と変わらない

【原田】皆さんの大部分は割としっかり競技を見て、選手を応援したりして楽しんだようですね。開催前は反対だった人も、始まってみるとやっぱり見て応援して盛り上がったと。ただ、皆さんが言うように今回の五輪は問題続きでした。1964年の東京五輪は「戦後日本の復興の証し」といった形で語り継がれているけれど、今回の五輪は後世にどう伝えられるのか。将来、皆さんが子どもや孫に「こんな五輪だったよ」と伝えるとしたら、どんな言葉で表現しますか?

【土井】確かに楽しかったけど、皆で集まって盛り上がることもなく、ただテレビやネットで見るだけだったので、「バーチャルオリンピック」かなと思います。その意味で、東京じゃなくて他国で開催される大会と変わらない大会でしたね。

【矢追】僕は「SNSオリンピック」ですね。今回は選手がいろいろな画像や動画を上げてくれて、意外な素顔や裏舞台を見られて本当に楽しかった。選手との距離が近いように感じられて、個人的にはいい五輪だったなと感じています。

■日本がダメになっていく様子を強く感じた

【鈴木】僕は「衰退五輪」ですね。1964年の五輪は経済成長とか、何か日本が上昇している様子の象徴だったと思うんですけど、今回は五輪をきっかけにさまざまな問題が明らかになって、逆にダメになっていっている様子を強く感じました。世界に日本のいいところをアピールしようとしていたはずなのに、ダメなところばかり出てきて、皆が「日本って大した国じゃなかったんだ」って気づいてしまった感じがします。

【山崎】この五輪をきっかけに色々な膿が全部出て、ここから日本の政治が変わっていったんだよって伝えられたらいいな。その願いを込めて、私は「きっかけオリンピック」です。そうなれたら、この問題だらけの五輪にも少し意味があったのかなと思います。

【國武】1964年の五輪はこの先も折に触れて思い出したいものかもしれませんが、今回は「忘れたいオリンピック」。私は将来、子どもにどんな五輪だったか聞かれたら、きっと「聞かないでよ、忘れたいんだから」って言っちゃいますね。

【森】IOCに迎合しまくったという意味では「ご機嫌取りオリンピック」が露呈していたかなと思います。あと、結局はお金重視だったっていうところで「商業主義オリンピック」。一方で、選手はコロナ禍で大変な中すごく頑張っていたので、子どもには「色々よくない点があった」と言いつつ、でも選手たちは頑張っていたよってことは必ず伝えたいです。

【原田】印象的な言葉がたくさん出ましたね。今回の五輪では、若者はスポーツの力や選手の頑張りは素直に受け止めているけれど、一方で色々な真実が見えてきて、政治や日本の問題をより強く感じ始めているようですね。次回は、たくさんあった問題の中でも特に許せなかったことや、今後どうすべきだと思うかといった点を聞いていきたいと思います。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。信州大学特任教授。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平マーケティング研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村 洋子)