メール、手紙、電話……“人に笑われる”敬語・丁寧語
「年次を重ねている方が正しい敬語を使っているかと言えば、そうではありません」
毎年多くの「新入社員向け」敬語研修を担当する、元CAの美月あきこ氏は言う。あなたは大丈夫だろうか。自分の言葉遣いを見直してみよう。
■誤った敬語は会社の信用を落とす
若手、ベテランを問わず「敬語の癖」があります。若手ビジネスパーソンは「正しい敬語を使わなければ」と意識するあまり、二重敬語や余計な言葉の挿入、過剰な敬語を使う傾向があります。一方、ベテランビジネスパーソンは身についてしまった我流の敬語を使いがちです。
特に意識していただきたいのが部下や後輩を持つ方々です。会話や商談などを通して、若手は先輩や上司の言葉遣いを真似してしまうもの。ビジネスコミュニケーションに関しては、若手のボトムアップと同時にトップダウンが必要不可欠です。
敬語を美しく使うことの効能は2つあります。まず、ワンランク上のビジネスパーソンに見せることができるという点。逆に、ここぞという場面で誤った敬語を使うと自分だけでなく、会社の信用を落としてしまう恐れもあります。
もうひとつは、関係性をフラットにできる点です。ビジネスにおいて敬語は「共通言語」。お互いに敬語を使えば対等に話せるというメリットは大きいのです。相手が目下だからと粗略なものの言い方をせず、正しい言葉遣いで丁寧に話すことで職場の空気もよくなるでしょう。
スマートな敬語を使うための第一歩としておすすめなのは一文を短くする方法です。ありがちな「いただきます」の連続も短く区切ってみると防げます。
「自分は大丈夫」という思い込みを捨て、体に染みついた誤用をリセットするつもりで取り組んでみてください。
■敬「態度」で一層の敬意を表す
目の前の相手と気持ちよくコミュニケーションをとるためには、正しい敬語に加えて敬意を表す「態度」が不可欠です。私は客室乗務員としてファーストクラスに乗務し、様々なお客様とお会いしてきました。そのなかで身につけた、敬意を損なわずに相手の懐に入るポイントをご紹介します。
【1】ルール
上司や取引先が一緒の飲み会やタクシーでは下座に座る、社外の人と身内が初めて顔を合わせるときには身内から紹介する、といった基本的なマナーを押さえておきましょう。
【2】雑談
事前に情報収集をし、相手が得意になって話したくなる話を引き出すのが鉄則です。上司の自慢話など相槌に困るときは、笑顔で同じ言葉を返すと角も立たず相手も嫌な気持ちになりません(「昨日ゴルフで優勝したんだよ」→「優勝されたんですか、すごいですね!」)。
【3】気配り
相手は忙しいビジネスパーソンですから、時間に対する配慮は欠かせません。「お忙しいところ恐縮です」などのクッション言葉を入れる、報告や連絡は端的に行うなどの気配りを忘れないようにします。
▼会話編
咄嗟の対応が求められる会話や電話では、つい使い慣れている言葉や言い回しを使ってしまいます。正しい用法を身につけ、周囲の模範となることができれば社内評価も上がるかもしれません。
[二重敬語]
一つの言葉を重ねて敬語化する二重敬語。敬語を重ねたからといって敬意が高まるわけではないので避けましょう。
× ご覧になられますか
○ ご覧になりますか/見られますか
解説:「ご(お)〜になる」+「られる」パターンの誤用。尊敬語は一つの言葉に一つまでが鉄則です。
× お承りいたしました
○ 承りました/承知いたしました
解説:「お」+「謙譲語」+「謙譲語」の三重敬語。まどろっこしく、慇懃無礼な印象を持たれます。
[バイト敬語]
コンビニや飲食店でよく耳にするバイト敬語。通用するのは学生時代まで。仕事に慣れていない印象を持たれます。
× こちらでよろしかったでしょうか
○ こちらでよろしいですか/こちらで問題ございませんか
解説:バイト敬語の代表格。「よろしかったでしょうか」では尊重する先が自分になってしまうため、相手を尊重する「よろしいですか」にしたほうがいい。
× とんでもございません
○ とんでもないことです/とんでもないことでございます
解説:よく耳にする言葉ですが、「とんでもない」で一つの単語なので読尾を変化させるのは誤用。
[ウチ・ソト逆転敬語]
社内の人間(身内)に尊敬語を、社外の人に謙譲語を使ってしまう間違いです。
× (他社の人に)弊社営業部の田中さん/田中部長です
○ 弊社営業部部長の田中です/弊社営業部の部長です(近くに本人がいて心理的に呼び捨てにしづらい場合)
解説:身内に「さん」をつけるのはもってのほか。役職を表す言葉自体が敬意を表現するため、語順を変える等の工夫が必要です。
× 弊社の担当にお伝えします
○ 弊社の担当に申し伝えます
解説:敬意を払う対象が身内になっています。これでは、自社の人間を高めることに。
[上から敬語]
一見、丁寧な言葉ですが、かえって相手を下げてしまう言い回しがあります。敬意の対象は常に考えておきましょう。
× 申し訳ございません、わが社の責任です
○ 申し訳ございません、弊社の責任です
解説:「わが社」は間違いではありませんが、得意先には謙遜した言い方をするほうがベター。特に、謝罪のときは偉そうな印象が出て不自然。
× (はじめのあいさつで)お世話さまです
○ お世話になっております
解説:「お世話さま」はねぎらいや感謝を意味しているが、はじめてのあいさつでは使わない。2回目以降であれば、相手との関係性によってはOKの場合も。
[電話敬語]
顔が見えないからこそ、正しく使いたい電話での敬語。特に、へりくだる表現と敬意を表す表現を混同しないように注意。
× (電話を受けて)伊藤様でございますね
○ 伊藤様でいらっしゃいますね
解説:「営業部の後藤でございますね。少々お待ちください」のように、「ございます」は身内の名前を確認する際に使います。
× お名前ちょうだいできますか?
○ お名前をお聞かせくださいますか?/お名前をお教えくださいますか?
解説:名前は聞くものであって、ものとしていただくものではありません。名刺交換文化から派生した誤用です。
[ムダ敬語]
敬語に慣れていない人ほど、文法的に誤っている余分な言葉を加える傾向があります。すっきりとした言い回しを心がけましょう。
○ 今日は休ませていただきます/今日はお休みをいただきます
解説:一見丁寧に見えますが、五段活用の動詞は「せる」と結びつくのが原則。「休ませる」という相手の動作を考えれば、「さ」は余計なことがわかるでしょう。
× (社外からの電話で)本日、佐藤はお休みをいただいております
○ 本日、佐藤は休みを取っております
解説:お休みは社外の人からもらうものではないので、不適切な表現です。「頂戴しております」も使われることが多いのですが、同じくNG。
▼社外メール編
社外の方にメールを送る際には忙しい相手に時間を割いていただくという意識が大切です。特にアポイントをとるときは目的や社外メール編場所、全体の見込み時間や人数を記し、不明点のないように。
[1]役職に「様」はつけない
「営業部部長 山本様」「山本部長」など。
[2]敬語の重なりを最小限に抑える
「お伺いさせていただきたい」は三重敬語。「伺いたい」が正しい。また、「〜したいと思い」「〜したいので」は「〜したく」に統一するとシンプルになる。ここでは「ご挨拶に伺いたく、〜」が正解。
[3]「なる」は何らかの変化を伴うときに使う
この場合、変化はないので「なります」は不適切。「3名でございます」とする。
[4]敬意の対象がウチかソトかを考える
社内で本人に直接伝えるときには「申し上げます」だが、社外の人には「申し伝えます」。
▼社内メール編
社内でのやりとりであれば過度な敬語は不要です。意識的に簡潔に、一文を短く書くよう心がけましょう。
[1]「了解する」は使わないほうがベター
誤りではないが、荒っぽい印象を与えるため避けたほうが無難。
[2]「申す」は謙譲語。対象が相手の場合は尊敬語を使う
「高橋さんがおっしゃいました」「ご指摘くださった」などを用いるのがよい。
[3]簡潔な言い回しを心がける
敬語が重なり、くどい印象に。「新プロジェクトを提案いたします」など簡潔に。
[4]同じ敬語でもよりよい印象を
「おられる」でも間違いではないが、ややくだけた印象を与えてしまうため、「いらっしゃいますか」を使うほうがいい印象を与えられる。
▼手紙編
お礼を伝えるときや謝罪するときに活用したいのが、手紙。可能であれば、筆ペンなどで書きましょう。相手の心に響く手紙を書くコツは、正しい敬語を使うことに加え、返信まで時間を置かないこと。
[1]「各位」は集団を対象に、その一人一人を敬っている言葉
「○○各位殿」「○○様各位」は二重敬語となってしまうので誤り。
[2]「拝啓」で始め、「敬具」で結びたい
加えて、簡単な時候の挨拶があるとマナーを弁えている印象を持たれる。「前略+草々」であれば時候の挨拶は不要。ただし、お祝いやお礼、お詫び、目上の人に対して使うことは失礼にあたる。気軽な間柄でも、気になるようであれば「前略 失礼いたします」とするとよい。
[3]定型文にあなたならではの一言を加え敬意を表す
贈答品をもらった場合は使用した感想、講演や激励してもらった場合はどのように感じ、どう活かしているかを素直に表現するとよい。
[4]ご自愛には「自らその身を」という意味も含まれる
「ご自愛のほどお祈り申し上げます」が正しい。
▼ワンランク上の使える「敬意」言い回し
相手へより敬意を示すためには「ものの言い方」も欠かせない要素です。こうしたプラスアルファの要素を使いこなし、ワンランク上の印象を与えましょう。プライベートでは使わない言い回しなのではじめは慣れないかもしれませんが、声に出して覚え、体に染み込ませてください。
[クッション言葉]
クッション言葉は、質問、拒否、お願いなど口にしづらいことを言いたいとき、文字通りワンクッション置くために使います。反対意見を言うときも、「おっしゃることはよくわかるのですが」と添えれば摩擦も少なくなります。
▽尋ねる
・恐れ入りますが、
・ご多忙中とは存じますが、
・お差し支えなければ、
・お手数ですが、
▽断る
・申し訳ございませんが、
・ご期待に添えず恐縮ですが、
・失礼とは存じますが、
・せっかくではございますが、
[改まり語]
プライベートでは使わない、改まった雰囲気を出すために使うビジネスの現場独特の言い回しを「改まり語」と言います。企画書やメール、電話や会話など汎用性が高いため、「習うより慣れろ」の精神で積極的に取り入れましょう。
▽時間に関係するもの
・明日(あした)→明日(みょうにち)
・これから→今後
・あとで→のちほど
・すぐに→早急に、ただいま
▽一般的なもの
・忘れる→失念する
・考え直す→再考する
・どれくらい→いかほど、いかばかり
・どのように→いかように
[呼称]
冠婚葬祭のときに迷いがちな呼称も、敬意を払う大切なポイントです。また、一緒にへりくだる呼称も覚えておきましょう(例:「私たち」→「私ども」、「わが社」→「弊社」「小社」、「贈り物」→「心ばかりの品」「寸志」)。
▽人
・夫→御主人様、御夫君
・妻→奥様、奥方様
・上司→御上司
・友人→御朋友、御学友、御友人
▽もの・こと
・贈り物→御芳志、お心づくしの品
・手紙→御書状、貴書
・安否→御清祥、御清栄、御健勝
・考え→御高見、御高説
(美月あきこ=監修 田中裕子=構成)
