5月4日5時49分、堀江貴文さんが投資するインタステラテクノロジーズの観測ロケット「MOMO3号機」が最高高度100km以上(=宇宙空間)に到達しました。

これは日本の民間企業が単独で開発・製造したロケットとしては初めての偉業。

出典 Youtube

その数日後に、堀江さんはFacebookにこんな投稿をしていました。

"思えば長かった。最初ロケットはロシアからエンジンとカプセル持ってくれば簡単に出来るもんだとタカをくくっていた。甘かったね。

(中略)

それから私は刑務所に入るのだけど、メルマガを数少ない手紙発信回数を消費して書き続けだ。もちろんロケットの開発資金のためだ。

(中略)

死屍累々のロケットベンチャーにとっては一つの大きなデスバレーを越えることができて感慨深いが、私の仕事はここからが本番だ。

ホリエモンは資金を出してるだけで何もしてない、とか悪意のある言葉に傷つくこともあるが一度は社員数千人の上場企業を経営していた身。

資金調達や技術者中心のチームビルディングはむしろ本職だし、PR力もある。私が現場でネジを締めるのはむしろ本末転倒であり、ベンチャー企業は適材適所で動かないと余裕がなくなってしまう。

というわけで、読んでくださった皆様、出来るだけ多くのご支援をぜひインタステラテクノロジーズにお願いします!"

出典 https://m.facebook.com

いつもの堀江さんからは想像できないくらいエモい文章。

ただ、なぜ堀江さんがロケット事業をやっているのか、これまでどんなことをしてきたのか、よくわかっていない読者も多いはず。

それを本人に思う存分語ってもらいましょう、というのが今回の企画です。

これだけの想いがあるのなら、きっと優しく説明してくれるはず…

〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)〉

なぜ堀江さんはロケット開発を始めたんですか?

渡辺:
改めまして、MOMO3号機の打上げ成功おめでとうございます。

堀江さんのFacebook投稿、グッときました。

堀江さん:
ありがと。


今日の機嫌は…?

渡辺:
ただ、読者のなかには「ロケット打上げ成功」というニュースは見たけど、堀江さんとロケットのこれまでの歩みをよく知らない人も多いと思うんですよ。

今日はそこを改めて教えてもらいたいなと思って。

堀江さん:
それはこれまでいろんなインタビューで話してるじゃん

それ読めばわかるでしょ。

渡辺:
いや、それがちょっと難しくて。

もっとわかりやすく教えてもらえたらうれしいなぁと…

堀江さん:
そんな甘えた態度で来られるとムカつくんだけど。


もうわかりました。今日は“ハズレ日”です(前日、副鼻腔炎になって熱があったとのこと)

渡辺:
そんなつもりは…

でも、そもそも堀江さんがなぜロケットにそこまで情熱を注ぐのかが不思議で。

私財を60億円以上投資してるって、とんでもないことじゃないですか。

やっぱり「宇宙」にロマンを感じてるんですか?

堀江さん:
そういう質問にもうんざりしてる。

ビジネスをやるうえで、ロマンか儲けかの二元論で考えていることが意味不明。

資本主義の社会でビジネスを継続しようと思ったら、利益を出す必要があるのは当たり前じゃん。

そんなレベルの質問から答えないといけないの?


開始早々ライフがゼロに

堀江さん:
俺は別に子どものころから宇宙開発を夢みてたわけじゃないよ。

ただ、「ロケットが当たり前に飛んでる未来が来るだろうな」ってずっと思ってたの。でも、2000年代になっても実現してなかった。

それで疑問に思って、いろいろ調べてみたんだよ。



堀江さんが語る「ロケット今昔物語」

渡辺:
なんでロケット開発は進んでなかったんですか?

堀江さん:
国が規制してたから。なんでだと思う?

渡辺:
(出た、逆質問…)

えーっと、ロケット開発の技術を漏洩させたくないからですかね。

堀江さん:
なんで? なんで漏洩させたくないの?

渡辺:
ごめんなさい。なんとなくで答えてしまいました…


最近、このホリエモンクイズが夢に出てくるようになりました

堀江さん:
ロケットの歴史ってすごく面白いんだよ。

はじまりはジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』(1865年)っていうSF小説で、そこで初めてロケットで宇宙に行くという理論が出てきたの。

その小説のなかでは大砲で月まで飛ばすんだけど

渡辺:
マンガみたいな話ですね。

堀江さん:
で、そのあとに科学者がロケットの理論をどんどん確立していって、実際にアメリカやドイツの民間企業でロケットの開発が進められたの。

国家がロケット開発を主導しはじめたのは1930年代ごろ。

渡辺:
100年前くらいか。なんでそこからは国主導になったんですか?

堀江さん:
第一次世界大戦で負けて航空機の生産を禁止されたドイツが、「飛行機ではない空の兵器を作ろう」って考えてロケットに目をつけたんだよ。


ロケットは航空機じゃないでしょ、って」

堀江さん:
それでナチスがロケット開発に莫大なお金をかけたもんだから、ロケットの技術は飛躍的に進化して、ついにドイツはロケット兵器「V2」を完成させた。

渡辺:
皮肉にも戦争がロケットの技術の進化を加速させたんですね…

堀江さん:
そう。軍事目的じゃなければそんなにコストはかけられなかったと思う。

でも、結局ドイツは第二次世界大戦で負けちゃって、ロケットの技術はアメリカとソ連にわたる。

渡辺:
なるほど。

堀江さん:
ここからは有名でしょ? アメリカとソ連のロケット競争。

だから、アメリカもロシアも最初のロケットはドイツの「V2」のコピーなんだよ。

渡辺:
…というか、堀江さん。

堀江さん:
なに?

渡辺:
なんか普通に歴史の授業みたいになってます。

なんで堀江さんがロケット開発をやろうと思ったのか、という話を聞きたいんですけど…

堀江さん:
これから話すから、まだ黙って聞いてろって。

なんで新R25はいつも過程を無視して、結論ばっか聞こうとするの?

ふわふわした知識で話を聞かれるのが迷惑だから、ちゃんと前提から説明しようとしてるんだからさ。


お怒りはごもっともですが、メディア批判まで…

堀江さん:
話の続きをすると、ロケットの技術を入手したソ連やアメリカは核実験にも成功していたから、ロケットに核を搭載できるようになったわけ。

迎撃不可能な核ミサイルなんて脅威でしかないでしょ?

渡辺:
間違いないですね。

堀江さん:
だからロケット開発は国家が管理することになったのよ。

いまだに、敵対国には技術が流出しないように強く規制が入ってる。

なぜ近年、民間でのロケット開発が盛り上がってるの?

堀江さん:
ただ、いつまでも国が主導してると柔軟性やコストの面で問題があるってことで、1984年にアメリカで「商業宇宙打上げ法」が制定されて、そのあたりから民間企業でも参入しやすいようにロケット開発の環境が整備されてきた。

30年遅れだけど、日本でも2016年に「宇宙活動法(※)」が成立したのもその流れ。

産業としてロケット開発を伸ばしていこうって決めたんだよ。


ロケットの打上げ・衛星管理に許可制度が導入されるというもの。宇宙関連の事業を整備し、民間のロケットビジネスをサポートする目的で制定された。



堀江さん:
あと、昔は実際にロケットに使われている部品が市場に出回ってなかったのよ

ロケットの姿勢を制御するための「ジャイロセンサー」なんて、ミサイルと潜水艦くらいにしか使われてなかったから、ほとんど生産されてなかったし。

渡辺:
あ、ジャイロセンサーって、スマホに入ってる?

堀江さん:
そう。最近はジャイロセンサーやGPSの需要が増えて大量生産されるようになったから、そういったセンサー類が安く手に入るようになったのも大きいよね。

ロケット開発にまつわる環境変化と俺の歩みがシンクロした」

堀江さん:
それで本題に入るんだけど、民間でもロケット開発ができるようになってきた2000年代はライブドアの事業も順調で、俺も宇宙のことを考える余裕があったのね。



堀江さん:
それでロケットの開発が進んでない」現状に対して、何かできないかなって思ったの。

最初はロシアのロケットを買おうと思ったんだけど、それが現実的じゃなくて、日本でロケットを作っているチームを支援することにした。

それが今のインターステラテクノロジズ。

渡辺:
へええ。ライブドア時代にロケット事業に参入してたんですね。

堀江さん:
そうだよ。そんな感じで、ロケット開発の環境変化と俺の歩みがちょうどシンクロしたときに誰もやってる人がいなかったから、俺がやってるってだけ。

渡辺:
昔から憧れてたわけでも、急に思いつきで始めたわけでもないんですね。

勉強不足、大変失礼しました…

ロケット開発のノウハウ断絶が大きなハードルだった

渡辺:
ちなみに、実際に民間でロケットをつくってみて、どんなことが大変だったんですか?

堀江さん:
ノウハウがまったく継承されてないこと

渡辺:
ロケット開発のノウハウって、文献とかで残ってないものなんですか?

堀江さん:
それも全然わかってない。「ノウハウ」ってなんだと思う?

渡辺:
えっ…? ノウハウはノウハウとしか…

堀江さん:
ノウハウって、マニュアルには書いてないものを指すんだよ。

組織のなかでは当たり前になっている技術だから、明文化されてないの。

渡辺:
なるほど…!


「たとえばさぁ…」立ちあがって何かを書きはじめた堀江さん

堀江さん:
俺たちがつくっているのは液体酸素を使う「液体燃料ロケット」なんだけど、実験のときの安全性を考えて、代わりに液体窒素を使おうとしたら圧力容器に入れられなかったの。

容器に液体窒素を流し込んでも、沸点がマイナス196度だからすぐに気体になっちゃうんだよ。

その問題解決に1カ月くらいかかったんだけど、どうやったと思う?

渡辺:
いや…まったくわからないです。

堀江さん:
正解はタンクを断熱材で覆って、圧力をかけて液体窒素をどんどん圧送するだけ

気化しても気にせずどんどん入れていくことでタンクが冷えて、マイナス196度以下まで下がるの。

そしたらやっと液体窒素がタンクの中に液体のまま入っていくんだよ。


堀江ゼミナール開講

堀江さん:
それを三菱重工の人に話したら「そんなの当たり前じゃねえか」って言われたの。

でも、そんなの知らないないヤツにはわかんないじゃん。

ヤフー知恵袋とかにも書いてないでしょ。

渡辺:
書いてなさそうです。知らないですけど…

堀江さん:
そんな断絶されたノウハウが何千とあるんだよ。

それを一つひとつ解決していかなきゃいけないから、とにかく時間がかかるわけ。

ホリエモンロケットの現在地と次の目標


よく考えたら、これめちゃくちゃ贅沢な授業だ…

渡辺:
ホリエモンロケットの今後の展望は決まってるんですか?

堀江さん:
今はまだ一瞬宇宙に行って戻ってくる「サブオービタル(準軌道)」が成功しただけなんだけど、次の目標は「軌道投入」だね。

渡辺:
(サブオービタル…? 軌道投入…?)

すみません、もう少しわかりやすく教えていただけますでしょうか…

堀江さん:
…ったく、しょうがないな。


補習がはじまりました

堀江さん:
今回の「MOMO3号機」は地上100kmを超えたら、そのまま落ちてくるだけ。これがサブオービタル。

でも、人工衛星を打上げるには、宇宙空間でそれを地球周回軌道に乗せないといけないわけ。


真ん中にある薄い丸が地球、その外側の丸が地球周回軌道、指を指している先が「MOMO3号機」の軌道だそうです

堀江さん:
これを実現するには、真上に打上げたロケットを、空気が薄くなったところで地球の丸みに沿って落ちつづける軌道に乗せられるほど加速させなきゃいけないの。

渡辺:
やっぱりそれは難易度が高いんですか?

堀江さん:
まぁね。でも、軌道投入機に必要な姿勢制御技術やロケットの構造設計技術とかは「MOMO3号機」でだいたい習得できた。

渡辺:
おお、確実に前進している。

堀江さん:
宇宙空間で機体を切り離す技術真空に近いところで着火させる技術も今のロケットで実験できる。

これから「MOMO」を何号も打上げてまだその検証をしなきゃいけないけど、それが完成したら理論上は軌道投入を実現できるはずなんだよ。



工夫次第で、サブオービタルロケットもビジネスになる

渡辺:
わかりやすい説明、ありがとうございます。

しかし、軌道投入機が完成するまでにはまだまだお金がかかりそうですね…

堀江さん:
そうなんだけど、サブオービタルロケットでも十分ビジネスになると思ってる。

渡辺:
どうやるんですか?

堀江さん:
JAXAがこのサブオービタルのロケットを年に2回打上げてるんだけど、そこに全国から20くらいの研究機関が応募してるんだよ。

ウチならもっと格安で打上げられるから、ニーズはあると思う。

渡辺:
それだけで大きなビジネスになるものなんですか?

堀江さん:
あとは、打上げ自体を“イベント化”しちゃえばいい。

ロケットのネーミング権とか機体広告を売れば、年間10億円くらいのビジネスにはなるでしょ。

渡辺:
そういえば、「ロケットの発射ボタンを押せる権利」を1000万円で買った人もいましたね。

堀江さんが頭を使えば、サブオービタルロケットでもいろんな可能性が出てくるな…

「もっと気軽に宇宙に行ける未来」を実現したいから、低コストにこだわる

堀江さん:
まぁでも、今回の打上げ成功で、技術的にはようやく1940年代のドイツに追いついた感じ。

実用化するにはまだまだ実験を重ねないといけない。

渡辺:
まだそんなレベルなんですか…

堀江さん:
ただ、もちろんめちゃくちゃお金をかければロケットは飛ぶわけじゃん。それはJAXAが証明してる。

そうじゃなくて、俺らはホームセンターで買ったパーツとか、自社工場で加工した材料を使ってロケットを作ろうとしてるから、簡単にはいかないんだよ。

渡辺:
「目的地(宇宙)にたどり着くための手段なら、フェラーリじゃなくてスーパーカブで十分」ってのが堀江さんの持論ですもんね。

でも、それを目指すからこその苦労があるんですね…

堀江さん:
そうだよ。


「やっと伝わったか…」感がにじみ出てます

渡辺:
ちなみに堀江さんは、あとどのくらいで軌道投入機が完成すると予想してるんですか?

堀江さん:
…それはわかんない。

だけど道筋は見えてるから、やるしかないよね。



「もっと気軽に宇宙に行ける未来」を実現するため、10年以上もロケット事業に尽力してきた堀江さん。

ちなみに、今回の記事で紹介できたのは堀江さんが話してくれた内容のほんの一部。大半は専門的すぎてついていけない話のオンパレードでした(ホントに驚くべき知識量…)。

「MOMO」の実験はこれから第二段階に入りますが、これまでのロケット開発の歴史や苦労を知って、これまで以上に応援したい気持ちになりました。

堀江さん、これからも頑張ってください!

〈取材・編集=渡辺将基(@mw19830720)/撮影・執筆=福田啄也(@@fkd1111)〉

宇宙から紙飛行機を飛ばす!?「MOMO4号」がクラウドファンディング実施中!



そして早速、軌道投入機の実現に向けた次なる観測ロケット「MOMO4号」のクラウドファンディングプロジェクトが始動しています。

次回は宇宙から地球に向けて紙飛行機を飛ばしたり、ロケットの燃料に日本酒を加えるなど、前代未聞のチャレンジが満載。

さまざまなリターンも用意されていますので、今回の記事で堀江さんの想いに心動かされた人は、ぜひ支援してみてください!

みんなの力で宇宙から夢の折り紙飛行機を飛ばそう!
https://camp-fire.jp/projects/view/163339

また、クラウドファンディングの高額リターンにも含まれていますが、「MOMO4号」は企業広告も募集中。

前回は、グローズバル社がペイロード(ロケットが宇宙に運ぶ荷物)のスポンサーとなり、同社の「とろけるハンバーグ」が宇宙に飛び立ちました。



「MOMO4号」もさまざまな提案を歓迎中とのこと。興味を持った企業の方は、ぜひ問い合わせてみてください!

お問い合わせ|インターステラテクノロジズ株式会社
http://www.istellartech.com/contact

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