高齢の脳、リチウムでアルツハイマー病防げる可能性 25年研究

(CNN)ほぼ10年がかりの大規模な調査の中で、アルツハイマー病と脳の老化に関する多くの謎を解く可能性のある一つの鍵を発見した――ハーバード大学医科大学院の研究者らが昨年、そんな見解を明らかにした。その鍵とはごく平凡な金属、リチウムだ。
リチウムと言えば、医療の世界では気分安定剤として非常によく知られる。双極性障害やうつ病の患者がこれを服用する。米食品医薬品局(FDA)がリチウムを承認したのは1970年だが、医師らはそれよりも100年近く前から気分障害の治療に使用していた。
今回、研究者らは初めて微量のリチウムが体内に自然と存在することを明らかにした。細胞が正常に機能するにはリチウムが必要で、その点ではビタミンCや鉄分に非常に近い。また脳の健康維持にも極めて重要な役割を果たしていると考えられる。
2025年8月6日付の科学誌ネイチャーが伝えた一連の実験の中で、ハーバード大とラッシュ大の研究者らは、リチウムを大幅に減らした餌を与えた正常なマウスの脳が炎症を起こすのを突き止めた。老化の加速に関係する変化も発生したとしている。
特別な餌を与え、アルツハイマー病を患った人間と同種の変化が脳に及ぶようにしたマウスの場合、粘着性のあるたんぱく質の蓄積が加速した。これにより脳内でプラーク(斑)や繊維状の塊を形成するのがアルツハイマー病の特徴で、記憶力の低下にも拍車が掛かるという。
一方で正常なリチウムレベルを維持したマウスの場合は、年を取ってもアルツハイマー病と関係のある脳の変化を防ぐことができた。
より詳しい研究で今回の結果が裏付けられれば、アルツハイマー病の新たな治療や診断に向けた扉が開けるかもしれない。米疾病対策センター(CDC)によれば、米国では推計で高齢の成人670万人がアルツハイマー病を患っている。
今回の研究で人間と動物の脳細胞を詳しく検証し、遺伝子調査も行ったところ、進行中と思われるメカニズムが明らかになった。
アルツハイマー病患者の脳に蓄積するアミロイドベータプラークは、リチウムに結合し、それを抑え込む。通常体内に存在するリチウムにも、処方されたリチウムにもそうした作用が及ぶ。これにより近隣の細胞にとって利用可能なリチウムは枯渇する。脳内の重要な「掃除人」として知られる免疫細胞、ミクログリアに関しても同様だ。
脳が健康で正常に働いていれば、ミクログリアはアミロイドベータが蓄積し、害をもたらす前にこれを除去する。研究チームの実験において、リチウム不足のマウスの脳にいるミクログリアはアミロイドベータを除去、貪食する能力が低下していることが分かった。
ハーバード医科大学の遺伝学教授、ブルース・ヤンクナー博士は、これが悪循環を生み出すと考える。アミロイドベータの蓄積が一段と多くのリチウムを吸い上げ、それを除去する脳の能力がさらに失われていく。
ヤンクナー氏と同僚らは異なるリチウム化合物をテストし、オロチン酸リチウムがアミロイドベータに結合しないことを突き止めた。
脳にアルツハイマー病の兆候を示すマウスにオロチン酸リチウムを与えたところ、上記の変化は逆転。脳の記憶中枢を抑え込んでいたアミロイドベータと神経原線維変化は減少した。リチウムを与えられたマウスは、再び迷路を進むことができるようになり、新しい物体の認識が可能になった。一方、プラセボ(偽薬)を与えられたマウスには、記憶と思考の欠如に変化は見られなかった。
リチウムは自然界に存在する金属元素で、食物や水にも含まれる。
リチウムで気分が改善する仕組みは分かっていないが、リチウムをふんだんに含んだ温泉は治癒力があるとして、健康志向の人々が好んで訪れる。
一方で処方されたリチウムを服用することで、甲状腺や腎臓に有害な影響が生じる場合もある。
低用量のオロチン酸リチウムを与えられた上記のマウスに、そうした健康被害の兆候は現れなかった。しかし、マウスと人間は違うとヤンクナー氏は指摘。人間でも同じ結果を再現し、服用に適した用量を見極める必要があるとした。
ヤンクナー氏によると、通常人間の体内に存在するリチウムや今回マウスに与えられたリチウムの量は、双極性障害の治療で処方される量の1000分の1だという。
今回の研究は、アルツハイマー病に対するリチウムの効能を示唆した過去の研究を裏付けるものとなる。2017年に発表されたデンマークでの大規模な研究では、高レベルのリチウムを含む飲料水を摂取する人々は、通常の低レベルのリチウムを含んだ水道水を飲む人々と比較して認知症の診断を受ける確率が低いことが分かった。
22年に発表された英国での大規模研究でも、リチウムを処方された人々は対照群よりもアルツハイマー病の診断を受ける公算が半分に低下するとの結果が出ており、リチウムの持つ予防効果が示唆されていた。
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本記事は2025年8月8日初出の記事を再編集して掲載したものです。
