なんとなくその日暮らしを続け、それでも「なんとかなる」と思っていた入学金…教育資金はしっかりと準備を

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 今年4月から所得制限が撤廃された“高校授業料無償化”の恩恵を受け、教育費の負担を感じずに乗り切れる家庭は多いはず。しかし、問題はその先の大学だ。大学の授業料の負担軽減についてはまだ十分に施策が進んでいない。さらに、近年の大学入試制度によってもたらされる「死角」も。パニックに陥る親も少なくないというこのケースに、教育費問題に詳しいFP八木陽子さんが授ける緊急処方箋とは。

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【case】「合格したのに入学金が払えない」都立高3年生の保護者が味わった、残高50万円の恐怖

「まさか、大学に合格して、お金のことでこんなに焦ることになるとは思いませんでした」

なんとなくその日暮らしを続け、それでも「なんとかなる」と思っていた入学金…教育資金はしっかりと準備を

 都内在住のパート主婦、Mさん(48歳)はそう振り返る。長男は東京都立高校に通う3年生。世帯年収は650万円と、従来の就学支援金制度でも授業料負担は抑えられており、学費の捻出に悩むことはほとんどなかった。塾・予備校代、進学後の小遣い、部活動の遠征費などはその都度パート代から捻出し、いわゆる「その日暮らし」を問題なく続けていたのだ。

 しっかり者の長男は現役合格を目指し、忙しい両親に頼ることなく自分で大学入試に関する情報を集め、「総合型選抜(旧AO入試)」に挑戦した。そして昨年11月、本人の努力が実を結び、見事、志望する私立大学に合格した。Mさん夫婦は「これで一安心、予備校代もこれ以降は払わずに済む」と手を取り合って喜んだ。

 しかし、その数日後に届いた手続書類を開いた瞬間、Mさんは青ざめることになる。入学手続きとして、合格発表から2週間以内に入学金と前期授業料、合わせて80万円を納めなくてはならないと書かれていたのだ。

 当時のMさん宅の家計は自転車操業状態で、まとまった貯金はほとんどなく、複数の銀行口座をかき集めても、すぐに動かせる現金はわずか50万円。学費は奨学金を利用するつもりで、準備していなかった。

 親に頼らず受験準備をしてきた長男も「え、うちってそんなにお金がなかったの? 俺、もしかして大学に行けないの」と呆然。その様子に改めてショックを受けたMさんは、慌てて高校の担任に相談し、銀行の教育ローンを利用して急場をしのぐことになった。

FPが警告:「なんとなくその日暮らし」で受験に突入する親たち

「Mさんのケースに限らず、高校の保護者会に講演に行くと、大学進学費用の準備のことを考えたことがなかったという親御さんは少なからずいらっしゃって、驚かされます」

 そう苦笑するのは、数多くの学校や自治体で金銭教育や教育費に関する講演活動を行っているFPの八木陽子さん。子どもの大学進学が1年後、2年後に迫っている高1〜高2の親が集まる場であるにもかかわらず、具体的な見積もりを立てていない世帯が驚くほど多いという。

「FPとしては、“教育費は準備しやすいお金なのに、なぜ?”とぼやきたくなるようなケースが増えました(笑)。高校授業料の無償化が進んだことで、『教育費は何とかなる』という錯覚に陥ってしまったのでしょうね」

 しかし残念ながら、大学無償化はさほど進んではいない。無償化が該当する条件は、住民税非課税世帯や、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯などに限られている。大学以降の学費は保護者が責任をもって用意しなくてはならないのだ。

 とくに近年、私立大学の入学者の半数以上が推薦や総合型選抜を利用していることが事態をややこしくしている。こうした受験形式では、多くが年内に合格が決まり、Mさんのように心の準備ができていない高3の秋頃にいきなり入学金や学費の期限がやってくるのだ。親世代が知る「2月に一般入試を受けて3月に入学金を払う」というスケジュールは、今や主流ではない。

「一番の盲点は、多くの親が頼りにしている『日本学生支援機構(JASSO)』の奨学金です。これは事前に申し込んでいたとしても、実際に学生の口座にお金が振り込まれるのは『大学に入学した後』です。つまり、合格直後に支払わなければならない『入学金』や『初年度前期の学費』には間に合わない仕組みになっているのです」

【FPの処方箋】国の教育ローンに早めに申し込みを

 目の前に合格通知があるのに、手元に現金がない。祖父母(保護者の親)に頼ることもできない……。パニックになった親が、まず取るべき行動は何か。

「お金がないとわかった瞬間に、慌てて消費者金融など民間の高金利ローンに飛びつくのは絶対にやめてください。借入先を選ぶポイントは、まず『公的な制度』からあたることです」

 日本政策金融公庫が扱う「国の教育ローン」は固定金利年3.75%(2026年6月現在)。一方、メガバンクAの教育ローンは変動金利年4.725%だ。民間の銀行に比べて金利が非常に低く抑えられている。どこの銀行の窓口でも相談や取り扱いが可能なので、国の教育ローンから利用を検討したい。ただし、国の教育ローンは融資が実行されるまでに数週間、繁忙期(10月〜3月)は2、3月かかる点に注意が必要だ。

「合格発表から2週間以内に入学金を振り込め、と言われている状況で、合格後に公的ローンを申し込みに行っても、期限にはまず間に合いません。入学時の費用については、合格発表前に申込みができるので、総合型選抜や推薦を狙うと決めた時点で、あるいは高校3年の春の段階で、あらかじめ国の教育ローンの申し込みをしておきましょう」

 期限が迫ってから融資を利用したい場合には、窓口となった銀行が用意している教育ローンなど、審査が早いものでその場をしのぐことになる。

「大学受験は、子どもの学力だけでなく、親の家計管理力も試される戦いです。『うちの子はまだ高1、高2だから』とのんきに構えず、今すぐ最初の数十万円をどこから捻出するのかシナリオを想定しておきましょう。それが、我が子の努力を無駄にしないための親の務めです」

※紹介する事例は、プライバシー保護等のため、アレンジを加えている。

八木陽子(やぎ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®。キャリアカウンセラー。株式会社イー・カンパニー代表。2001年に独立。全国の小・中・高等学校での金銭教育や、教育費に悩む保護者へのコンサルティングを数多く手がける。著書に『10歳から知っておきたいお金の心得〜大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』など多数。

取材・文/鷺島鈴香

デイリー新潮編集部