うまえもん像がおでむかえ。40周年キャンペーンでは同サイズの貯金箱も制作

写真拡大

1979年7月に発売され、2019年に発売40周年を迎える駄菓子うまい棒」。発売以来10円という販売価格を維持しながら多彩な味を展開。今や駄菓子の代表的存在となった同シリーズだが、発売当時はコーンパフや個包装など、それまでの駄菓子の常識を打ち破った革命的商品だったという。うまい棒誕生秘話や、ユニークな味の作られ方、そして10円という販売価格への思いを、うまい棒を販売する株式会社やおきん営業企画部商品課長の田中浩次さんに聞いた。

【写真】”うまえもん”がズラリ並ぶやおきんの応接室

駄菓子に革命起こした「10円で個包装」

1979年に発売されたうまい棒。コーンパフで作られた駄菓子は、当時としては最先端の技術が用いられたものだった。

「当時、エクストルーダーと呼ばれるパフマシーンが登場し、菓子メーカーがコーンパフを使った新商品を続々と開発しました。そうした中、コーンパフの駄菓子として発売したのが『うまい棒』なんです」

これまでの駄菓子にないサクサクとした食感のうまい棒。さらに、大きな瓶ケースでむき出しで売られる駄菓子が主流だった中、フィルムによる個包装パッケージを採用した。

「コーンパフは非常にしけやすいため、従来の瓶詰めで売るのではすぐに食感が変わってしまうという問題がありました。そのため、1本10円の商品を1点ずつ個包装にするという、当時の常識としては考えられないような方式となったんです」

当時の駄菓子の相場が20円から30円の中、破格とも言える10円商品の個包装を実現するために、製造工場や原料・資材の調達、配送に至るまで効率化と徹底的なコストダウンが行われたという。

「たとえば包装で言えば、元は1枚の大きなフィルムなのですが、1枚のフィルムでロスなく切り出してパッケージを作れるようサイズを調整しました。さらに商品を詰める段ボールの大きさも、トラックの積載量に合わせて隙間なく積み込めるよう計算して作られています」

■ 個包装ゆえに販路拡大、時流に左右されず年間7億本の国民的駄菓子

さらに、個包装としたことで「持ち運べる駄菓子」となったことも子供に受け入れられた理由だという。

「当時の子供の過ごし方は、外で遊んで、駄菓子屋で休憩して、また遊びへ、というスタイルでした。それがうまい棒の場合は、持ったまま遊びに出かけて、どこでも食べることができました。そうした手軽さが、広く受け入れられた理由の1つと言えます」

また、個包装としたことは、時代の変化に対応できた理由にもなったと田中さんは話す。1980年以降普及したコンビニエンスストアやスーパーマーケットでの取り扱いが可能となったからだ。

「パッケージに賞味期限や原材料表示ができたため、駄菓子屋以外でも、コンビニやスーパー、最近ではうまい棒の発送単位である30本を袋売りするディスカウントストアや、ゲームセンターの景品など、さまざまな売り場に対応することができました。駄菓子屋自体は減少しましたが、市場の変化に柔軟に対応できたことが安定した売り上げにつながりました」

田中さんによると、うまい棒の出荷本数は直近で年間約7億本。単純計算で約70億円を売り上げるヒット商品は、現在では当たり前となった個包装を先駆けて採用したことが功を奏したのだ。

うまい棒といえば…の「めんたい味」が爆発的ヒット、ルーツは“九州の居酒屋”

うまい棒が他の駄菓子と一線を画したもう1つのポイントが、豊富な味のバリエーションだ。1979年にソース味、サラミ味とカレー味を発売し、1980年にはチーズ味、バーガー味、やさいサラダ味がラインアップに加わった。

「種類が増えると選ぶ楽しさが生まれますから、1つの味ではなくいろいろな商品を増やしていこうという方針は当初から引き継がれています」

新たな味の開発でも、スナック菓子によくある味では面白くないと考え、あえてユニークな味を選んで作り続けているという。

「弊社が製造メーカーに『こういう味でどうでしょう』というものを提案し、試作していただいたものを一緒に調整して新しい味を開発しています。中には当初想定した味にたどり着かないものもあります。ですので、Aという料理の味を作っていたとして、『むしろBに近いんじゃないか』と思ったらB味に切り替えて発売した、というものもあるんです。おいしい味、面白い味を作ろうというスタンスなので、商品開発の振れ幅は大きいですね」

うまい棒ならではの味が数多く存在する中でも、1982年に発売され現在は定番となっためんたい味は、うまい棒の知名度を押し上げるほど爆発的に売れた商品だという。

「めんたい味発売当時、明太子は九州のご当地食品として関東ではまだ馴染みのない食べ物でした。弊社の社員が九州に出張した際、地元の居酒屋で食べた明太子の味に感銘を受けて『明太子味で作れないだろうか』と考えて生まれたのがめんたい味なんです」

■ 販売終了と再販繰り返し “粘り強く”人気得るなっとう味

酒のつまみから生まれためんたい味は、コンポタ味、チーズ味に並ぶ売り上げを誇る人気フレーバーとなった。売り上げとしてはこれにやさいサラダ味、たこ焼き味、サラミ味と定番の味が続くが、近年ではシュガーラスク味など、甘いうまい棒も急速に人気を集めている。

一方で、販売終了とリニューアルを繰り返し着実に人気を伸ばした味もある。1993年に発売され、約1年で一度販売を終了したなっとう味だ。その後、1995年、2003年にリニューアルしてそれぞれ再発売するも、いずれも数年でラインアップから姿を消していた。現在のなっとう味は、2012年に発売された第四期。うまい棒を製造するリスカが茨城県のメーカーということもあり、なっとう味は特に思い入れの深い味だという。

「最初のなっとう味は香料を使って納豆の味を再現していましたが、やはり実際の納豆の味とは違うのではという声もあり、現在では納豆のフリーズドライパウダーを使うことで、唾液と相まってねばねばした納豆の風味が味わえるよう進化しています。また、関西では納豆を食べる習慣があまりなかったこともあり、当初は西日本での売れ行きが弱かったのですが、再販ごとにうまい棒ならではの味として認知されるようになり、2012年の第4期は過去最長の販売期間となっています」

そのなっとう味を含め、現在発売されているうまい棒は、限定商品を除く通常フレーバー14種と、10本入りで販売されるプレミアムうまい棒3種。これまでに発売された総フレーバー数は50種類以上に及ぶ。常に新たな味を開発する営みそのものが、うまい棒が愛され続ける理由の1つとなっている。

■ パッケージのアイツの名は「うまえもん」、38年目にしてようやく命名

うまい棒を語る上で欠かせないのが、パッケージに描かれたキャラクター「うまえもん」だ。実はその名称は、2017年まで公式には定まっていなかった。

「インターネットが普及してから、地域によってパッケージキャラクターが『うまい棒くん』や『うまい坊や』など、さまざまな呼ばれ方をされていると知りました。中でも『うまえもん』という呼び名が主流のようだと把握はしていましたが、それぞれの名前で親しまれている中で公式な名称を定めてしまうのもどうかと考え、公式には『うまえもんという呼ぶ方が多いみたいですね』という程度にとどめていたんです。

ただ、2017年に妹キャラクター「うまみちゃん」が登場したのを機に、誰の妹なのかと説明する必要があり、『では、うまえもんでよいのでは』という流れで名称が決まりました」

これまでも、カラオケブームやJリーグ開幕など、世相を反映したパッケージの中でコミカルに描かれてきたうまえもん。うまえもんのデザインはアレンジし続ける一方、パッケージの「うまい棒」のロゴタイプは変えずに定番としての安心感を保っているという。

■ 限界まで10円を死守、貫く想いは“子供への恩返し”

味の多彩さや愛されるキャラクターで国民的支持を得るうまい棒だが、その地位は決して安泰というわけではない。2019年10月には消費税増税が控え「うまい棒も値上げするのでは」との声もある。さらに、高級志向の菓子の台頭や、ライフスタイルの多様化によって、小売店で駄菓子が占める割合は減少しつつある。そうした中でも田中さんは「できる限りは10円で続けていきたいという思いはあります」と思いを明かす。

そうした努力を払い、やおきんが低価格な駄菓子を作り続ける裏には、これまで駄菓子を買ってきてくれた子どもへの恩返しの思いがあるという。

うまい棒はCMや広告を打つ予算自体がありません。その分、新しい味や、うまい棒の世界観を広げることで、子供の頃にうまい棒を食べた方が大人になっても『うまい棒は置いてほしいよね』『駄菓子があると楽しいよね』と思っていただけています。

100円あったらたくさんの種類が選べるのがうまい棒の、そして駄菓子の強みです。子供が安心して、喜んで食べていただける駄菓子は弊社の柱として、これからも作り続けていきたいと思っています」

おいしさも多様化する時代の中、うまい棒は子供から大人まで楽しめる駄菓子の楽しさで生き残りを図っている。(東京ウォーカー(全国版)・国分洋平)