元なでしこリーグのサッカー選手、男性になって思う女子サッカーとLGBT
元なでしこリーグのサッカー選手で27歳までプレー。その後、男性へと性別を変更した大嶋悠生(ゆう)さんをご存じだろうか?今月、東京オリンピック・パラリンピックで埼玉県のパラリンピック聖火ランナーを務めることが決定した。
大嶋さんはFtMトランスジェンダーといい女性から男性へと性別を変更した。東京オリンピックでは来週8月2日史上初めてトランスジェンダーの選手が女子の重量上げ87kg超級に出場。また、なでしこジャパンのFW横山久美さんが永里選手のYouTubeでトランスジェンダーであることを公表。スポーツとLGBTの問題が注目をされている中で当事者はどう考えているのだろうか?
――女子サッカーを見ていると公表・非公表は置いておきLGBTだと思われる選手が多いように感じます。
女子サッカー界では「メンズ」という言葉があるのをご存じでしょうか?男子サッカーのことではありません。その中にはFtMといって女性として生まれたが性自認が男性である選手が一定数含まれています。
女子サッカー界では普通なのです。「あの人(男っぽいけど)メンズ?」みたいな。監督もサッカーと恋愛は別だから、サッカーと人としてきちんと過ごしていれば何も言いません。「メンズ」が同じチームやライバルチームの女子選手と付き合うこともありますね。
私は今、YouTubeで「ミュータントウェーブ」というグループ活動をしています。その3人は全員が現在男性で、元なでしこリーグの女子サッカー選手です。学生時代は、全国レベルでプレーしていたメンバーです。個人でも、トランスジェンダーモデルとして活動もしています。
――当事者の多くはトランスジェンダーであることに悩むといいます。いじめられたりLGBTを理由に迫害を受けたりですね。そうしたことはなかったのでしょうか?
はい。女子サッカー界の出来事が「普通」で育ったので逆に引退してからが苦労しました。
一般的的にスポーツ選手がセカンドキャリアで苦労するという話通り「ボールしか蹴ってこなかった」ので仕事のビジネス用語がわからないとかそういうものもあります。それ以上に、世間でトランスジェンダーが特別視されていることにです。実際に就職活動中に1社内定取り消しにあいました。「取引先がどう思うかわからないので辞退してほしい」と。
――現在、スポーツ界では男性から女性へ性別を変更したトランスジェンダーの選手を女子のカテゴリーでプレーさせるべきかどうかという議論が巻き起こっています。当事者としてはどう思いますか?
すごく難しい問題です。今は、IOCの規定で、ホルモン治療を受けてホルモン値が12か月間基準値であれば女性として出場できるなど、ホルモンの値をルールの基準としているようです。男性が女性ホルモンを打てば一般的には脂肪がつきやすく胸がでてくるなどの効果があります。
しかし、「ホルモン値がすべてではないだろう」と思っています。中にはトランスジェンダーではなくても陸上のセメンヤ選手みたいに「男性ホルモン値が高い女性」もいるかもしれません。(編集部注:セメンヤ選手は陸上では男性ホルモン値が高く出場ができなくなりサッカー選手として南アフリカリーグでプレー)
――実際にホルモン治療を受けてどのような変化がありましたか?
私自身は男性ホルモンの治療によって筋肉が付きやすく、声が低くなった印象があります。
それまでベンチプレス35kgしか上げられなかったのが今は70kgがあげられます。あと胸トラップが前より痛くない(笑)。
でも、「走る部分」ではそこまで変わらず、むしろ筋肉量が増した事で身体が重いなとも感じます。男性ホルモンを投与したからといってサッカーが巧くなるとか引退前の感覚に戻る訳ではありません。
私は小柄で155cmぐらいしかないのもありますが、普通の男性だったらある程度トレーニングすれば、ベンチプレス100kgとかあげられるかもしれません。
人間、骨格や向き・不向きもあります。今回、オリンピックで問題となっているのは重量あげに出場選手が元々男子でもプレーしていたということもあると思います。ホルモンをしたからといって一度二次性徴を迎えた男性が女性のような骨格にはなりませんので。
――永里選手が神奈川県2部のはやぶさイレブンで一時期プレーしました。女性が男子サッカーでプレーすることはどうでしょうか?
永里選手は素晴らしいと思います。だからYouTubeでは、私も実際に元女子サッカー選手が男性として他の競技に挑戦したらどうなる?ということもしてみたいと思っています。
トランスジェンダーが活躍する場所として「FtMトランスジェンダーのサッカーリーグ」ができたら面白いなとも思ってます。
――ありがとうございます。では、サッカー選手だった頃のお話を聞かせてもらってもよいでしょうか?
はい。
次回は大嶋さんがサッカー選手だった時代を振り返ります。