サッカーW杯に選ばれるような選手は何が優れているのか。サッカーデータアナリストのノーミルク佐藤さんは「一流選手は目で見ているのではなく、脳内でピッチの3Dマップを更新し続けている。そのため、ボールが来る前に何度も動かしている体の部位がある」という――。

※本稿は、ノーミルク佐藤『サッカーIQを高める サッカーシステム完全講座』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andresr

■「質的優位」を生み出す選手が持つ3つの資質

「あの選手は個の力が強い」サッカーの実況や解説を聞いているとよく聞くフレーズですが、今の時代、その「個の力」というもの自体が劇的に変わっています。

かつては、例えばドリブルで3人抜く、空中戦で競り勝ち続ける、30メートルの弾丸シュートを叩き込むといった「目に見える技術」が質的優位だと思われてきました。もちろん現代でもそれらは紛うことなく高いクオリティであり、相手との差があれば、質的優位といっていいでしょう。

ただし、現代サッカーの中で控える新たな「質的優位」は、もっと静かで、もっと知的なところにあります。それは、「認知・判断・移動」という「プロセスの精度」が極めて高いということです。

■一流の選手は「首を振る」

まず「認知」です。これはボールだけを追うのではなく、ピッチ上の「情報」をどれだけ正確に集められるかという力を指します。

一流の選手は、ボールがくる前に何度も首を振ります。

味方の位置、相手のプレスの角度、そして「ハーフスペース」の空き具合など、彼らは目で見ているのではなく、脳内でピッチの3Dマップを更新し続けています。

次に「判断」です。認知で取得した情報を元に、一瞬で「最適解」を選ぶ力を指しています。

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「今は自分が囮になって走るべきか」「それとも、ここでパスを受けて相手を引きつけるべきか」。選手は、そうした選択を常に迫られています。

認知によって取り入れた情報や、練習の中で培った味方との連携、さらには味方選手の現在の状況や、事前分析によって把握した相手チームの戦術やプレー傾向を踏まえ、戦術的に正しい判断を下せる選手がいれば、チームは自ずと「数的優位」の状態へ導かれます。

■名パサー・遠藤保仁と中村憲剛の共通点

そして、最も重要なのが「移動(ポジショニング)」です。

足元の技術以上に、「いつ、どこに立っているか」がゲームの勝敗を分けると言っても過言ではありません。

例えば、相手ボランチの視野からフッと消えるような位置取りをする。味方のパスコースを作るためにあえて50センチだけ横にずれる動きをする。このような些細な移動やアクションでも、相手選手から一歩またはすぐには届かない位置にまでずれることができれば、一気にチャンスになります。

こうした「移動の質」が高い選手は、ボールを持っていない時間すらも相手を破壊し続けます。これを私は「動的な質的優位」と呼んでいます。

2015年以降、Jリーグではトラッキングデータが採用され、選手の移動距離やスプリント回数などがリーグ公式サイトなどに表示されるようになりました。

遠藤保仁氏、中村憲剛氏、青山敏弘氏など、ワールドカップメンバーにも選ばれたことがあるような国内屈指の名パサーと呼ばれる選手たちこそ、試合中に他選手よりも多く走っていることが証明されました。

彼らはピッチ上で首を振り続けながら、敵味方問わず情報をアップデートし続けて認知・判断を繰り返します。そして絶えず移動することで、味方とのパス連携を行える場所や、相手選手に奪われない立ち位置を見つけていたことがわかります。

「認知・判断・移動」に優れた選手が1人いるだけで、戦術は魔法のように回り始めます。これからは、派手なフェイントだけでなく、ボールがくる前の「首振り」や、パスを出したあとの「5メートルのスプリント」に注目してください。そこにこそ、現代サッカーが到達した「個の力」の真髄が隠されています。

■個の力でチームを救う働きができるか

では、「良い選手」とは一体どのような選手を指すのでしょうか。

毎試合得点を積み重ねるようなスーパーストライカー、敵陣内で相手の守備を何度も突破するドリブラー、針の穴のような狭い空間でも味方にパスを通すパサー、相手から次々にボールを奪うボールハンター、たとえ自らにボールがこなくとも90分間上下動を厭わない献身的なサイドバック、自陣で迫りくるピンチを体を張って守り続けるディフェンダー、味方に指示を飛ばしつつ、際どいコースに飛んだ相手のシュートをことごとくセーブするようなゴールキーパーなど、さまざまなポジションでさまざまなプレーで観衆を沸かせる選手たちがいます。

こうした傑出したプレー能力を備えた選手は、「質がある」と表現できるでしょう。

しかし、「良い選手」は単に質の高いプレーができるだけではありません。数的優位や主導権を握っている状況で力を発揮するのはもちろん、数的不利やスコアで劣る展開といった厳しい状況においても、個の力で不利をはねのけ、チームを救う働きができる存在です。

攻め込まれている場面でボールを奪いきったり、複数の相手に囲まれながらも突破やパスによって局面を打開したり、一本のプレーで流れを引き戻す力を持っています。

劣勢を跳ね返し、試合の流れそのものを変えられる選手こそが、「良い選手」だと言えるのではないでしょうか。

■戦術の進化で高まる「個」への要求水準

「戦術が進化すればするほど、個人の能力は二の次になる」。もしそう思っている方がいたら、それは大きな間違いです。

むしろ事実はその逆。戦術が緻密になればなるほど、それを実行する「個」への要求水準は、かつてないほど高まっています。

では、現代サッカーにおける「戦術を成立させる個の力」とは何を指すのでしょうか。

一つは、「戦術的負荷に耐えうる脳のスタミナ」です。

現代の選手は、90分間、常に状況が変化する中で「今、自分はどのレーンを埋めるべきか」「味方の可変に合わせてどこへ移動すべきか」という高度な判断を求められます。

写真=iStock.com/mesh cube
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技術的に優れていても、この脳のスタミナが切れて立ち位置を1メートル間違えれば、そこからチーム全体の構造がドミノ倒しのように崩れてしまいます。

つまり、「個の力」とは、極限状態でも「正解の座標」にポジショニングし続けられる知性のことを指すのです。

プロとしての一定以上の技量、シーズンを戦い抜ける継続能力に加えて、プロのスタメンに選ばれ続けるには、90分間攻守に動き続けられる脳のスタミナが必要になっています。

■名将の戦術を成立させる「個の貢献」も

二つ目は、「局面を強制的に解決する圧倒的な質」です。

ノーミルク佐藤『サッカーIQを高める サッカーシステム完全講座』(かんき出版)

戦術の目的は「効率よくゴールに近づくこと」ですが、どんなに完璧な崩しを見せても、最後は相手ディフェンダーとの「1vs1」、あるいはゴールキーパーとの駆け引きが待っています。

劣勢でも相手を剝がしきったり、ボールを奪いきったり、または強引にでもネットを揺らしたり、または、絶体絶命のピンチでも1人で守り切ってしまったり。先述した「良い選手」を指すと言っていいでしょう。

戦術とは、この「圧倒的な個」が、最も輝ける状態(例えば、得意な形での「1vs1」)を意図的に用意するためのお膳立てに他なりません。

「個」ではなく「組織」で戦うための戦術ではなく、「個」の価値を最大化させるための戦術。この主従関係を理解すると、スタープレーヤーの一挙手一投足が、チーム全体の知略の決勝に見えてくるはずです。

最後に、「自己犠牲という名の専門性」です。

「味方の+1を作るために、あえて自分が相手を引き連れてスペースを空ける」この動きは、スタッツ(数字)には残りません。しかし、この「数字にならない個の貢献」がなければ、どんな名将の戦術も成立しません。

現代の「個の力」には、チームの構造を支えるために、あえて黒子に徹することができるプロフェッショナリズムも含まれているのです。

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ノーミルク佐藤(のーみるく・さいとう)
サッカーデータアナリスト
本名・佐藤祐一。Lifepictureの創業者兼CEOとして、WEBマーケティングやコンテンツ制作にも精通。2018年よりYouTubeチャンネル「MILK SOCCER ACADEMY(通称:ミルアカ)」を運営。Jリーグや日本代表、海外サッカーを題材に、戦術・試合分析、移籍情報、選手の戦力分析などを“楽しく、わかりやすく”解説し、毎日複数本の動画を投稿。チャンネル登録者数は11万人を突破している。
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(サッカーデータアナリスト ノーミルク佐藤)