「住宅ローンの返済額は世帯収入の25%が上限」。このセオリーを無視して 1億円以上のマイホームを購入する人たちがいる。不動産コンサルタントの長谷川高氏は「背景にあるのは低金利。過大なローンを組んだ後、教育費などの支出がかさみ、ローンの支払いに窮するケースが増えている」という――。

※本稿は、長谷川高『不動産2.0』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Juergen Sack
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juergen Sack

■1億円超のマンションは「特殊住戸」と呼ばれていたが……

2007年から2008年にかけて起きたリーマンショックの際、不動産価格は大きく下落しました。しかしその後、不動産価格は東京中心部を筆頭に、再び急激に上昇しました。

東京中心部や湾岸エリアのタワーマンションでは、高層階を中心に1億円を超える高額物件が続々と販売され、しかもそれが飛ぶように売れました。

私がデベロッパーに勤務していた当時、1億円を超える高価格帯のマンションは「特殊住戸」と呼ばれていました。限られた方だけが買うことのできる、まさに「特殊な物件」だったのです。

しかし、現在では1億円を超える「億ション」が次々に売れている。一体、どんな人が買っているのか、疑問に感じていました。そこであるとき、「億ション」を分譲しているデベロッパーの役員に直接話を聞いてみました。すると、意外な答えが返ってきました。

■共働き正社員夫婦=パワーカップルが億ションをバンバン買っている

かつて「億ション」を購入していたのは、会社の経営者や、資産家、医師といった、いわゆる富裕層だけでした。しかし現在「億ション」を購入しているのは、会社員が多いというのです。

たしかに現在は、極めて金利の低い時代です。頭金をそれほど用意しなくても、長期のローンを組めば、6000万〜7000万円程度は、年収の高い会社員なら借り入れが可能です。さらに共働きの夫婦であれば、その倍近く、2人で総額1億円以上のローンを組むことができます。

写真=iStock.com/fotoVoyager
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つまり、富裕層と呼ばれる「特殊」な人たちだけでなく、平均を上回る高い収入を得ている共働き夫婦が、いわば両輪で最大限のローンを組み「億ション」を購入しているのです。

最近、「パワーカップル」という言葉を時々耳にするようになりました。この「パワーカップル」と呼ばれる収入の高い夫婦が、「億ション」を共有名義で買っているということのようです。

■収入減、病気、事故、離婚…起こりえないことが起こるリスクが

日本経済はここ数年、アベノミクスの恩恵もあって一見、順調に見えます。日銀によるマイナス金利政策もあって、金利はもうこれ以上下がらないというレベルにまで下がっています。

こうした面だけ見れば、マンションを購入しやすい環境が整っているのは事実です。しかし、これから先のさまざまなリスクを想定すると、夫婦でいっぱいいっぱいのローンを組んで「億ション」を購入することに、私は不安を感じます。

では、どのようなローンの組み方が正しいのか?

唯一の正解などというものはありませんが、一般的に将来のリスクとして、次のようなことが考えられます。たとえ夫婦共働きであっても、子育てや転職、病気や事故といった事情で、どちらかの収入が減ったり、途絶えたりするリスクです。

■夫婦2人とも収入が途絶えることなく70歳まで返済をできるか

以前はローンを組む場合、夫なら夫だけの収入を想定することが一般的でした。

多くの人は、30〜35年の長期ローンを組みますので、35歳で借りたとしても、70歳まで支払い続けることになります。そろって35歳でローンを組み、「億ション」を購入した夫婦が、2人とも収入が途絶えることなく、70歳までローンを返済し続ける。そんなことが現実的に可能でしょうか?

経済の風向きが変わって初めて気づくのが、「借りることのできる金額が、返せる金額ではない」という真実なのです。

次に忘れてはならないことがあります。住宅ローンの金利は、これ以上、下がることはないものの、上がっていく可能性はいくらでもあるということです。日銀の総裁が、これらもずっと黒田東彦氏であり続けるわけではありません。安倍政権も未来永劫続くわけではありません。今のような超低金利政策がいつまで続くのか、これこそ「神のみぞ知る」なのです。

また経済政策の原則からすると、政策上不景気の状況下で金利を上げることは起こりえませんが、仮に日本の財政破綻の問題がクローズアップされ、長期国債の利回りが上がっていくようなことがあれば、住宅ローン金利も上がっていく可能性も否定できません。

■日本版・サブプライムローン破綻が起こる?

危惧していることはほかにもあります。20年ほど前までは、東京近郊の3000万円後半から4000万円程度のマンションを購入できるのは、目安として年収500万円以上の層でした。年収300万円前後の層は、販売者側も、お客として想定していませんでした。

ところが現在では、年収300万円前後であっても、東京近郊のマンションをローンで購入することが可能です。なぜなら、金利が下がったため、計算上は支払いが可能になったからです。ただ、先ほどから警鐘を鳴らしていますように、30〜35年という長期ローンを払い続けることを前提としたとき、果たして現実的に支払いが可能なのかどうか、長期にわたって収入が保証されている職業なのでしょうか。

写真=iStock.com/Rawpixel
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あるデベロッパーの役員は、こう危惧していました。

「近年は、かつてはマンションを買うことができなかった層にも、販売するようになっている。これが将来、日本版・サブプライムローン問題を引き起こす可能性がある」と。

私もまったく同感です。一方、年収500万円前後の層の方々も、20年ほど前に比べ、ワンランクもツーランクも高額の物件を購入するのが当たり前になっているようです。

仮に今後、金利が上がっていったときに、返済を続けていくことが可能なのでしょうか?

読者のみなさんの中に、住宅ローンを変動金利で組んでいる方がいらっしゃったら、将来の破綻を避けるために、固定金利に切り替えることを強くおすすめします。経済は生きものです。金利の上昇も含め、これから何が起こるかは誰にも予想できないのです。

■「ローン返済は年収の25%が上限」セオリーを無視

2007年から2008年にかけて起きた世界金融危機の発端になったのは、アメリカにおけるいわゆる「サブプライムローン」であるということは、広く知られている事実です。

サブプライムローンとは、信用度の低い方に貸し出された住宅ローンのことです。本来、住宅ローンを組むには収入が足りない、または収入が不安定な方にも住宅ローンを貸し出し、それがことごとく貸し倒れていったことが、問題の発端になりました。

もともと住宅ローンというのは、アメリカでも破綻することが極めて少ない貸し出し債権でした。なぜなら、かつては一般的には収入の20〜25パーセントを上限とした返済金額で組むものだったからです。これはいわば住宅ローンで組む際の「常識」だったようです。

しかし、いつしかこの上限が取り払われてしまい、過大な返済率でローンを組ませるようになったのです。法律で決まっているわけではないにせよ、上限20〜25パーセントという返済率を厳守していればサブプライムローン問題も起こらず、世界中を巻き込んだ、リーマンショックも起こらなかったのです。日本も同じです。

■「最近、住宅ローンを払えなくなる顧客が多くなってきた」

20〜25パーセントという返済率は、かつては日本においても守るべきものと言われてきました。しかし、現在の住宅販売の現場を見ていると、この上限をゆうに超えてしまっているようです。

長谷川高『不動産2.0』(イースト・プレス)

今後日本版・サブプライムローン問題が起きないと誰が言えるでしょうか?

そして、もしも日本版・サブプライムローン問題が現実に起きるようなことがありますと、債務者である住宅購入者と、債権者である金融機関、双方ともに甚大な被害を受けることになります。

ある銀行に勤める友人が、「最近、住宅ローンを払えなくなる顧客が多くなってきた」と忠告してくれました。これほど金利が低いのにどうしてなのかと尋ねると、「子どもの塾代や、私立の学費など、当初より支出がかさんでくると、とたんにローンの支払いが滞るようになる。要するに、返済率が高いんだよ」と。

私が、「どれくらいの返済率ならリスクが無いと思う?」と聞いたら、「銀行はそれ以上の融資を認めているけれども、やはり20パーセントだろうな」と答えてくれました。

さらに、「焦げついたローン債権はどうするのか?」と聞くと、「やはり支払いが6カ月以上滞ったら、法的な手段で粛々と対応するしかない」とのことでした。

くり返しますが、必ずしも「借りることのできる金額が、長期にわたって返せる金額ではない」という事実を覚えておいてください。

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長谷川 高(はせがわ・たかし)
長谷川不動産経済社 代表
東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わった。その後1996年に独立。 以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。 自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける。 一方、メディアへの出演や講演活動を通じて、投資、不動産、生き残り戦略についてわかりやすく解説している。 『家を買いたくなったら』『家を借りたくなったら』『はじめての不動産投資』(共にWAVE出版)、『厳しい時代を生き抜くための逆張り的投資術』(共に廣済堂出版)、『不動産2.0』(イースト・プレス)など、著書も多数。
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(長谷川不動産経済社 代表 長谷川 高)