中国・武漢市から拡散する新型コロナウイルス肺炎。世界第2位の経済大国・中国が直面する最大の試練は、感染拡大の封じ込めと同時に、企業の操業停止や営業禁止の拡大による経済活動への深刻な打撃だ。経済発展は共産党政権存続の唯一の方策であり、ただでさえ後退気味の景気が更に下振れする事態は、習近平指導部が最も恐れるシナリオになっている。


武漢では専門病院が完成した ©新華社/共同通信イメージズ

 そんな中国当局の本音をずばりと衝いた記事が党宣伝部によって全面的に削除され、お蔵入りとなった。発行部数82万部の都市部のインテリ向け総合週刊誌『三聯生活周刊』(1月29日号)がネット版に掲載した「もし世界保健機関(WHO)が肺炎禍に介入すれば中国経済はどのような衝撃を受けるか?」と題した記事である。

 この記事は、「WHOが武漢肺炎を“世界的突発性衛生事件(緊急事態宣言を指す=筆者注)”と定義すれば、中国はさらなる外部圧力を受け、とりわけ経済的圧力になる」と指摘した。

 WHOは1月30日、中国に対して緊急事態を宣言したが、テドロス事務局長は、「これは中国への不信任投票ではない。海外旅行や貿易を不必要に阻害する対策は取るべきでないし、WHOは移動や貿易、移住の制限は勧告しない」とわざわざ付け加えた点が、習政権の恐れを見事に代弁している。

記事が指摘した中国経済への影響

 記事は、同宣言によって観光客が減少し、旅行業、航空産業など関連業界への影響は避けられず、また米中貿易戦争が終結していない現状では輸出産業へのさらなる打撃となりかねないと予測している。実際、ホンダやダイキン工業など日系大手以外にも米アップルの製品組み立て担当の鴻海精密工業が休業している他、中国全土の8割の直轄市・省・自治区が休業延期の措置を打ち出しており、国内経済への影響は計り知れない。

 また、記事は2020年が中国にとって「第13次5カ年計画」の最終年であり、政権の公約である10年前に比べて2倍のGDPが求められており、経済の停滞は許されない政治的課題だとしている。

 17年前にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際には、03年のGDP成長率が10.1%と前年を1ポイント近くも上回った。しかし、習近平政権が成立した13年以降、成長率は下降を続けている。

 19年のGDP成長率も6.1%増と、天安門事件以降、過去29年間で最も低い数値に低迷した。中国人民銀行は2月3日、金融市場に1兆2000億元(約18兆7000億円)を注入したが、景気下落をいかに抑えるか。大いなる不安が習近平指導部に渦巻いている。

(濱本 良一/週刊文春 2020年2月13日号)