■土日の朝に開催される闇市

大阪市西成区あいりん地区。労働者の街からバックパッカーの街へ変化を遂げたといわれることが多くなった。事実、外国人観光客の数は急増しているものの、暗い側面は残る。今、若い女性たちがあるクスリを求めて、あいりん地区にやってきている。

あいりん地区で撮影

2019年の3月末に閉鎖された、あいりん総合センターから南に徒歩1分。南海高野線の高架下には、土日の朝になると、違法な露店が複数並ぶ。この露店群は2015年に警察による一斉摘発を受けて姿を消したものの、すぐに復活。現在にいたるまでいたちごっこを続けている。12月の中旬頃にもガサ入れが行われたというが、なくなる気配はない。

露店では衣服や雑貨、家具などが中心に売られている。ただのフリーマーケットのようでもあるが、細かく商品を見てみると、そうではない。店主や客の風貌からも、けっしてクリーンな雰囲気ではないことがわかる。DVD屋の露店はとくに人気で、店舗数も多い。有料アダルト動画サイトで配信されている作品をディスクに焼いて、1枚数百円で販売している。

数は少ないものの、薬屋の需要も高い。薬屋の仕入れ先は生活保護受給者だ。生活保護受給者は医療費が免除されているため、無料で処方された薬を露店に売り、生活費を稼いでいる。

同地区にある飯場(建築現場作業員の寮)で生活している男性に、この薬屋について詳しく伺った。男性は薬屋に通い続け、あらゆる種類の薬を集めている“コレクター”だという。

睡眠導入剤でトリップする若い女性たち

「俺がよく購入する薬はデパスとリリカ。デパスは1シート10錠で300〜500円。最近値上がりして1000円になったな。リリカも1シート10錠で300円。今は通販でも買えるけど、リリカを通販で買おうと思ったら同じ量で3万円近くはするから、闇市で買うのは当たり前だろ」

処方箋医薬品コレクションの一部

デパス、リリカは医師の処方箋がないともらえない処方箋医薬品だ。ネットでの販売は違法である。当然であるが、露店での販売も違法だ。

デパスは抗不安薬、睡眠導入剤として使われ、リリカは神経障害性疼痛の鎮痛剤として使われることが多い。男性は腰にヘルニアを発症しており、現場作業中に服用することが多いという。

「俺が普段行っている解体現場は力仕事しかないから、腰が痛くてどうにもならないときがある。リリカは25ミリ・75ミリ・150ミリと強さが分かれているが、『もう思い切りいったれ』と300ミリ一気に飲み込んだことがある。そのときは足場に登っていたが、目がグルグル回って本当に焦ったからな。昔は覚せい剤も打っていたくらいだから大丈夫だと思ったんだけどな」

デパスは合法でありながら依存に陥る危険性もある。抗不安薬、睡眠導入剤には様々な種類があるが、合法で手に入るがゆえに、乱用に走ってしまうという社会問題にもなっている。

「デパス、リリカのほかに睡眠導入剤のハルシオン、マイスリーも闇市では売られている。問題なのは、そういった薬を求めて、最近女子大生風の若い女の子がよく露店に来ていることだな。その子たちは不眠症のためではなく、大量に服用してトリップするために買っているわけだ。この前もマイスリーを1シート買って、その場で3錠一気飲みしている子がいてな。『自分、あかんで、死ぬで』と注意したが、すでに目がグルグル回っていて、話にならなかった」

薬物乱用と聞くと、覚せい剤、コカイン、MDMAなど違法薬物が真っ先に思い浮かぶが、病院で処方される合法な薬にも依存性があるものが含まれていることを忘れてはならない。警察にはいち早く、根絶を前提とした摘発を求める。

(國友 公司 撮影=國友公司)