日本の電力小売りの全面自由化から4月で5年。新規参入が相次ぎ、新電力の販売電力量は全体の約2割を占める規模まで拡大している。しかし、この冬の一連の電力不足が日本の電力網の脆弱性と新電力の経営難を浮き彫りにしている――。
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大雪に見舞われ運休となり、線路上の除雪作業を待つ路面電車の列=2021年1月8日午後、JR富山駅前 - 写真=時事通信フォト

■関電が大阪ガスに頭を下げてLNGの融通を要請

「節電という言葉は使うな」「停電が起きてもいいんですか」――。

まだおとそ気分の抜けきらない1月の3連休。経済産業省・資源エネルギー庁と電力の業界団体である電気事業連合会(電事連)の幹部たちが休日にもかかわらず電話越しにやりあっていた。

「10年に一度」と言われる寒波の襲来で全国的に気温が低下。北陸地方では豪雪のため、北陸自動車道では車が立ち往生するなど、厳しい寒さが続いた。原子力発電所への依存率が大手電力で最も高い関西電力では、年末から電力不足が懸念され、どうやって年末年始を乗り切るか、幹部たちが連日頭を抱えていた。

福井県にある高浜や美浜などの原発の再稼働が遅れ、それを補う液化天然ガス(LNG)を発電燃料とする火力発電所の燃料タンクが底を突いていたためだ。

「どんなに高い値段で買ってもいい。とにかくLNGをかき集めろ」。関電では社長以下の“指令”のもと、LNGの取り次ぎをする大手商社などに確保を要請した。しかし、すぐに調達できるLNGはない。あとのない関電は最後の手段として、家庭向け電力の販売でしのぎを削る商売敵の大阪ガスに頭を下げ、LNGの融通を要請した。

■電事連は「国民への節電要請」を求めたが、経産省らは拒否

電力業界も、それまで手をこまぬいていたわけではない。大手電力会社間で余剰電力を融通しあっていたが、寒波は全国規模で広がったため、大手電力間での融通にも限界がきてしまった。

電力は需要と供給が一致しないと停電してしまう。需要に供給が追いつかない事態が続く中、電事連は「電力消費を極力抑えてもらうよう、広く国民や企業に訴えてもらいたい。場合によっては節電要請を求めたい」と所管の経済産業省や資源エネルギー庁に訴えた。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大で各家庭は巣ごもりしている。「暖房を切るなどの節電は、高齢者らが亡くなるリスクを高める」として、どちらも節電要請にはクビを縦に振らない。

それ以上に経産省やエネ庁が恐れていた理由が他にある。首相官邸だ。

「菅政権が最大の産業政策として掲げる脱・炭素(カーボン・ニュートラル)政策に水を差すことになる。新型コロナウイルス感染拡大で支持率が急落している中で『節電要請』となると、看板政策の脱・炭素政策も腰砕けになる」(経産省関係者)と電事連の申し入れをはねつけたのだ。ここで火力発電の燃料不足など思い起こさせたくない思惑というわけだ。

■「電力自由化を進めれば停電が起きるのは、子供でもわかること」

さらに、政府が発する節電要請は10年前の東日本大震災などの非常時に出される類いのものだ。連休中で企業活動が止まり、電力消費量が減っているタイミングで出たとしたら、まさに電力供給の「危機的状態」を露呈することになる。

官邸を恐れる経産省は大手電力会社間の電力融通や、石油・ガス業界からのLNGなど燃料確保の自助努力を押しつけた。電力大手幹部はこう憤る。

「こうなったら停電させたらいい。電力改革と称して自由化を迫っていて、停電の懸念が出てくると、『業界で何とかしろ。電力会社は何をやっているんだ』と頭越しにどなりつけてくる。停電が相次ぐ米カリフォルニアなどで明らかになっているように、電力自由化にかじを切ることは、そういうリスクも抱えるということは子供でもわかるはずだ」

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今、日本は世界最大のLNG輸入国だ。世界的にダブつき、長く価格が低迷しているLNGが、なぜ国内で不足しているのか。原発停止以降、石炭や石油より環境負荷が低いLNG火力へのシフトも進み、国内の発電総量の4割を占めるようになった。原発が止まって使用量が増えているにしても、LNGの調達難は即、電力危機につながるだけにその管理は徹底しているはずだ。

■貯蔵期間が2カ月しかないLNGは、石炭や石油に比べて扱いづらい

大手証券アナリストは「これも電力自由化の功罪だ」と指摘する。

気化しやすいLNGは2カ月くらいしか貯蔵できない。このため、一般には2〜3カ月先の注文を豪州や東南アジア、米国など産ガス国と交わす。しかし、市況低迷に伴いスポット(随時契約)で調達するほうが長期契約するよりも「この1年ほどは4分の1くらいで買えた」(大手電力幹部)ため、電力各社ともスポット調達に傾斜した。

さらに余分に調達した場合には、2カ月しか持たないLNGを「賞味期限」がきれる前に転売するしかない。現に余ったLNGを売却した九州電力は、昨年度約180億円もの売却損を計上するなど、「貯蔵が利く石炭や石油に比べて扱いづらい」(同大手電力幹部)。自由化でコスト削減に必死の中で、LNGの在庫をいかに抑えるかということは大きな経営課題となる。

そこを寒波が突いた。太陽光も豪雨や日照不足で頼りにならない。となればLNG火力に頼るしかない。だが、ぎりぎりに切り詰めていたLNGの在庫が払底する事態を招いたのだ。九州電力ではJパワーの石炭火力発電所に石油を流し込んで急きょ、発電する慌てようだった。

■自由化で進められた「発送電分離」で情報連携に弊害

電力会社の電力の需要予測を困難にした理由は他にもある。

自由化で電力会社は発送電分離を迫られた。自由化前のように、発電から配送電、小売りまで一社で一貫して手掛けていた体制では、小売り・営業部門から企業や家庭などの電力の消費動向がリアルタイムにあがり、それに応じて発電・送電部門が燃料調達や発電所の稼働を調整できた。

しかし、自由化後は発電、配送電、小売りがそれぞれ別会社になった。「各社間の情報連携がうまくいかず、供給責任をどこが担うのか、責任の押しつけ合いになってしまった面はある」(前出の大手電力幹部)という。

寒波はお隣の中国や韓国も襲った。さらに中国はいち早く経済が回復したためLNGの需要が伸びている。韓国も石炭火力からLNG火力への転換を進めている。また、東アジアの需要が急に跳ね上がったために米国から来るLNG船がパナマ運河で渋滞したり、豪州やマレーシアのLNGプラントが故障したりするなど「不運」も重なった。

■新電力の1月分電気料金が通常時の2倍以上になる恐れ

一連の全国的な電力需給の逼迫は自由化の目玉である新電力各社の経営も直撃している。自前の発電所を持たない新電力が「商材」となる電力を調達する卸売価格が高騰しているためだ。

今年に入り、1月分の電気料金が通常時の2倍以上になる恐れも出てきた。LNG不足で火力の発電量が減ったため、大手電力が卸市場に出すガス火力の電力も減るためだ。寒波の影響で需要が増加し、スポット価格が高騰した。

日本卸電力取引所(JEPX)の指標価格は1月中旬に一時1キロワット時あたり150円台と、12月上旬と比べて約25倍に上がった。一般的に家庭の電気料金は1キロワット時あたり20円台の場合が多い。新電力が販売する電力を全て市場調達に頼る場合、単純計算で電力を1キロワット時売るたびに100円超の赤字となる水準だ。

一部の新電力は市場価格を電気料金に直接反映する販売プランを採用している。ダイレクトパワー(東京・新宿)や自然電力(福岡市)によると、1月分の電気料金は通常時の2倍以上になる可能性があるという。

■新電力Looopは複数の新電力と事業の譲り受けを協議

新電力の中では経営危機に直面する事業者も出てきている。新電力のLooop(東京・台東)は複数の新電力と事業の譲り受けに向けた協議を始めた。急騰する卸売価格をそのまま電力料金に反映すれば顧客離れは避けられない。

新電力事業の競争環境が厳しさを増す中、ある事業者は「ただでもいいから事業を引き取ってくれる先を探している」と打ち明ける。

事態を重く見た経済産業省は新電力を支援する対策を発表した。

事前の販売計画と実際の販売量にズレが生じた際に支払う「インバランス」料金について、新電力が電力供給を受けた大手電力会社などに支払う金額に上限を設ける。これは1月17日の電力供給分から適用した。

インバランス料金はJEPXと連動している。昨年12月前半は1キロワット時あたり4円台の時もあったが、1月以後は高いときで220円と新電力の経営を圧迫している。経済産業省はインバランス料金に1キロワット時あたり200円の上限価格を設けて影響を軽減する。

それでも「インバランス料金の見直しだけでは効果は限定的だ」(大手証券アナリスト)との声もあり、追加の対策が必要になる可能性もある。

■今冬の電力不足が浮き彫りにした日本の電力網の脆弱性

日本の電力小売りの全面自由化からこの4月で5年を迎える。新規参入が相次ぎ、新電力の販売電力量は全体の約2割を占める規模まで拡大している。しかし、この冬の一連の電力不足が日本の電力網の脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。

不完全な電力自由化と、急速な再生エネルギーシフトで混乱に拍車をかける脱・炭素政策。「再エネは安定供給に難があることは誰でもわかる話。そこをどう埋めていくのか。再エネで跳ね上がる電気料金を誰が負担するのかも議論が進んでいない」(前出の大手電力幹部)。

東電福島第1原発の事故から10年が経つ。だが、菅政権は選挙を気にして原発について正面からの議論を避けている。新型コロナウイルス感染が止まらない中、菅政権はまた重い課題を一つ抱え込んだ。

(経済ジャーナリスト 坂本 竜一郎)