「風で粉じんが希釈される」屋外作業者らの“アスベスト”被害救済認めず 東京2陣訴訟でも
建設作業におけるアスベスト(石綿)ばく露により健康被害を受けたとして、元建設作業者や遺族らが国と建材メーカーに損害賠償を求めた「建設アスベスト訴訟」で、東京2陣訴訟の控訴審判決が5月28日、東京高裁で言い渡された。判決は原告の請求を棄却した。
同日、原告代理人弁護士らが都内で会見を開き、「極めて不当な判決」として上告する意向を表明した。(ライター・榎園哲哉)
判決言い渡し後、「不当判決」と書かれた旗が弁護士によって掲げられると、東京高裁前に集った原告・支援者らからは落胆のため息が漏れた。
東京2陣訴訟は2014年5月、アスベストばく露により健康被害を受けた作業者・遺族131人が原告となって、国と建材メーカーに損害賠償を求め、東京地裁に提訴された。
一審の東京地裁は2020年9月、原告らの請求を一部認容。国と建材メーカーの責任を認める判決を言い渡した。
その後、原告と被告の双方が控訴。2025年1月に東京高裁から和解案が提示され、同8月、原告のうち114人と建材メーカー5社との間で、和解が成立した。
しかし、屋外での作業者(板金工等)や建物の改修解体作業者(解体工、鳶等)の原告18人は、過去の最高裁判決でメーカーの責任が否定されていることを理由に和解の対象から外され、裁判に解決を委ねていた。
アスベスト被害、これまでに1万人以上の労災認定アスベストは、その安さや耐久性から防音材、断熱材として多くの建材に用いられてきた。しかし、繊維が極めて細く、研磨や切断などで飛散した繊維を吸い込むと、潜伏期間を経て肺がんや中皮腫などを引き起こすことが知られている。
建設作業者のアスベストによる労災認定件数は、2005年度からの累計で1万1000件を超え、「戦後最大の労災職業病被害」とも言われる。
2008年5月に首都圏で集団訴訟が提起されて以降、全国各地で国と建材メーカーらを被告とした同様の訴訟が続いた。現在では、北海道から九州まで合わせて14地域で訴訟が行われている。
2021年5月17日の最高裁判決では、国が規制権限を適切に行使しなかった責任と、建材メーカーの共同不法行為責任が初めて認められた。
最高裁判決の翌日には、菅義偉首相(当時)が原告団に謝罪し、その後、国と原告は基本合意書を締結。提訴していない被害者も救済の対象とする「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等に関する法律」が成立した。
しかし、この最高裁判決や、続く2022年6月3日の最高裁判決は、救済の対象を屋内作業者(大工、左官、鉄骨工、溶接工等)に限定し、屋外作業者や改修解体作業者については、メーカーの「注意義務」を認めない判断を示した。
「限られた事実認定の下で、しかも建設現場の実態を全く無視した不当な判決であり、絶対に克服していかなければならない」
首都圏弁護団共同代表の井上聡弁護士がそう語る最高裁判決だが、東京2陣訴訟の控訴審判決もこれを踏襲するものだった。
「予見可能性」「結果回避義務違反」いずれも否定今回の控訴審では、主に3点が争点になっていた。
①屋外作業者に対する建材メーカーの注意義務違反が認められるか
②改修解体作業者に対する建材メーカーの注意義務違反が認められるか
③一審で否定された原告1人の石綿肺が認められるか
判決後の記者会見で井上弁護士は、「最高裁判決を覆す判決を出してもらいたいと期待していたが、残念ながらこちらの主張が全て否定された」と報告した。
判決は、争点①の屋外作業について「風で粉じんが希釈される」ことを理由に、疾患の「予見可能性」を否定した過去の最高裁の論理を踏襲。
原告側は訴訟の中で、屋外での粉じん測定のデータも示し、「屋外だからといって安全ではない」と主張したが、認められなかった。
また、争点②の改修解体作業についても高裁は、建設から長期間が経過した後に行われることから、メーカーが警告表示などで被害の発生を回避する措置(結果回避措置)を取ることは困難だったと、こちらも過去の最高裁判決を踏襲した。
原告側は専門家の証言も提出し、「建材の裏面に押されたJISマークなどのスタンプは30年経っても残っており、同様に警告表示をすることも可能で、結果回避はできた」と主張したが、これも認められなかった。
アスベスト使用建物の「解体」ピークはこれから弁護団は判決を不服として最高裁に上告ないしは上告受理申立てを行う方針だ。
井上弁護士は、「今、地裁で審理が続く東京3陣、4陣、5陣訴訟など後続の訴訟で新たな立証を続け、最高裁の不当判決を乗り越えていきたい」と語った。
会見に同席した原告の吉田重男さんは、自身もびまん性胸膜肥厚を患いながら、亡くなった2人の兄の遺族としても訴訟を戦ってきた。「メーカーは、自分たちの建材が多くの人に重大な被害を与えているのだから、私たちの前に出てきて謝罪するのが人として当たり前だ」と語る。
アスベスト建材が使用された建物は、2028年から2030年頃に解体のピークを迎えるとされる。一般住民や建物利用者がばく露する可能性もある。
吉田さんは「解体工事で若い労働者、さらには近隣住民の方々が必ず吸い込んでしまう」として、予防措置の必要も訴えた。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。
